第38話 「引っ越し」を満喫しようと思います


「ぅえへ~ん!」


 号泣しながらアバウトの元へ走ってくる人物がいた。

「ねえアバウトく~ん、守護庭に泊めてくれないかなぁ~」

「え、フィレさん!?どうしました急に!?」


 ノワール指揮官のフィレである。後ろには彼女の妹であるバリエルもいる。

 2人とも膨大な量の手荷物を抱えているようだ。


「はあ。姉さまがうるさくしたからですよ、部屋追い出されたの」

「だってだってぇ~」

 指揮官としての彼女とはまるで違う、かっこよさのかけらもない女の子であった。


「な、なにがあったのですか?」

 アバウトが尋ねると、バリエルは答えた。

「姉さまの1人カラオケがうるさすぎたようです」

「え、カラ...オケ...?」


 意外なことに、フィレはよく1人で熱唱しているのだ。


「アバウトくんお願いだよ~!」

 きゅるんとした目で懇願してくるものだから...


「あーあ、わかりましたってば!いいですよ泊まって」

 アバウトは折れた。

「ありがどぉ~」


 そして同時に思った。

(あ、これエレナにバレたら終了だな!あははっ!)


 こうしてアバウトは、フィレとバリエルとの共同生活を始めることとなった。

 それに伴い、生活の拠点をエリシアの灯から守護の庭へ移すことになった。




「ノーティ。ミア。エレ...セレナお姉さん。1か月間お世話になりました!」

「こちらこそありがとうアバウト兄!ときどき守護の庭行くからね!」

「じゃあね、アバウトくん。また遊びに来なよ。あとまたエレナって言おうとしたでしょ」

「してないです」

「もう、アバウトくんったら」

「すみません」


「...」

 ノーティはずっと黙っている。


「あの...ノーティさ———」

「エレナを傷つけたおまえを許さない」

「すみませんでした!!」


 アバウトはダメもとで聞いてみることにした。

「あの、直接謝りに行きたくて、よろしければエレナの住所を———」

「教えるかバカ」

「ですよねー!!」


 やはりダメだった。


「じゃあ、アバウトくん。武具職人、応援してるよ」

「...はい!ありがとうございます!エレ...セレナさん」

「おいてめえいい加減にしろよ」

「あーんっ、すみませんでした—!」


 最後の最後にセレナまでキレさせたアバウトであった。

「じゃあねーアバウト兄~!」


 ミアだけはいつまでも手を振り続けてくれた。ぐすん。

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