第30話 「勝利の夜」を満喫しようと思います


 テラナスに勝利した今。

 カイ海の砂浜では、国境を越えた花火大会が行われている。

 これらの花火は、事前にスタン爺とフィレが作ったものである。


「どうぞ」

「おお、サンキュ!」

 火種はノワール守護者の花火から、テラナスの兵士へと順に行き渡っていく。


「そっちの仮面坊や、結局どうなったんだ?」

 ラインがテラナスの兵士に尋ねた。

「エムさんのことか?あの人はダリウスがいないとダメなんだよなー」

「ダリウス?誰だ、それ」

「エムさんの執事みたいなもんだよ。そうはいっても、世話役って感じだがな」




 アバウトは1人で砂浜に腰を下ろした。

 あたりを見回すと、キンやほかの守護者もテラナスの兵士たちと手持ち花火を楽しんでいた。


「やろ?」

 そう言ったエレナの手には、1本の花火。

「ありがと」

 アバウトは霊力との摩擦で先端に火をつけ、エレナの持つ花火へ移動させる。

「おぉ、かなり使いこなしてるね~」

「へへっ、まあな」

 エレナもできるくせにと思いつつも、悪い気はしない。

 2人で1か月間ともに歩んできた結果だからだ。


「なあ、エリー」

 突然のエリー呼びに、エレナの心は飛び跳ねた。

 そして同時に、何かが始まる予感がした。


「なに、アビー」


 エレナの返事にアバウトは優しく微笑み、口を開く。

「もしエレナのその花火がオレのより長く続いたらさ、」


 そしてアバウトは、少し緊張した彼女の、かわいらしい顔を見つめて続ける。

「オレと付き合ってくれないか」

 

 エレナの表情は緊張から驚きに変わり、そしてパッと笑顔が咲いた。


 そしてその直後、彼女はアバウトの花火にふーふーと息を吹きかけ始めた。

「ちょ、ちょっとエレナ!?何してる!?」

「だってダメって言ってないでしょ!」


 アバウトが慌てて自分の手を引いた瞬間...


「あっ」「あっ」


 ついうっかり手が滑ってしまい、アバウトの花火がグサッと砂浜へ刺さったのである。その拍子に、アバウトの花火の鎮火が完了した。

 2人は見つめ合い、そして盛大に笑った。



 ひと通りお腹を抱えたあとで、アバウトはもう一度エレナを見て、改めて言う。


「オレと付き合ってください」


 間もなくエレナは笑顔のまま言った。

「はい、喜んで」


 そのとき夜のカイ海に、特大の水中花火がその花を開かせた。

 そして花火大会のスターマインのように、その日一番の光景が目の前に広がった。




 手持ち花火をワイワイ楽しむ者、1人で砂浜に寝そべりながら見ている者、アバウトとエレナのように手を繋いで座りながら見る男女。



「これは...どういう状況だ?」

「どういう状況...でしょう」

 テラナスからの奇襲を悟り助太刀に来たレアデルとシスタンは、海岸で行われている花火大会を目にしてつぶやいた。


「本当にフィレは何をするかわかりませんね」

「わかんねえのはフィレというよりノワールそのものだろ」

 グランパスとリオネルも彼女たちと一緒に様子を見にきたが、やはり状況がのみ込めないでいる。


 そしてその日最後の一発は美しく水面を照らし、まるでアバウトとエレナを祝福しているかのようだった。




 家に帰ったアバウトはどっと疲れが来たのか、ベッドに倒れこんだ瞬間に眠りについた。


 勝利の知らせのチャイムが街中に響いたのは、ちょうどそのときだった。





********


ご愛読いただきありがとうございます!

いよいよ明日で「テラナス戦」編が終了となります。

全6話、お楽しみいただけると幸いです。


そこで!

明日は満喫小噺2の投稿も予定しています。

この作品をよりお楽しみいただくための裏話などをご用意いたします。


ぜひご覧くださいね!


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