第43話 「誓いの式典」を満喫しようと思います


 フォロの後ろをアバウトはついていく。

 階段を下りて1階の奥にある作業部屋へ到着した。


「フォロ...これは...」


 作業台の上にあったもの。

 それは、集めればこぶしほどにもなる量の、エメラルドグリーンの結晶だった。


「こちらをご覧ください、アバウト様」


 それを見たアバウトは言葉を失った。

 前に見た滅魔閃光の花火の中身が、きれいさっぱり抜かれていたのだ。


「...」

「アバウト様?」

「これ...フォロが...?」

「はい、数日前」


 アバウトはそのショックから、フォロを鋭く睨みつけた。


「...なぜだ。オレでもわかったぞ、この花火玉を作る難しさ。スタンさんみたいなベテランでもできるかどうかだろ...なぜそれを壊した?」

「アバウト様。この花火玉はずっと前から壊れておりました」

「...壊れていた?」

「はい。今ではもう使えない状態だったのです」

「どういうことだ?フォロ」


「スタン様のご判断でした。花火玉に詰められた火薬ですが、長時間にわたる保存でしっけていました。これでは霊力による点火が難しく、実用不可能ということでした」


「そうだったのか...悪かったな、少し感情的になってしまった」

「いえ、お気になさらずに。それに、いらっしゃるじゃないですか。この花火玉に火薬を込められる、天才的な武具職人様が」

「え、でも...だってスタンさんは...」

「そのスタン様がおっしゃっていましたね。わしを超える武具職人になるじゃろうって」

「...それってもしかして」

「はい、アバウト様。16歳にして魔王にまで上り詰めたあなた様なら、いずれできましょう」

「フォロ...!」


「ということでまた、明日からみっちり職人魂を教え込んで差し上げます」

「フォロ~!優しくしてぇ~」


 そして数日、アバウトはフォロから武具づくりの技術を叩き込まれた。




「お兄さ~ん、おきてくださ~い」

「ぬっ...」

「あ、起きた。おはようございます、朝ですよ~」

「...おわっ!」

 アバウトが目を覚ますと、隣にはバリエルがいた。


「今日は誓いの式典ですよ~」


 誓いの式典。

 魚見塚展望台で1年に1回開催される、戦没者を追悼する献灯の式典だ。


「楽しみだねぇ、アバウトくん」

「はい...って、え!?」

 背後から聞こえてきたのは、あの人の声だった。


「せ、セレナさん!?」

「おはよう」

「あ、おはようございます」

「うん、おはよう」


「...え?なんでここに?」

「アバウトくんたちを迎えに来たんだよ」

「式典って夜じゃないんですか?今まだ朝早いですよね」


「式典自体は19時から始まりますが、日中は出店とか音楽イベントとかで盛り上がるんです」

「へー、お祭りみたいなものなんだ」

「はい、だから一緒に行きましょう!」




 アバウト、フィレ、バリエル、タゼルとルベル。そしてなぜかセレナ。

 6人は守護の庭を出て30分ほど歩き、誓いの丘へと到着した。


 短い芝生の生えた大きな広場。

 アバウトは1か月ぶりにこの場所へやってきた。

(エレナと女神像に誓った、はずなんだけどな。トホホ...)


 エレナとはあの日の集会以来、話せていない。



「今年もにぎわってますね」

「そうだな。出店もかなり増えているようだ」

 バリエルとフィレの言葉遣いは外出モードになっている。


「あ、アバウト兄たちだ。やっほ!」


 声のする方向を見ると、ミアがこちらに手を振っていた。隣の女の子はこちらにぺこりとお辞儀をする。一緒に式典に参加するようだ。


「おー、来てたかミア!お友達も初めまして」


 女の子はもう一度ぺこりと頭を下げる。物静かで照屋さんな感じの子だ。


「ミアたちも来るの早いな!ってまあ、もう昼前か...」

「うん、今日の13時から音楽ライブやるからね!」

「そうかー、なんかおすすめのアーティストとかいるの?」

「ラインとキンがいるとこ!」

「え!?ラインとキンって、守護者の!?」

「そう、毎年すごいんだよ~。よかったらアバウト兄も見るといいよ!」

「まじか!楽しみだな~」



「射的ある~!」「ルーもやりたい!」

 タゼルとルベルは大はしゃぎである。

 毎年スタン爺に連れてきてもらっていたようで、1年に1回のこのイベントを楽しみにしていたようだ。


「あはは、それでは私が2人を連れて行こう。アバウトたちは好きに回るといい」

 フィレは気を利かせてくれたようだが...


「いやいや、オレも行きますよ!射的興味あるんで!」

「そうか...じゃあ一緒に行こうか」


 フィレはクールな表情ながらも、少し嬉しそうである。


「アバウトくん、やるね~」

 セレナはアバウトの肩をポンッと押しながら言う。


「普通に興味があるんですっ!」

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