第8話 「エレナとの訓練」を満喫しようと思います


 翌日アバウトは、スタン爺の元へエレナを連れていった。今日はフォロもいる。守護の庭には名前のとおり庭もあり、そこで2人の子供が遊んでいた。


「こんにちは、タゼルとルベル」


 アバウトの挨拶に2人はしっかりと答える。

「こんにちは、ボス!ルー、ボスに敬礼!」

「アイアイサー」

 アバウトは2人の中でボスになったようだ。


「ボスの手下にも敬礼!」

「アイアイサー!」

「...ってちょっと!なんであたしが手下になってんのよ~」

「違うの~?」

「違うちがう!あたしはエレナ。アビーの先輩!」


(あれれ、そうだったか?オレのほうが年上だったような...)


 そんなことはお構いなく、タゼルとルベルははしゃいでいる。

「ボスの先輩!」

「アビーボスの先輩!」

 アバウトはこの瞬間、エレナの後輩になることが決まった。



「初めまして~、エレナですっ!今日からお世話になります!」

「元気な子じゃの~、よろしく頼むよ、エレナ」

 アバウトとエレナはスタン爺への挨拶をした。


 そのあとから少し遅れて部屋に入ってきたフォロであるが、スタン爺が彼女を見たとき少しだけ驚きの表情をしたことに、アバウトとエレナは気付かなかった。



「アバウト、エレナ。1か月後の試験に向けてわしがビシバシ鍛えてやる。しっかりと武具の使い方を身に刻むのじゃ」


 エレナがスタン爺に適性を見てもらったところ、憧れの閃華武具ではなかったもののぴったりな武具が見つかったようで、あたしはこれでアビーに勝つんだから!と意気込みを語っていた。エレナにライバル視されるのは悪い気はしないが、次ノーティに会うのがちょっと怖いような...。


 スタン爺は2人に、それぞれが使う武具を見せた。

 アバウトには閃華武具。各種花火をはじめ、閃光弓(フラッシュボウ)や電光飾(イルミネーション)といった強そう(?)な武具が並ぶ。一方でエレナは光焔武具。温光鞭(ハートウィップ)や熱閃弾(フラッシュ)などであった。


 スタン爺の武具授業はとても的確であるうえに武具自体どれも見たことがなかったので、2人は時間を忘れてスタン爺の話に聞き入った。



 次の日からはいよいよ、武具の使い方を習得する訓練が始まった。

「身体中をめぐる霊力を一点に込めるのじゃ。魔力が使えないアバウトでも安心じゃの~、おっほっほ」


 うるさいですよ爺さん。いつかこの魔力、復活させてみせますから。


「霊力?それは何でしょうか、師匠」

 訓練に対して前のめりなエレナからの質問である。

「人とのつながりや自然との調和によって育まれる、神秘的な力じゃよ。人は朝日が昇るとき、心が暖かくなるであろう?それが霊力が活性化する瞬間。自然の美しさや生命の輝きを感じるとき、霊力は強くなるのじゃ」


 霊力は意識をして強化できるということか。

「訓練を積めば霊力の流れをコントロールすることができる。手に取るように自分の霊力がわかるようになるぞい?」

「スタン爺も自分の霊力わかるんですね!?」

「いや、わしはさっぱりわからん」

 2人はずっこけた。

「フィレから聞いた話じゃ」

「フィレ?」「フィレ様!?」

「あやつはときたま守護庭に来るんじゃが、話はいつでも武具のことでな。花火の色をもっと増やしてほしいだの、音を変えられるようにしたいだの、職人魂をくすぐるかわいいやつじゃ」


 アバウトやエレナの練習相手になってくれたのは、最強メイドフォロであった。

「アバウト様、霊力が止まってしまっています。手先にすべてを込めてください」

「そうはいっても、霊力がまだ感じられなくてなー」


 すると彼女は驚くべきことを口にした。

「今の状態ですと、右足のつま先あたりに9割が留まっています」

「...フォロ、オレの霊力見えてるの!?」

「はい、丸見えです」


 これは強い味方だ。霊力を感じるには一定以上の鍛錬が必要だとスタン爺が言っていたが、霊力の感覚を間近で教えてくれる人がこんなにも近くにいたなんて。

「ところでなんで右足のつま先?」

「おそらくですが、アバウト様の保有する膨大な魔力から逃げるためだと考えます。魔力は左胸のあたりに集中しているようですので」


 なるほど。魔力と霊力は共存しにくい力同士なのだろう。これはアバウトにとっては、難しい問題になりそうだ。


「しかしアバウト様。残り1割の霊力は魔力に興味津々なようで、左胸付近で動き回っています」

 フォロは本当に霊力が丸見えなようだ。この1割の霊力をうまく使えるようになれば、残りの9割の霊力も引き出せるかもしれない。


「そしてエレナ様は霊力がスムーズに流動しています。とても上手です」

「ミアじ~?やっぱりあたしセンス合ったりしちゃう~?」

「はい、かなりしちゃってます」

「も~、褒めるのうまいんだから!」


 この段階の練習で使用するのはまだ本物の武具ではなく、霊力に反応して音を出す道具。もちろんスタン爺お手製のものだ。安定して音を出せるようになれば、いよいよ武具を手にすることができる。

 フォロがお手本を見せてくれたが、その音がバグレベルの大きさで鳴り響いたので、近くの山中から鳥たちが一斉に飛び去った。

「おっと...失礼しました」


 ところが次の一発は見事に調整され、完璧なまでに美しい音を奏でた。その音の透明感に彼女自身も気づいたようで、ひとつせき払いをした後、「国歌、斉唱」と言い魔王軍の国歌の前奏を演奏し始めたので、アバウトは全力で彼女を止めた。エレナやほかの誰かに聞かれたらまずい気がしたからだ。

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