第42話 「最高の素材」を満喫しようと思います


ガサゴソ。

ガサゴソ。

ガタッ!


「アバウト様...」


 主が留守のうちに、勝手に主の部屋に入ってきた最強メイド。

 ちっとも悪びれる様子はない。


 そんな彼女は引き出しを開け、あるものを見つけた。

「こんなところにしまっておくなんて、いけないお方です」


 そういって彼女が指でつまみ上げたのは、霊力に包まれたエメラルドグリーンの結晶。彼女はポケットにそれをしまい、特に意味はないけど不敵な笑みを浮かべた。


 特に意味はないけど。




「あのー、ただいま戻りました...」


 守護活動が終わり守護の庭に到着したアバウト。

 フィレがいるかもと思い緊張しながらの第一声だったが、出迎えたのはフォロだった。

「おかえりなさいませ、アバウト様...本日はその...大漁ですね」


 フォロの言うとおり、アバウトの両手には大量の魚の入ったケースが。

「そうなんだよフォロ。実はさっき———」


 アバウトは事情を説明した。

 子猫をシフのいる魚屋に届けたところ、その子猫こそが探していた猫だった。

 シフはそのお礼にどっさり魚をくれたというわけだ。


「調理は私にお任せくださいませ。本日はスペシャルなディナーをご用意いたします」

「あ、え、でも...」

「ご安心ください、アバウト様。この1週間、お料理を猛練習いたしましたので」


 アバウトは耳を疑った。

 料理が苦手だったフォロが、1週間で「ご安心ください」レベルに!?


「こんなこと聞いちゃ悪いんだけど...ほんとに大丈夫なのかな?」

「お料理上手な方に1から教わったので、私にお任せください」


 アバウトは知っている。この最強メイドの、異次元なまでの適応力を。

「じゃあ、お願いします」

「かしこまりました」


 そう言ってフォロはペコっと頭を下げ、それと...と続けた。


「アバウト様。宝探しゲームをしましょう」

「えっ、あー。今はいいかな」

「しましょう、宝探しゲーム」

「いや、ちょっと今は...」

「...」


 アバウトがフォロに目を向けると、有無を言わせぬ顔でこちらを凝視していた。


「はあ。わかったよフォロ。やろ」

「ありがとうございます、アバウト様」



 次の瞬間にはアバウトは守護の庭の2階にいた。

 そして目の前には、キラキラと輝く細かな粒が無数に入った箱が置かれていた。


 それを見た瞬間、アバウトはあることに気が付いた。


 1個だけ霊力を帯びた粒が混じっていたのだ。

 エメラルドグリーンの。


「...隠してたの、やっぱりバレましたか」

「はい、アバウト様。前から気付いていましたが、少し泳がせてみました」


(主に「泳がせた」とか言うな!)

 そうは思いながらもアバウトは、ちょこんと正座に座り直した。


「なぜ隠していたのですか」

「それは...」

「それは?」

「...特に理由はないです」

「アバウト様、なぜ先ほどから敬語なのですか?とても気になります」

「隠してたこと怒ってるかと思いました」

「はい、私は怒っています」

「...とりあえず泣いてもいいでしょうか」

「泣くのはお待ちください、アバウト様。主に相談していただけなかったことに対して悲しみに暮れる私が、先に泣かせていただきます」


 そしてフォロは数秒間、ふぇーんと泣くふりをした。

「ありがとうございます。お次はアバウト様の番です」

「あ、やっぱいいです」

「そうですか、わかりました。ところで、あの結晶についてですが」


 フォロはアバウトをまっすぐ見た。

 アバウトは改めて背筋を伸ばす。


「武具の最高の素材であることを、アバウト様はご存じでしょうか?」


 エルミナイト。

 霊力が雨水と反応して化合した、エメラルドグリーンに輝く結晶。

 これが武具に使えるというのは...



 フォロはスッと立ち上がり、アバウトへ言った。


「ついて来てくださいませ」


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