第28話 「ノワールの戦い方」を満喫しようと思います


 大輪を咲かせた1発の花火。

 その中心は青く、外側へ行くほど黄色みがかっていった。

 美しく輝くそのグラデーションに、アバウトとエレナはつい見とれてしまった。


「あちゃ~、エレナさんかなりご機嫌斜めのようね」


 キンはそうつぶやいた。アバウトは問う。

「なぜわかるのですか?」

「色に出んのよ。真ん中が赤いと怒り度0で、紫なら怒り度100。色相環に従うの。今回は青だから、70から80は怒ってんな」


(花火の色でわかるのか。にしても、なぜそんなに怒ってるんだ?さっきまでは優しそうだったのに)


 エムのせいである。


「そのバトルの難易度もわかるんだぜ?」


 キンの隣にいた青年、ラインもアバウトに教えてくれた。

「外側が赤ければ赤いほどそのバトルは難しくない。逆に紫に近いほど勝つのが難しいってことよ」


 すると、今回の戦闘はそれほど難しくないということだろう。



 途端に周りは煙幕に巻かれた。

 その直後に、ビリリッという音と何か硬いものを激しくぶつけ合う音が聞こえてきた。


 フィレとエムの直接対決が始まったのだ。


「ははっ、今日もきれいな花火をありがとう、フィレ。やはりきみの花火はぼくたちの心をぎゅっと掴んでくるようだ」


 しきりにエムが振るうのは、プラズマソードと呼ばれる剣のような武器である。雷のエネルギーと闇の霊力の融合により発生したプラズマが刀身を覆い、その刺激と切れ味はほかに類をみないほどとなる。

 すきのないその斬撃を霊力でさばき続けるフィレは、エムに言葉を返す。


「あなたもずいぶん闇の霊力が溜まっているようね。数年前のものより格段に強化されている。そこだけは褒めてあげる」

「おやおや、もう1つ褒めてほしいな。本当は気付いてるんだろ?煙幕に囲まれて花火の閃光が意味をなさないこの状況で、きみは霊力だけでどうぼくと戦うんだ」

「話しながら剣をふるうと舌噛むわよ」

「おや、ぼくの話は退屈かい?」

 そう言ってエムはさらに速度を上げた。




 テラナスの兵たちは銃による射撃と剣での近接攻撃を開始した。とはいえ、バリエルが守護者へ付与した高強度バリアのおかげで、遠距離からの射撃は完全に無効化されている。


 アバウトとエレナは今回が初めての任務のため、バリエルの後ろについて行った。前を行くラインとキンの援護役である。

 いよいよ敵が目前に迫り、その数は20人近く。彼らがアバウトたちに向かって、銃や弓を使った攻撃を開始しようとしたそのとき、目の前からキンが消えた。


 気付けば彼女は敵の号令役の隣にいて、体を寄せ付けていた。

「あんた...いい体してるじゃない。このまま私と一緒に抜け駆けしない?」

 号令役は「撃て―!」の号令を忘れ、可愛らしさと大人っぽさをどちらも有する彼女の魅力に、ただただ惹かれていた。


 キンの放つ穏やかなオーラは、人を包み心を落ち着かせる効果を持つ。そしてそのオーラは伝染する。

 さらにキンはピースフルブリーズをしばしば併用し、超適温のそよ風を場に巻き起こすことで完全に周囲の人の戦意をそぎ、「あれ、戦争って無意味じゃね」という気持ちにさせるのだ。

 号令役がとうとう銃を置いたその瞬間、彼女はオーラを放った。すると目の前のテラナスの戦闘員たちは武器を置き、家でゲームしたいとつぶやきだした。どうやら彼らには、効果絶大のようだ。



 それでも、こちらに向かってくるテラナスの兵士はまだまだたくさんいた。多くの兵を相手に、ノワールの守護者はあちこちで善戦している。


 ラインは七色武具“レインボーミラージュ”を発動。

 虹色の光で幻影を作り出し、相手を魅了するだけでなく、その幻影を周囲に映し出せば、方向感覚を狂わせることもできる。


 キンがテラナスの兵の前で指をパッチンと鳴らすと、軽快な音楽が流れてきた。

「さあ、私と踊りましょ?」

 そのうちの1人の手を取り、キンはダンスをリードする。

 そんなキンへ向け、エレナは閃光砲を向ける。その光線はスポットライトとして2人を照らし、おかげで場は社交ダンス会場と化した。エレナの援護に、キンは「エレナグッ」というかのように親指を立てた。


 バリエルは相変わらずカウンターの名手である。そしてそのバリアの硬さゆえに、途中からは攻撃すらされなくなったようである。


 ほかの守護者たちも己の持つ霊力と武具を駆使して戦っている。しかし、そのどれも殺傷能力の低いものばかり。これがノワールの戦い方なのである。

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