第37話 「謝罪」を満喫しようと思います


 それから1週間近くが経過した。

 アバウトはこれまでの間、スタン爺の技術継承を受けたフォロから、武具の基本を学び始めていた。


 あれからエレナはずっと、守護の庭へは訪れていない。




「...てなわけで、エレナと最近会えてなくて」


 昨日。エリシアの灯にて。

 ここ数日エレナと会えていないアバウトは、セレナへ相談を持ちかけた。


「あらら。それはアバウトくん、やっちゃったね」

「ですよね...」

「それはエレナちゃんが怖がるのも無理はないわね。今まですぐ隣にいた人が、急に文字どおり眼の色変えて襲ってくるのよ?」

「...はい」

「やっぱり直接謝るのが一番よ」

「メッセージをしてみたんです。もう一度会って謝りたいですって。そしたら——」

「そしたら?」


 アバウトは大きく息を吸って答えた。


「既読が付かないんです~!」

「あらら」

「せめて住所がわかればとも思ったんですけど、ノーティにも聞くに聞けないし...」

「それもそうね」


 アバウトは藁にもすがる思いでセレナへ泣きついた。

「どうにかできませんかねぇエレ...セレナ姉さまぁ!」

「う~ん...」


 少しばかり考える仕草をしたセレナは、やがて口を開いた。


「詰みね」

「うわーん!」

「あとまたエレナって言おうとしたでしょ」

「...してないです...ぐすん」




 そして今日。


(はあ。やっぱりエレナに悪いことしちゃったよな...)


 意外に繊細なアバウトは、少しずつ慣れてきた作業をしながら、セレナとのその会話に落ち込んでいた。


 そんな時...。


「よっ、アバウト」「おひさ!元気してた?」

「あ、あなたたちは...!」



 守護の庭へ訪れた女子2人組。


「メリッサさんとセリーヌさん!」


 試験前日、アバウトたちが宿泊した宿でばったり会った、同じく試験参加者だった2人である。スタン爺のことはノワールの街の外にも広まり、2人はここへ訪れたのであった。


 フォロは「どなたたちですか?」という表情でアバウトを見つめている。


「フォロ、試験の時に同じだったメリッサさんとセリーヌさんだよ」


 するとフォロはおっ、と気付くような表情をして、

「初めまして。アバウト様に仕えるメイド、フォロと申します」

と自己紹介をした。


「すみません。紅茶サイダーなくって...普通に紅茶でいいですか?」

「アバウトわかってる~!ありがとう、紅茶でお願い」

 アバウトは湯を沸かし始めた。


「すごい武器職人だったって聞いたけど...」

「そうですね。正確には武具を作る職人さんでして、ノワールの守護者が使う武具のほとんどはスタンさんが作ったものだそうです」

「そ、そう...」

「でも、オレがその意志を受け継ぎます。この守護の庭で武具を作るんです!」


 歯切れが悪かったメリッサとセリーヌも、アバウトの前向きな様子にホッとした。



「あのね、ウチらアバウトに謝りたくって」

「謝る?何をですか」


 セリーヌは続けた。

「だから、その...キミたちを見下しようなことしちゃって」


 宿でのことだろう。アバウトがノワール出身であることを伝えた直後に、彼女たちはその場を去っていったのだった。


「で、でもねアバウト。今はそんなこと全く思ってないの!」

 メリッサは慌ててアバウトに気持ちを伝えた。


「試験の時、ウチらアバウトのおかげで助かったじゃない?ノワールの人たちって、あんなに正確で強い攻撃ができるなんで知らなかったの。だから、ホントごめん!」

「ごめん!」

 手を合わせて謝るメリッサに続き、セリーヌも謝罪する。


「気にしないでください。ほら、紅茶できましたよ」

(あの試験マジで記憶ないんだよなぁ)


「ありがとう...あ!お菓子まで出してくれて!ほら、これメルの好きなやつじゃない?」

「ほんとだ、やるねアバウト」


 主が褒められたことを目の当たりにして、フォロはエッヘンしている。


「あ、ところで2人は試験どうでしたか?」

「ウチらは~」


 少し間をあけ、2人は同時に言った。


「合格した!」

「ケーキを買ってまいります」


 フォロは即座に反応した。

 作るんじゃないんかい!と思いつつも、フォロが自分の料理スキルを自覚しているようで、アバウトは安心した。


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