第40話 「予言」を満喫しようと思います


「おはよう守護者のみんな。今日も集まってくれてありがとう...おや、今日はアブスとラテもいるみたいだ」


 噴水広場にて。

 やはりフィレさんといえば、守護者を統べる凛とした態度だ。

 守護の庭で同棲している彼女は一体...?


「すんません」「ごめんなさい!」

「まあそう謝ることはない。それに前回、タゼルとルベルを助けたのも君たちだそうだしな」


「え、いや———」

「はい!助けました!」

「ちょ、ちょっとラテ。嘘はまずいんじゃないかな」

「大丈夫だって。きっと魔王先輩?って人が私たちの手柄にしてくれたんだよ」


「何をこそこそ話しているのか気になるところだが...まあそれは良しとしよう。さて、本日の守護活動についてだが———」



 ところで...。

 アバウトはフィレの話の少しも耳に入ってこない様子である。



 隣にエレナがいるからだ。

 エレナはまっすぐフィレのほうを見て、話をしっかり聞いている。


(うっ、気まず...!)


 ただ、気付いたことがある。

 隣に近寄ってきたのは彼女のほうなのだ。

 そして彼女、ときどき横目でアバウトをチラチラ見てくるではないか。


「あの...エレナさん...」


ぷいっ。


(あーー!)

 作戦1 話しかける...失敗。



 ならば。

 アバウトは一歩彼女へ近づき、そっと手をつな...


「触らないでくれるかな、元魔王さん」


(いやぁぁー!)

 作戦2 スキンシップ...失敗。



(こうなったら!)


 アバウトは閃華武具“線香花火”を取り出す。

 エレナのシンボルカラーである、黄色の花火。

 


「バリエル、キン、ラインは市場の———」

 フィレはノワールの守護者たちに、守護活動の担当地区を割り当てている。



「あの、エレナさん...オレからのメッセージです」

 線香花火に霊力を込める。その瞬間。

 エレナは静かにつぶやいた。


「きいろ」


 そして線香花火はパチパチと音を立て、黄色く輝きだした。

 空中にハートマークを描こうとしていたアバウトの手は、ぴたりと止まった。

「...え?」


 いま、確かに「黄色」って...



 そして数秒の時が流れる。

 やがてエレナは口を開いた。


「ねえ、メッセージは?」

「あ、はい、ただいま!」


 アバウトが手を動かそうとしたその瞬間、線香花火は火球を落とした。


「あ」


 アバウトは恐る恐るエレナに目を移す。

 エレナの視線はもう、フィレのほうを向いていた。


「———それじゃ、今日もよろしく頼むぞ」


 いつの間にか、フィレの話は終わっていた。



「アバウト。さっき言ったとおり、今日は私と見回りだ。こっちへ来たまえ」

「は、はい」


 ナニモキイテナカッター。


 エレナは守護者の1人、クレアのほうへ歩いていく。何か言わなければ!

「エレナ!この前は本当にごめんなさい!怖い思いをさせてしまった!」


 エレナは何も言わず、その背中はただ遠ざかっていくばかりであった。

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