第33話 「魔力全開!」を満喫しようと思います


 ノワールの守護者たちは噴水広場へ集まった。

「タゼルとルベルの行方がわからないとの知らせが来た。今からみなで手分けして捜索を始める...はあ。昨日に続き、今日もアブスとラテは不在か。誰か知っている者はいるか?」

 守護者たちは首を横に振る。

「そうか、後で私から伝えておこう。今日は厳しくな」

 アブスとラテはお叱りが決定した。

「それでは担当の地区で聞き込みを頼む。何か有益な情報があれば遠慮なく連絡してくれ」

 大きな返事が響きわたり、守護者たちは解散した。




 山を恐るおそる進んでいく兄妹がいた。

「...ねえ、タゼル。ほんとにここって、大丈夫なんだよね?」

「あ、ああ。ルベル。だって俺たち、今まで訓練してきたじゃないか」


ぐわーーっ!


 日中でも暗いこの山に、大きな咆哮が響いた。


「あ、あ...」

「どうしたタゼル?」

「あれ...」


 タゼルが指をさす方向にいたのは、魔力で身を包んだ魔物であった。


「る、ルベル...大丈夫...オレがついてる...から」

 声にならないほどその声は小さく、そして震えていた。


 ギロリ。


「ひっ...!」

 2人は魔物と目が合ってしまった。

 魔物は一歩一歩こちらへ近づいてくる。

 そして...!


ぐあーっ!!


 魔物が飛びかかった!


(もうダメ...!!)


 そして、2人の近くに茂っていた草をむしゃむしゃ食べ始めた!


「...あれ?」

 2人は混乱した。この魔物は草食だったようである。


 そんな2人と1匹は、より大きな魔の気配が接近していることに、まだ気付いていない。

 鋭い牙の生えた、見るからに肉食のその魔物は、爪を立てて2人へ一直線。

 危ない!2人と1匹!!


スパァン!


「...!」

 音に気付いて振り向き、2人は青ざめた。魔物の胴はきれいに真っ二つに分かれていた。



「よおちびっこぉ」

「わーっ!」「うわー!」


 どこからともなく現れ、突然2人に話しかけたのは、魔のオーラを全開に放った女性であった。

「なーんてな!ねね、きみたちって迷子?迷子でしょ。いいぜ?ついて来な」


 2人にしゃべる隙も与えず、その女性は近くの洞穴まで歩き、腰を下ろした。

「いや~、それにしてもきみたち、なーんであんなとこにいたのさ?」


 彼女の後ろをついてきたタゼルとルベルも腰を下ろす。緊張からか、体育座りをしている。

「お、俺たち訓練した!...1か月間。だから...山に入ってみたくなって」

「ほえー、つまり特訓の成果を試したかったわけですな」


 そう言って女性はスタッと立ち上がった。

「よしっ、われが相手をしてあげようぞ」

「え、でも...」

「安心なさいな、さきのように強くはやらん」

「やっぱりあれは、あなたが...?」

「そのとおりだ少年。あんなのは敵ですらないぞよ」

「すごいです!俺を弟子にしてください!」

「ルーも弟子になりたい!」

「おー?やる気になりおった。ならば、この勝負できみたちが勝ったらそうしてやろうぞ」


 タゼルとルベルは下級武具を手にし、魔力を自在に操るその女性との勝負を開始した。




 アバウトとエレナが山に入って数十分。2人はあるものを見つけた。

「ねえ、エレナ。これ」

 アバウトの中に封印された魔力が、激しく反応している。

「す、すご...」


 2人が目にしたのは、真っ二つに切られた特大の魔物であった。すでに息をしていないようではあるが、魔力は留まっている。そして攻撃者から受けた魔力も、その切断面にかすかに残留していた。


(この特徴的な魔力...まさか!!)


「シャドウピークにはこんな魔物がいるんだね」

「そうだねエレナ。もう少し先に行ってみようか」

「うん!」

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