第7話 「運命共同体」を満喫しようと思います


「滅魔閃光...」


 中に入っていたのは丸い花火玉。その4文字が筆文字で書かれていた。


「守護の庭で代々伝わる話がある。聞いてくれるか、アバウト」

 スタン爺の言葉に、アバウトは大きくうなずいた。ミアもまっすぐな視線をスタン爺へ向ける。これはノワールが誕生した三百年以上前の話だ、とスタン爺は話し始めた。


 今から三百年以上も前、それは魔力全盛の時代であった。当時の魔王は比類なきほどの膨大な魔力を持ち、戦いを好み、支配欲が爆発していた。エリシアだけにとどまらず周囲の地域の人々は争いを強いられ、そのたびに多くの犠牲者が出てしまった。そんな中で起きた歴史的な戦い、それが「光華の決戦」である。光華の決戦は、最大戦力の魔王群とエリシア軍の全勢力がぶつかり合った最大の戦争であった。壮絶な押し合いの末、エリシア軍の勝利を決定づけたのは、1発の大きな花火だったという。魔王群の戦力をそぎエリシア軍の士気を挙げるためのその1発は、まさに隠し玉として完璧なタイミングで閃光を輝かせたのであった。そしてエリシア軍は魔王の封印に成功し、その地が現在のアヴァロニア東部、エリア0である。


「エリア0は君の生まれ故郷だね?アバウト」


 なんでも読み透かしてしまうスタン爺に、アバウトはただ頷くばかりである。

「でもスタン爺、エリア0には誰も近づくなってみんな言ってるけど...」

「噂をなんでも鵜吞みにしてはいけないよ、ミア。エリア0は遠い昔に最強の魔王が封じられた、我々にとっての聖地なんだ」

 現在もなおエリア0に色濃く残る魔の空気。それこそが魔王をその地に封じた証なのである。


「君を見た瞬間にこれを見せるべきだと思ったのじゃ、アバウト。自ら魔王の座から降りた君には、かつて最強とうたわれた魔王を封じた花火の適性がある。どうだ、わしの作った閃華武具を使ってみないかね?」

 伝説的な武具職人からの逆オファーだ。断る理由など思いつくはずもない。アバウトはぜひお願いします!と元気よく返事をし、それが入隊試験へ向けた新しい生活の始まりの合図となった。



「閃華武具ぅ~!?アビーやったじゃーん!超すごいよまじで!」

 エレナは今日もエリシアの灯に来ていた。3階のノーティの部屋でだらーんとしていたところだった。アバウトが守護の庭でのこと、武具を作ってくれることになったことを話すと、エレナはそう言った。お前すげえよ!とノーティも称えた。


「あの...閃華武具って何なのかな?」


 よく考えてみたら、アバウトはそれが何か知らなかった。

「お前知らなかったのかよ」

「フィレ様がお使いになられてる武具だよ~。あぁフィレ様、想像するだけで素敵です」

 エレナはフィレに心酔しているようだ。胸の前で手を組みエレナは頬を赤くする。

(そうか、ノワールの守護者の指揮官であるフィレさんが使っているのか。これはすごい役に抜擢されてしまったものだ)


 しばらく3人でノーティの部屋にいたあと、アバウトは自分の部屋に戻った。セレナが「自由に使っていいよ~」と貸してくれたおかげで、この部屋では1人でたっぷりくつろぐことができる、はずだったのだが。


「お久しぶりです、アバウト様」

「ってフォロ!?どうしてここに!?」

「この2日間、わたくしフォロは全力で貴方様を探しました。人々に情報を吐けと促し、吐かない奴には刃物を突き付け、何とかここへたどり着くことができました」

 ...あのー、ここにノワール不適合者がいます。誰かこいつを連れていってください。


「そ、そうかフォロ。久し、ぶりだな...」

「アバウト様、わたくしはいつでもあなた様のお傍にいます。ご命令をいただければこのフォロ、ご満足いただけるようお応えいたします」

「...紅茶を入れてくれ」

「かしこまりました」


 そう言ってフォロは自らの魔力で水を一瞬で沸かし、あっという間に適温の紅茶をアバウトへ提供した。メイドとしては相変わらず超有能である。早速紅茶をすするアバウトに、フォロは尋ねた。

「現在はどういう状況なのでしょうか?」


 アバウトは今日までのことを話した。戦地の真ん中にいることに気付き、誰かに助けられ、次の日には見知らぬ部屋にいたこと。ノワールの街について知り、入隊を目指すために守護の庭へ行き、閃華武具の適性があると言われたこと。


「さすがですアバウト様。やはり生物としての格が違うのですね」

 どちらかと言えば、一晩で国2つを自分のものにするフォロのほうがレべチな気もするが...


 エレナが部屋に入ってきたのはそのときだった。

「アビー、私もノワールの守護者になる!!...どなた?」

「初めまして。アバウト様のメイド、フォロと申します」

「あ、エレナですどうも~」

 そう言ってフォロに手を振る。そしてアバウトは耳を疑う。

「え、守護者になるってどういうこと?」

 アバウトがそう尋ねるとエレナは答えた。

「そのまんまの意味。アビーと一緒にあたし頑張る!」

「エレナ様はアバウト様と運命共同体というわけですね。わたくしもお供いたします」

「え、ちょっ、えぇーっ!」


 こうしてアバウトとエレナの入隊試験に向けた訓練が始まった。

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