第41話 「片隅の記憶」を満喫しようと思います


 エレナはクレアと合流。


「ね、エレナちゃん...あの、アバウトくんと何かあったのかな...なんて」

「まったく、アビーったら」

「ひっ!お、怒ってる...」

「怒ってないよクレアちゃん。アビーもその...一応ごめんとは思ってるみたいだし」

「そ、そなんだ...」

「ね、クレアちゃん。はじめて一緒に活動するわけだし、いろいろ話そ!」

「...うん!」




 アバウトもフィレと合流。

 本日の守護活動を開始した。


「フィレさん...どうしましょ」

「どうかしたか、アバウト」

「...あれ?やっぱり家での話し方と違い...ますよね?」

「あ、えと...」


 アバウトに近づき、フィレは静かにささやいた。

「ほら、指揮官としてしっかりしなきゃだし。でも家ではその...自分でいたいというか」


(あ、そっちが素のフィレさんなんだ)


「やっぱり変...かな」

「指揮官のフィレさんはかっこいいし、家でのフィレさんはかわいいです。だからどっちもいいと思います」


 あまりにストレートな言葉に、フィレは照れ隠しの咳払いをした。


「と、ところでだなアバウト。どうしましょ、とはどういうことだ?」

 声の大きさが元に戻った。


「エレナのことか?さっき集会で何かしていたようだが...」

「あ、やっぱりバレてました...よね」

「当たり前だ」

「すみません」

「それはいいんだが...どうかしたのか」

「ここで問題です」

「あ、はい」

「いまからオレが閃華武具“線香花火”を披露します。色をあててください」

「あ、あぁ。構わないが」


 アバウトは線香花火に霊力を流し込む。ほぼ同時にフィレは色を言った。

「あお」

 目の前で輝くのは、青い線香花火であった。


「え、これって普通ですか?」

「いや、閃華武具を扱う人ならわかるかもしれないが...」

「そう、ですよね...」

「それがどうかしたか?」

「それがですね、エレナに当てられてしまいまして...」

「色を当てられたのか...それは妙だな。エレナが使うのは光焔武具だからな」

「あの」

「ん?」

「ちなみに、この花火が消えるのって...」

「あと5秒ってとこだな」


 5秒後。線香花火の火球は落下した。

「アバウト、まさか...」

「はい。エレナはこれも当てたかもしれません」

「当てたかもしれない?」

「はっきりと何秒後といったわけではないのですが、全てお見通しという感じでした」

「そうか...。まあ、落ちるタイミングは霊力が切れるタイミングだから、予想はできなくもないのだが...色については何とも言えないな」

「そうですよね。ありがとうございます」



「あらフィレちゃん、ちょうどいいとこに」

 こちらに手を振るのは、市場唯一にして特大の魚屋の店主。

 フィレは一瞬面倒くさそうな顔をしながらも、すぐに笑顔を向けた。


「こんにちは、シフさん。どうかなさいましたか?」

「うちの猫が外に行っちゃってよぉ、どうも見当たらねぇんだ」

「またピーちゃんの行方知れずですか~。まあ、見つけたら連れてきますね!」

「助かるよ~。あ、お隣にいるのはボーイフレンドかい?」

「え、あ...はは、違いますよ~」

「兄ちゃん、フィレちゃんかわいいでしょ。いい子だよ~」

「はい、そのとおりです!」

 アバウトはシフの言葉に即答する。


「いいねえ~兄ちゃん。きみたちお似合いだからさ、もしそうと決まればウチでお祝いだな!はっはっ」

「あははっ、その時はぜひお願いしますぅ~」

 アバウトはそう言い残し、フィレと共にその場を去った。



 市場を抜けて少し開けたところまで来ると、フィレは周りの様子をうかがい始めた。

 誰もいないことを確認して、アバウトを呼ぶ。


「...ねえ、アバウトくん」

「はい?」

「さっきの“その時はぜひ”ってやつなんだけど...」


 話し方は守護の庭にいるときのものに戻っている。そして少し顔が赤い。

「あれって...本気にしてもいいの、かな」


 アバウトは少し考えたあと、理解した。

(シフさんだっけ?確かオレたちをお似合いって言ってたよな...まさか!?)


「アバウトくんにはエレナちゃんがいるってことはわかってるの」

 アバウトと向かい合うフィレは、まっすぐ彼を見つめている。


「でもね、アバウトくん。私も君に、特別な感情を持ってるの。前に君に助けられたから...」

「えっ!オレが助けた、ですか?フィレさんを?」

「思い出してくれると嬉しいな」


 そう言ってフィレは、浴衣のポケットからあるものを取り出した。

「これあげる。じゃあね」


 そう言ってアバウトに渡した、というより半ば強引に押し付け、走り去っていった。

(あぁ...行っちゃった。で、これは...?)


 手のひらに置かれているもの。

 それは布製のお守り袋のようであった。

(中を見てみるか...)


 袋の口を緩めてみると、見えたのは黒くて硬そうな破片であった。

 そしてほんのかすかにではあるが、袋を開けた瞬間、魔力の気配がした。

(なんだ、これ...いや、でもこれどっかで...)


 頭の隅っこにありそうなその記憶を思い出そうとしてみるが、ピンとくるものはない。

 それより気になったのは、さっきのフィレの言動だった。


(フィレさん、なんか照れてた!?ちょっと...かわいかった)


 あと考えるべきは、守護の庭に戻ったあとの、フィレへの第一声。

(普通にただいまか?それとも思い切って「さっきはかわいかったです」?あーもう、)


「どうすればいいんだーーー!」


 アバウトが思わず叫んだその声にびっくりしたのか、1匹の子猫が建物の隙間からひょこっと顔を出した。その瞬間に、アバウトのやることが決まった。


(よし、この子をさっきの魚屋に連れて行こう)

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