第15話 「初めての共闘」を満喫しようと思います


「ようアバウトォ~、最近エレナとよりいっそう仲良くしてるってなぁ。聞いたぜ?バックハグされたんだってなぁ」


 エレナは昨日の出来事で興奮してしまったあまり、ついうっかりノーティに口走ってしまったようだ。


「あ、いやー、えーと...」

「...はあ。まあ仲良くするのはいいけどよ、来て二週間のやつにエレナ取られるのは、俺の身が持たねえぜ。とほほ...」


 エレナをめぐるノーティとアバウトの戦いが始まる...のか!?


「あいつ、急に「あたしも守護者になる」とか言うからさ、びっくりしたけど応援はしようと思ってな。でもその日から突然カフェに来なくなったし。まあ訓練で忙しいことは分かってるんだが、たまには顔を出してくれてもいいじゃないか...って言っておいてくれよ」

「あ、オレが言うの!?」

「頼むよぉ~」

「あぁ...う、わかったわかった!言っとくって!」

「ありがとうマイフレンド~!」




 その後アバウトとエレナの訓練は進んでいき、いよいよ試験前最後の練習日となった。


「今日まで本当にご苦労じゃった。今までのまとめとして、今日は2人にフォロと戦ってもらうぞい?」

「フォロと!?」「フォロちゃんと!?」

「なぁに、別に本気で相手をしてもらうつもりはない。なあフォロよ」

「え、あ...はい」


(あれ!?こいつ今本気で戦おうと考えてた!?)

 アバウトは一瞬で冷や汗をかいた。


「ふぉっふぉっ、そんなわけじゃから、フォロあとはよろしく」

 そう言ってスタン爺は、よいしょっと近くの椅子に座った。

「あ、いたたた...」


 腰を押さえるスタン爺に、エレナは心配の声をかける。

「大丈夫?スタン爺」

「大丈夫。少し痛むだけじゃ。ほら、フォロが待っとるぞい」


 するとフォロも手をパンパンと叩き、「アバウト様、エレナ様。相手は私ですよ」と対戦を促す。エレナとアバウトは「スタン爺、ゆっくり休んでてね」と言ってフォロと共に庭へ向かった。


「私へ攻撃をあてることができたら、おふたりの試験参加を認めます」

「オッケーフォロちゃん。手加減はいらないよ~?」

「ちょ、エレナ!何を言って———」

「承知しました、エレナ様」

「ああああ!」

 対峙するのは現代最強魔力を誇るメイド。これが仲間で良かったと、アバウトは改めて思う。そしてエレナとアバウトは目を合わせて一呼吸おき、同時にフォロへの攻撃を開始した。



 時はさかのぼり数日前。訓練の休憩時間に、2人は実戦での戦い方について話していた。

「ねえアビー。もしあたしたちが協力して戦う場合ってさ、どっちかが近接戦闘でどっちかが援護じゃん。どっちのほうが近接に向いてるかな」


 少しの沈黙のあと、2人は同時に答えた。

「あたしだよね」「オレだな」

 そして言い争いが始まった。

「なぁんでさ!だってあたしなら光ブッパで大勝利じゃん!アビーが後ろで援護してくれれば」

「いやエレナの光は遠くでも十分効くだろ?そのすきにオレが閃華砲の一発で、はいおしまい!」

「アビーの閃華武具だって根本的には光!あたしと一緒ですぅ~」

「ああはいはいわかったわかった」

 このままでは収拾がつかないと感じたアバウトは、一度彼女を制止した。

「じゃあこうしよう。相手を見て判断する。お互いのことを理解しているオレたちなら、できないこともないんじゃないか?」

 するとエレナは落ち着いて、「まあ、そうね?あたしたちなら、ね?」と顔を赤くして言った。




 目を合わせたその瞬間、この戦いの役回りが決定した。2人にはもう、言葉は不要だった。

 前を走るエレナにアバウトも続く。


乱閃弾フラッシュ!」


 霊力を込めた乱閃弾はフォロの周りでパチパチッと勢いよく爆ぜた。青、緑、黄色、赤。カラフルなその色合いは、花火を連想させるものだった。

 フォロは視界を遮られ、動かない。

 そのすきにすかさず、エレナも武具を繰り出した。


温光鞭ハートウィップ!」


 赤く光るその鞭はエレナの霊力により高温となる。その鞭に触れるのはもちろん、掠っただけでも大変なやけどになるほど、殺傷能力の高い武器である。


 バチン!!


 フォロめがけて振り下ろされた温光鞭の先端は音速を超え、はじくような音を立ててその動きを止めた。何が起きたかわからないエレナは鞭を持ったまま、乱閃弾の煙が引くのを待っている。


 やがて煙から現れたフォロは、やはり片手で鞭の先端をキャッチしていた。


 えぇっ!と驚きを隠せないエレナをよそに、アバウトはフォロの後ろから閃華砲を向けた。乱閃弾の煙が引く前に、フォロの死角に回り込んでおいたのだ。


 そしてアバウトは閃華砲に力を入れる...と思われたが、気付けばアバウトはエレナの温光鞭の先端部を握らされていた。


「おふたりとも、運命の赤い糸で結ばれている場合ではありません」

「あっつ!!」


 アバウトは慌ててその鞭を手から離した。少しのやけどで済んでいるのも、フォロが一瞬のうちに先端を冷やしておいてくれたのだろう。


「アビー大丈夫!?」

 慌ててエレナが駆けつけ、アバウトの手を握った。

「ああ、問題ない。それより手応えはどうだった?」

「まさかあたしの渾身の一撃が片手でキャッチされるなんで思わなかったよ~」

「ははっ、やっぱりフォロは強すぎだな!」

「なに手を繋ぎ合っているのですか。まだ戦いは続きますよ」


 そう言うフォロは手で目を覆い、指の隙間から2人を見つめる。そして2人は恥ずかしくなり、慌ててお互いの手を離した。

「べ、別にそういうわけじゃ...熱閃弾!!」

「閃華砲!!」


 息ぴったりな不意打ちの攻撃。エレナがフォロの目を眩ませるとともに動きを封じ込め、そのわずかな時間にアバウトの物理攻撃。確かに手ごたえはあった。今度こそ攻撃が通ったかと思ったが、アバウトが握っていたのは閃華砲ではなくフォロの手だった。しかも、手のひらを合わせた恋人つなぎである。

「アバウト様。本日は本当に手を繋ぎたい日なのですね」

「なっ...!」

「結構ですよ、私はいつでもお付き合いいたしますので」

「フォロ離して~!」

「いえ、もう少しだけ...」


 そしてフォロは、その手の握る力を少し強めた。戦闘中とは思えない2人のやり取りに、エレナは「あわわわ...」と言葉を失っていた。


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