第31話 「フィレの秘密」を満喫しようと思います
「かんぱ~い!」
翌朝。
ノワールの守護者たちは再びエリシアの灯へ足を運んだ。
改めてアバウトとエレナの歓迎会を行うためである。
最強メイドフォロは、1階のバーにいたフィレの隣で話を聞いていた。片手には紅茶サイダーを持っている。
フォロといえば、昨日の花火大会では1人で手持ち花火を楽しんでいた。
しかしその途中でテラナスの兵士に絡まれ、(こいつら全員を花火玉に込めて打ち上げてしまいましょうか)と考えていたようである。
それでもアバウトと一緒にエリシアの灯に帰るころには十分満足していたので良かった。
さて、フィレは昨日の戦いについて振り返っていた。
「それにしても、いたのがエムだけで本当に良かったわ」
「他にもいるのですか?」
フォロの質問に、フィレは答える。
「ああ、ダリウスだ」
フォロは「誰だろう」という顔をしながら聞いている。フィレは続けた。
「もしあのときダリウスがいたら、私は青紫を撃っていた。私じゃ彼にはかなわない」
少し表情が暗くなったフィレを、フォロがフォローする。
「そんな時は私にお任せください。したくないですが、いざとなれば仕方がありません。一瞬でフルボッコにさせていただきます。決してしたくはないですが!」
とてもしたそうなフォロのまっすぐな瞳に、フィレは優しく笑う。
「...そうね。心強い言葉をありがとう。その不動の強さと自信、あのお方を思い出すわ」
「あのお方、ですか?」
「そう。私の元師匠、ポウェルさん」
聞いてくれるかしら、というフィレの言葉に、フォロはうなずいた。
そんなフォロの様子を一度見て、フィレは話し始めた。
まだフィレが小さかったとき、彼女の両親は亡くなった。魔の空気に身体が耐えられなくなったのだ。
フィレは兄妹もいなかったので、エリア0、通称“魔地”と呼ばれるその街で1人で生きていくしかなかった。ところがその直後、1人の男性が家に尋ねてきたのだ。
ポウェルと名乗るその男性はノワールの指揮官で、当時のエノのトップにも匹敵する圧倒的な戦力を持っていた。彼はまだ小さなフィレをエリア0からノワールへ連れていき、優しく戦闘の極意を伝え、技術を継承した。先の見えなかった彼女の新たな道を照らしてくれた、フィレにとっての恩人であった。
「でも、あるとき彼は突然いなくなってしまったの」
フィレの横顔には寂しさが浮かんでいる。
「7年前だった。あの日から私は、あのお方の帰りをずっと待ってる」
そしてフィレのほうを見て、少しだけすっきりとした表情で言った。
「やっぱりあなたに話せてよかったわ。心から信頼できるから...根拠はないけど」
「あの、フィレさんはエリア0出身なのでしょうか...?」
「...聞いていたのか、アバウト」
2階のカフェにいたアバウトは、バーにフォロを探しに来たところ2人が話しているのに気付き、少しの間だけ静かに聞き耳を立てていた。
盗み聞きをしていたアバウトにフィレは怒るかと思われたが...
「お願い秘密にしてください!お願いお願い!」
アバウトの手を取り懇願の眼差しを向けていた。
「いい街ですよね、エリア0」
「...え?」
「オレもエリア0出身ですから。オレたちは遠くの昔、どこかですれ違っていたかもしれませんね」
「...秘密にしてくれるの?」
「はい、当たり前です!本当は隠さずとも生きていける世界が一番ですが」
こうしてアバウトとフィレには、2人だけ(実際はフォロもいるので3人)の秘密ができた。
アバウトとエレナの入隊を記念するパーティは、朝からお昼ごろまで続いた。
太陽は高く上り、昼が近いことを告げていた。
すでに満腹のアバウトとエレナは、スタン爺にお礼をしに行こうとお土産を持って守護の庭へ出かけた。入隊試験へ向けてこなしてきた1か月集中特訓も、アバウトとエレナの合格を機に終了となったためである。
ところが守護の庭で2人は、スタン爺から思わぬ事実を告げられた。
「タゼルとルベルが昨日からいない!?」
―第3章へ続く―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます