第13話 「誓いと伝説」を満喫しようと思います
「私たちも行こ」
セレナはノーティのほうを見て言った。
アバウトもついていこうとすると、服の袖を軽く引っ張られる感覚があった。
「どうしたエレ———」
アバウトがエレナを見ると、「しーっ」と人差し指を口の前で立てていた。そしてセレナとノーティの姿が見えなくなったことを確認して、ささやくような声で言った。
「ほら、アビー!急いでこれ掛けちゃお!」
エレナが手に持っていたのは、南京錠であった。
「女神像に向かって誓いを立てて、その証に鍵をかけるの」
アバウトの鼓動は高鳴っていた。夢見た青春が今、目の前にあるのだ。
エレナと南京錠を持ち合い、深く息を吸って、2人は同時に発した。
「ずっと一緒にいられますように」
上ってきた階段の向かいにあった別の階段を使い、4人は下へ降りていった。
「なんだろう、これ。きれいな石?」
アバウトは降りたところにあった小さな茂みの下に、輝く宝石のようなものを発見した。エメラルドグリーンをした半透明のその石は、太陽光を反射して美しく輝いていた。
(拾って少し見てみるか...)
アバウトがその石に触れた瞬間、付近の霊力が大きく揺らいだ。少し先を歩いていたエレナはそれに気づき、ふっと振り返った。それくらい大きな、霊力の揺らぎであった。
「アビー、それ...!」
エレナが指さすほうにあったのは———
洞窟であった。長年にわたり強大な霊力により隠されていたものが、その姿を現したのだ。
アバウトはセレナたちを呼び止め、その洞窟の中へ足を踏み入れた。
中へ入ると、幻想的な光景が広がっていた。
入り口の小ささとは想像もつかない、大きな鍾乳洞である。天井は驚くほど高く、空間全体がエメラルドグリーンに輝いている。
「スタン爺から聞いたことあるかも...!」
ミアは天井を見上げながら口にした。ミアは人生の3分の2以上外にいるような女の子であり、その情報網の緻密さといったら大人でもかなわないほどである。ミアは記憶の断片から、次のように説明した。
この鍾乳石は、戦没者を追悼する人々の気持ちから生まれてくる霊力が雨水と反応して、長い時間をかけて固まったもの。もともとは単なる洞窟で戦時中の隠れ家のように使われていたが、魔王封印以降は人が出入りすることもなくなり、やがて忘れ去られていきながらも、鍾乳洞への形成を続けたのである。
「なんか水の音が聞こえない?」
耳を澄ましてみると、ポチャンという、水の滴る音が聞こえてきた。
5人は互いの体を寄せ合い、その音の方向へ慎重に足を進める。奥へ行くほど、ひんやりとした空気が流れている。かすかな光の中にやがて見えてきたのは、地下湖であった。
「冷たー!!」
ミアが水に触れたようだ。真夏に触れる冷たい水ほど気持ちの良いものを、ミアはまだ知らなかった。「私も!」と言ってセレナも嬉しそうに指を浸ける。
アバウトとエレナもその場にしゃがみ、水に指を浸けた。アバウトの持っていたエメラルドグリーンの結晶が光り出したのはその時だった。
「なに、これ...」
その明かりに、洞窟の中は明るく照らされた。
その中で5人が目にしたもの。
それは、大きな壁画であった。鳩と思われる鳥が、オリーブの枝をくわえて飛んでいる姿である。
「戦争中に身を隠した兵士たちが、平和を願って描いたってこと...?」
オリーブの枝は、平和や勝利の象徴である。この洞窟に身を潜めた兵士たちは、壁画として戦争に対するその思いを残したのだ。
そしてアバウトは、目の前にある光景に自身の目を疑った。
「滅魔、閃光...!」
壁に描かれたその言葉は、スタン爺に見せてもらった花火に記されていたものと一致していた。
(なぜここに、この文字がある...?)
突然現れた洞窟、大きな壁画、滅魔閃光の文字。これらの謎が解かれるのは、もう少し先のこととなる。
「今日はなんかすごいのを見ちゃったね。アビー、また来よ」
5人は洞窟から出て、帰路へついた。アバウトの耳元でエレナはそうささやいた。
「うん、今度は2人で来ような」
2人が誓いを立てた南京錠は、真っ赤な夕日に照らされて輝いていた。
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