第27話 「テラナス襲来」を満喫しようと思います


「いや~、あの時のアビー、ちょ~かっこよかったんだから!「最高の気分だァ」とか言っちゃってぇ、も~。最高なのはお前だぁ!なんちゃって」


 そう言ってエレナは、アバウトの背中をどんどんと叩いた。


「あはははは...」

(どうしよう...そんなこと言ったか?)

 アバウトには、リリィに魔力をかけられた後の記憶はなかった。


「それでアビー、右足を一振り。そしたらロープが簡単に切れちゃって。スタン爺が作った閃華砲も、そのときの霊力で焼けこげちゃってて!凄かったなー!あんなことできるなら最初からやればいいのに~」

「あは、あはは...そりゃどうも」


 初耳であった。当然そんなことした覚えもない。いったい何がアバウトをそうさせたのか、追及していく必要がありそうだ。

(そういえばレアデルさん、感じたこともない量の魔力が...とか言ってたな)

 アバウトは試験後にレアデルから聞いたことを思い出していた。それと何か関係があるのかもしれない。


「ところで、エレナはどうやってフィレさんに勝ったの?」

 アバウトの唐突な質問に、2人は同時にビクッとした。

(げげっ、まさかフィレ様を精神的に戦闘不能にしたとは言えないし...)

(アバウトの取り合いで、なんて言えるわけが...)



 ノワールの街中に大きくサイレン...ではなく平和な音楽が流れてきたのはその時だった。まるで川のせせらぎの動画のBGMのような、気持ちよくて眠ってしまいそうなほどの美しい曲である。


「え?何だろうこの音楽...すてき」

 アバウトは突然流れてきたその音に聞き入っていた。

 そしてフィレは

「あら、思ったより早かったようね」

とつぶやき、その場にいた全員が一斉に立ち上がった。


「どこへ行かれるのですか?」

 アバウトの問いに、フィレは答えた。


「テラナス討伐!」


 セレナとミアは「ご活躍をお祈りします!」と見送った。




 フィレを先頭に移動してきた守護者たちは、ノワールとアヴァロニアの国境付近の湾岸地点でその足を止めた。もちろんアバウトとエレナも、今日から守護者の一員だ。


 そして間もなく遠くのほうから見えてきたのは、百はあろうかという松明の明かりであり、それらはこちらに近づいてくる。


「あの人たちは、どこから来たのでしょう?もしかして、今からバトル始まっちゃう感じでしょうか...」

 アバウトは魔王時代の彼とは別人のように、目の前に押し寄せる敵の波にビビっている。フィレは守護者全員に聞こえるよう、張った声で彼の問いに答える。


「いま目の前にいる人々は、テラナスからの戦力部隊だ。1か月前の戦いでは三部隊合同戦線で破ることができたが、今回は我らノワールのみでの対処となる。何かあれば遠慮せずに私を呼べ、すぐに駆け付ける」


 そしてフィレは続ける。 

「バリエル、みんなの援護頼むぞ」

「承知しました、姉さん」


 そしてバリエルは守護者たちにバリアシールドを...


 ん?姉さん?

 アバウトは気になったことを質問した。

「え、あの...バリエルとフィレさんってもしかして...姉妹ですか?」

「ああ、そうだが」

 確かによく見れば、いや、よく見なくてもわかる。銀色の長髪に凛々しさとかわいらしさが両立した顔立ち。外見的な違いといえば、着ているのが浴衣か軽武装かという点である。


「あれ、アビー知らなかったんだ!」

 エレナの言葉に、その場の守護者たちも納得した様子でうんうんと頷いている。

 どうやらそのことを知らなかったのはアバウトだけだったようだ。


「さあみんな、勝ちに行くぞ!」

 フィレの一言に場が沸いた。


 そしてテラナスとの再決戦が幕を開けた。




 両軍はその歩く速度を落とし、やがて止まった。ノワールの指揮官フィレと対峙するのは、10歳前後を思わせる少年だった。ただし、素顔が見えないよう覆面を被っている。


「やあ、フィレ。久しぶりだね」


 その少年はゆっくりとそう口にした。


「エム。あなたはお呼びでないのだけど」

 フィレは冷たく言い放つ。


「まあそう冷たいことは言わずに。数年ぶりの再会じゃないか」

「なぜあなた、1か月前の戦闘に姿を現さなかったのかしら」

「あれ~フィレ?もしかしてぼくに会いたかった?」

「おかげで我々の圧勝。あなたの配下たちは慌てて逃げていったわ」


 エムの問いかけに一切答えないフィレは、まっすぐ仮面の少年を見つめて話す。

 一方のエムは、仮面の下で笑っていることがはたから見てもわかるほどに、愉快な口調である。

「いいのさ、あれはほんの小手調べだからね。きみたちのレベルを確かめただけだよ」

「のんきなものね。部下に多くの犠牲を出しておいて。で、今回は勝てると踏んであなたも来たわけ」

「そうだ、そうだよ!ぼくはここに、勝ちに来たんだ!優秀なきみたちをぼくのものにする」


 フィレは閃華武具“花火”を出し、頭上へ向ける。

「見ものね。あなたにそれができるか」


 そして霊力を込めて、空高く打ち上げた。

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