「テラナス戦」編

第26話 「合格パーティ!」を満喫しようと思います


「アビー、今日は本当にありがと!いろいろあったけど、明日からまたよろしくね!」


 2人は電車でノワールまで戻った。

 エリシアの灯が見えてくるころには、夕日は沈みかけていた。


「こちらこそ。送ってくれてありがと。また明日な」

 そう言ってアバウトは、少し傾いていた彼女の帽子を直した。


「ありがと、じゃあね!」

 エレナはアバウトに手を振り、帰っていった。

 噴水から噴き出す水は夕日に照らされ、金色に輝いていた。




 アバウトはエリシアの灯の入り口のドアを開け、4階にある自室へ向かった。

 そして階段を登りきると、腕を組んで仁王立ちをしているノーティがいた。


「アバウトてめえ、楽しかったか?」

「...何のことでしょう」

「とぼけんじゃねえ。エレナとアエスに行ったんだってなぁ。さぞかし楽しかったんだろうな」

「えぁ、まあ...はい」

「...」


 ノーティは口をつぐんだ。

 その様子を見てアバウトは言った。

「怒ってるんじゃないかと思ったよ」


 それは昨日、エリシアの灯を出る前の話だ。

 2人が廊下ですれ違ったときのその雰囲気は、それはそれは恐ろしかった。


「ああ怒ってるさ」

「いやあほんとに、もし怒ってたらどうやって謝ろうかって...え!?」

「まあ、確かに頭には来てたけどよ」


 ノーティは少し諦めたような表情をしながら続けた。

「セレナに言われたんだよ。アバウトにそんな態度はとっちゃダメ、エレナの気持ちを変えたのはアバウトくん自身だからって」

(ありがとう、セレナ姉さん...。)

 アバウトはセレナのおかげで命拾いをした。


「まあでも、俺はエレナを諦めちゃいねえ。最近カフェに来てくれないが、きっとそれは忙しいからで...別にエレナがアバウトのこと好きだからとかじゃなくて...エレナが俺のこと忘れたわけでもない...よな」

 だんだんと勢いを失っていったノーティは静かにうつむいた。

「う、わかったわかった。エレナに明日伝えておくよ、久しぶりにカフェ行ったらって」

「ほんとか!?頼むよ~アバウト!俺の最高傑作を御馳走するからって!あ、そうだ。お前もよかったら店に時々食べに来いよ?」

「おう、サンキューな」


 2人の仲は平和に戻った。


 アバウトが部屋に入る直前、ノーティはこんなことを聞いてきた。

「あ、そうだ。どうだった?入隊試験」


(それ先に聞けよ!!)

とアバウトは思ったが、

「ああ、エレナもオレも無事合格だ!」

と報告した。


 ノーティは

「ガチか!やったな、すげえよ!よし、明日はパーティするぞ」

と言ってくれた。しかし、

「じゃあな、アバウト」

と残して部屋に入っていくノーティの表情は、少し寂しそうだった。




 翌日、エリシアの灯は臨時休業となった。1階のバーと2階のカフェをフル活用して、“エレナとアバウトの入団パーティ”を開くためである。

 スタン爺たちや指揮官フィレはもちろん、他のノワール守護者たちも招かれ、2フロアを使ってもスペースがギリギリになるほどだった。1階のバーはノーティと両親、2階のカフェはセレナとミアが担当し、飲み放題のドリンクと豪勢な食事を振る舞った。


「アバウトくんにエレナちゃん。合格おめでと~!」


 セレナの掛け声で、それぞれの飲み物が入ったグラスを互いにぶつけ合う。ただしカフェに集まった者たちはみな酒を飲まない、あるいは飲めないので、これはもはや「ノワール」というより「ノンアル」である。

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