第12話 「デート…?」を満喫しようと思います


 翌日5人が向かったのは、ノワールの市街地のはずれにある丘であった。


 ...5人!?そう、5人である。


「なんでノーティたちがいんのよ」

「いやですね、あのー。これには訳がありまして...」

「説明を求めます」



 今朝。

 アバウトが1人でエリシアの灯を出ようとしたところ、食事当番のノーティに見つかってしまったのだ。

「こんな朝っぱらからどこへ行くんだ?日曜日は訓練も休みのはずだろ?」


ギクッ!


「あ、ノーティおはよう...行ってきます!」

「おい待て、エレナか」


ギクギクッ!


「あ...はい」

「おれも行く」

「え、いやちょっと?ノーティさん?」

「1分で支度する。待っててくれ」

「...あ」

 そしてノーティはコンロの火を消し、すぐさま4階へ上がっていった。

 1分後階段を下りてきたのはノーティ、だけでなくセレナとミアもいたというわけだ。



「はあ、まあアバウトが誘ったわけではないのね」

「それはもちろんです!オレだってそこらへんは弁えていますので」

「ならいいけど。一応あたしたちのデートなんだからね」

「は、はい」

 もはやエレナはこれがデートであることを隠す気もないようだ。そんなエレナをよそに、アバウトの腕に絡みついてきた人物がいた。

「アバウトくん、今日は誘ってくれてありがと!お姉さんは嬉しいぞ」

 ノーティの姉、セレナである。

 事態をややこしくするのが大好きな、セレナである。


「ちょ、やめ...はっ!!」

 エレナをチラッと見たアバウトは、己の死を悟った。こちらをにらんでくるその形相の恐ろしさといったら、なかった。それと同時に、高身長でスタイルの良く、おまけに超美人なセレナという女性を、このときだけは呪った。

 本当は背後からも殺意を感じるのだが、それまで相手にしていると今日1日、身が持たないことが明らかなので、アバウトは気付かないふりをした。



「見えてきたよ、誓いの丘!」

 30分ほど歩いて見えてきたのは、緩やかな丘の上にそびえる展望台であった。そのてっぺんには、大きな女神像が存在感を放っていた。

「久しぶりに来たな、ここ」

「ミアは毎年来てるよ!誓いの式典に友だちと来るからね」

 ノーティに続きミアは言った。アバウトは尋ねる。

「誓いの式典って?」

「戦いで亡くなった方々を追悼する式典」


 ミアは落ち着いた表情でそう答え、続ける。

「昔この場所で大きな戦いがあったの。それ以降、追悼のために毎年献灯を灯すんだよ。ちなみにその戦いがきっかけで、この場所には一戦場公園っていう名前が付けられてるのです」

 少し得意げに話すミアに、セレナが付け加えた。

「ま、今は展望台の景色の良さから恋人の聖地にもなってるんだけどねっ」


 セレナはアバウトとエレナを交互に見て、ニヤニヤしている。エレナは手を後ろに組もうとしたが、アバウトはそれより少しだけ早く、エレナの手を取った。

「おぉ~っ」

 セレナの歓声のうらで、ノーティは「ガーン」と地面に崩れていた。



 緩やかな丘の上に到着した5人は、慰霊碑を前に手を合わせ、追悼を捧げた。慰霊碑には戦没者の氏名が記され、300年以上も前の日付も書かれていた。

「次の式典はこの日にやるの?」

「そう、ちょうど1か月後だね!アバウト兄も来るといいよ、たくさんの蝋燭が夜に灯るの、すごくきれいだから」

「そ、そうだな!そうだよな、アバウト、おれと一緒に行こうぜ。な!」

「お、おう...よかったらエレナも...」

「2人で行こうぜ、な!」

「ちょっとノノ、あたしも仲間に入れてよ」

 エレナも参戦した。ノーティとエレナは言い争っている。この2人を一緒にするのは、この先少し危険かもしれないと思うアバウトであった。



「魚見塚展望台...」

 アバウトがつぶやいたその名前は、展望台の下部、アーチ状の天井をした通路の入り口に書いてあった。横にある階段を上ると、展望台の上部へ行ける構造となっている。


「アバウトくん、エスコートしてくださる?」


 そう言ってアバウトに手を差し出すのは、もちろんセレナである。再び事態をややこしくしに来た彼女は、空気を読むという概念を知らないのかもしれない。


 ところがそれを見たエレナの反応は、アバウトの思っていたものとは違った。

 目をつぶったすまし顔で右手をひょいっと前に出し、「どうぞ」とでも言っているかのようであったのだ。


(あれ?エレナ怒ってない...これは“良い”ってこと、かな...?)

 エレナの顔色をうかがいながらも、大丈夫そうだと判断したアバウトは、セレナの手を受け入れた。


 しかしこれはエレナの作戦で、「私はあなたを求めてないのでどうぞ勝手にしてください」という態度をとることで、逆に相手が自分に興味を持ってしまうことを狙ったものであったのだ。


「じゃあ...行きましょうか」

 アバウトが小声で言ったその時、後ろからエレナの声が聞こえた。

「ノノ、あたしを連れてってください」

「はい喜んでー!」

 待ってましたとばかりにエレナの手を取るノーティ。アバウトに鋭い視線を送るエレナ。つまり、アバウトはやってしまったのだった。



 展望台の頂上から見える景色は、まさに絶景であった。内陸に位置するこの場所からでも、遠くのほうに青い海が見えた。

「海が輝いていますね、エレナさん。まるであなたみたいです」

 エレナは何も言わない。


「手前のほうには家々が並んでいますね、エレナさん。美しいです、エレナさんみたいに」

 景色に目を向けたまま、彼女はずっと口を閉じている。


「太陽が輝いています。太陽の隣で輝く女性、まさにエレナさ———」

「あぁっ、もうわかったよ!さっきのことは水に流してあげるから!」

「ありがとうございますエレナ様!やはり時代はエレナ様、ほらあそこに虹が...え、虹?」


 アバウトの言葉に全員が同じ方向を見る。天気は快晴なのに、確かに虹がかかっている。

「あ、ラインとキンだ!!おーい」

 ミアは2人に向かって大声で叫んだ。アバウトはその2人を、前にノワールで見たことがあった。確か、通りすがりのおばあちゃんの荷物持ちを手伝っていた男女だ。

「ラインの七色武具の虹だったんだ!ミアちょっと行ってくる!」

 そして彼女は、丘の中腹付近でこちらに手を振る2人の元へ駆けていった。空気を読まないあたり、姉譲りのようである。

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