第39話 「あーん」を満喫しようと思います
「おはよ、お兄ちゃん」
「うーん...うわっ!」
目が覚めたら守護の庭の2階。そこまではいいのだが...
「ば...バリエル...ちゃん」
「おっはっよ」
寝ているアバウトに馬乗りになって起こしにきた美少女がいたのだ。
「おはよう...ございます...」
「あはっ、なんで敬語なのです~?」
顔をぐっと近づけ、いたずらっぽく微笑んでくる。
14歳にしてこのお色気!耐えろアバウト!
「バリエルー、アバウトくん起きた?」
1階から聞こえてくるのはフィレの声である。
「ご飯の時間ですよ、お兄さん」
「は、はい!ただいま!」
食卓を囲むのはフィレ、バリエル、アバウト。そしてタゼルとルベルの5人だ。
「フィレさんのごはんおいしいー!」
「よっ、フィレシェフ!」
「フィレシェフ!」
タゼルとルベルはこの1週間元気がなかったが、フィレとバリエルが守護の庭に来てくれたことで、笑顔を取り戻してきていた。
「当たり前です。だってノワールを代表する天才、フィレ姉さまですから」
「えっへー、そうかな」
「...カラオケの」
「なっ!!」
「くくっ」
バリエルはフィレのカラオケいじりを始めた。
どうやらこの2人、家の中だと力関係が逆になるようだ。
「フィレ姉さま!」「フィレ姉さま!」
タゼルとルベルは喜んでいる。
バリエルのカラオケいじりに思わず「ぷっすーw」と吹いてしまったアバウトは、次の瞬間には血の気が引いた。
フィレがこちらに向かって鋭くにらんできたからだ!
顔は真っ赤に染まっていたが。
「アァッ!ソウイエバ、アトイッシュウカンデチカイノシキテンデスネ」
(訳:ああっ、そういえば、あと一週間で誓いの式典ですね)
アバウトは必死に話を逸らした。
「そうですねぇ、よろしければご一緒しましょう、お兄さま」
「おにぃ...!」
「でもバリエルー、アバウトくんにはエレナちゃんが...って、そういえばエレナちゃんと何かあったの?この前は少し...その...」
微妙な距離感だったと。
「あ、実は...」
アバウトはシャドウピーク山で起きた出来事を話した。
「なるほどです、それでエレナさんはお兄さまを怖がっていると」
「お、お兄さまって...」
「えぇ、ダメですか?はい、お口あーんしてください」
「えっ、ちょっ...あ、あーん———」
「ちょっとバリエル、アバウトくん困ってるでしょ」
「えぇ、困りましたか~?アバウトお兄さま」
目の前には甘くておいしそうな玉子焼き。
アバウトは返事に困った。
それを面白がりつつ、バリエルは言った。
「まあ、それなら一緒に参加するのもいいですね、誓いの式典」
「は、はい!」
アバウトはフィレとバリエルと一緒に式典へ参加することになった。
(そうそう、誓いの丘といえば...)
アバウトは洞窟を見つけるきっかけとなった、エメラルドグリーンの結晶のことを考えていた。
(あれ、持って帰ってきちゃったんだよな...)
そう。
あの輝く結晶はいま、アバウトの部屋の引き出しの中に入っている。
「あ、ところでアバウトくん。フォロちゃんっていつもどこにいるの?」
ふとフィレは思い出したように尋ねた。
そしてそれはアバウトも知りたかったことだ。
アバウトが魔王をやめてからというもの、必要なとき以外は彼女の姿がいつも見えないのだ。
「それがわからなくて...いつも部屋にいないですし」
「そうなの...よかったらフォロちゃんも一緒にって思ってるんだけど」
誓いの式典のことだ。
「はい、ありがとうございます!誘ってみます」
結局バリエルはあーんをしてくれて、アバウトは満足した。
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