第29話 「花咲く初陣」を満喫しようと思います
「アバウト様、何をぼーっと突っ立っていらっしゃるのですか。参加しないのですか」
「うっ...そうは言われてもだな」
フォロは先ほどから、ずーっとアバウトの隣で様子を見ている。
「許可をいただけるのなら、敵全員を5秒で葬りますが...」
「やめてやめて!ここノワールだから、そんなことしたらダメなの!」
「そうですか...」
最強メイドはしょぼんとしている。
空高くに緑色に光る弾が撃ち上げられたと思ったその瞬間、2回の爆発音が夜空に響いた。フィレからの情報伝達弾である。
「アバウト!作戦変更の合図です!煙幕が晴れそうなので火薬の準備をしてください!」
バリエルの指示に、アバウトは「はい!」と大きく返事をする。
「アバウト様、いよいよ出番ですね」
フォロは主の活躍を今か今かと待ちわびていた。
「おう、見ててくれ、フォロ!」
すぐにアバウトは乱閃弾と電光飾の準備を完了させた。そしてバリエルは言う。
「アバウト出撃!エレナ、援護よろ———」
バリエルがアバウトとエレナに目を向けると、2人はすでに動き出していた。
(言わなくても大丈夫、ですね)
兵士のほうへ向かっていくアバウトに、大砲を向ける兵士がいた!
ところがエレナはその兵士へ光焔砲を打ち込み、まぶしい光で錯乱させることでアバウトを守った。
「ありがとう、エレナ!」
アバウトが発動したのは、閃華武具“電光飾”。場にはイルミネーションのような光の粒が広がった。まだ完璧でないながらも、それらはカラフルにまばゆく輝いている。
はじめて見るその光景に、テラナスの兵士たちはただ見とれていた。
そして立て続けに乱閃弾に霊力を込める。
パチパチッ!
細かい無数の弾がパラパラと音を立てて爆ぜ、電光飾に引火することでその光は瞬時に広がり、夢のような光景を作り上げた。これにはテラナスの兵士たちも歓声を上げた。
やがてその光はなかったかのように消滅し、辺りは一気に暗くなった。目が順応しきれなかった兵士は、場を視認することができなくなった!
そのすきに...!
とはならず、順応できないのはノワール守護者たちも同じである。その場の誰も外部の環境を認識できず、何してんねんという状況である。
「やべえ、なんも見えねえ」
「あはっ、俺もっすよ」
ラインはテラナスの兵士と会話をしている。
自分の相対する敵と良いかかわりを持つ1つの方法として、お互いの共通の弱みを知る、というものがある。これもまた、ノワールの戦い方なのである。
「すっごい綺麗だったよ、アビー!」
「エレナ、守ってくれてありがとう」
2人はハイタッチをし、そしてまた少し、体内をめぐる霊力を感じた。
そんな中、戦場のある地点だけ、バチバチと戦闘が続いていた。
フィレとエムである。
近接戦闘から、少し距離をとった中距離先頭に移行していた。
「相変わらずきみの攻撃は、殺傷能力が低いね。くだらない価値観は捨てて、早くぼくのところに来ればいいのに」
そしてフィレの視界は、エムによる雷の閃光で閉ざされた。
「ははっ、ノワールの指揮官も落ちたものだな」
フィレがそれをさばききった時には、エムはノワール守護者の1人の首に雷刃を向けていた。
「どうだ?これできみたちはぼくの言うことを聞くことになるだろう。だっておまえらはノワールだからな!」
フィレを負かしたと良い気になったエムは高らかに笑い、かぶっていた覆面をはずした。以外にも彼は美少年であった。そして続ける。
「さあフィレ。きみはオレの手下になるんだ。さもなければ、こいつの命は無くな———」
その瞬間、エムの身体は後ろへ勢いよく吹っ飛んだ。
フィレがエムを素手で殴ったのだ。一瞬にも満たない速度でエムに接近し、いかなる道具も使わずに。
(痛っ...!どういうことだ...何があった?)
当然エムは視認できるはずもない。
そんな彼の前に、フィレは堂々と立つ。
「私たちノワールは、暴力をしないではなく、したくないだけ。いざとなれば躊躇いなくぼこぼこにする集団であることをお忘れなく」
「ひっ...ふぇーん!」
目の前に立ちふさがる圧倒的強者のオーラに今さら気づき、エムは逃げるように背を向けて帰っていった。
ワーッ!
ノワールの守護者たちは歓声を上げた。
フィレはアバウトを「ちょっとこっち」と誘った。アバウトは「はい」と返事をして歩いていく。
「アバウト、やってみますか?」
フィレがアバウトに差し出したもの。それは、閃華武具“花火”だった。
「え、これは...」
「私たちノワールの戦いでは、花火で始まり花火で終わるのが慣習なんです。アバウトとエレナの初参戦を記念して、よかったら打ち上げてみませんか?」
フィレからの提案に、アバウトは断る理由などなかった。
「はい!」
と返事をし、アバウトはそれを受け取った。
初めて花火を持ったアバウトは、その重量感に驚いた。そしてありったけの霊力を込める。
「いきますよ!」
アバウトが打ち上げた花火は、天に向かってまっすぐ尾を引き...とはならず、真横にビューンと飛んでいった。
「あ、やべ」
そして海に着水し、大輪の花を咲かせた。
「水中花火ですか、センスありますね、アバウト」
「あは、あはは...」
理想とはかなり違ったが、結果オーライである。
「さあ皆さん、この夏最後の花火大会やりませんか!?」
戦いの終わったこの場所に、フィレの声が響く。
「実は火薬、まだいっぱい余ってるんです」
そう言ってフィレはニコッと笑った。火薬は霊力と共に閃華武具で使用するものでもあるが、粋な彼女はそれとは別に、このために隠し持っていたのである。
「良かったらテラナスの皆さんもどうですかー!?」
統治者が泣きながら帰宅したテラナスの兵士たちは、フィレの掛け声で一斉に沸いた。
「それではみなさん、砂浜へ集合です」
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