如月さんデート編

第111話 月華氷刃(げっかひょうじん)1

♠♦皇焔&如月文華 W part♦♠



 小遣いをもらった俺は、よくわからないまま如月さんと街まで来た。



 ……まあいいか。

 別に急ぎじゃなかったし、爺ちゃんとの約束はまた今度でも。


 ……如月さんはモジモジしなくなったので、今は波が引いているみたいだ。



「あ、如月さん。お腹空かない? 俺、昼ごはん食べてなくてさ……どこかで食べる?」


 うつむき加減で歩いていた如月さんに話しかけてみた。


「あ、うん……(あー、ヤバいー……。ホッくんの顔まともに見られないよー……)」



 ……元気がないように感じる。

 浮かない顔をしているけど何かあったんだろうか?

 とりあえず何か食べながら話を聞いてみることにしよう。


「じゃあ、前に凍上さんと3人で行ったマッテリアに行く?」


「う、うん! そこ行こ!(とりあえず座って落ち着かなきゃ……。スゥハァ×3)」



 ……呼吸が荒い。

 やっぱり何かあったに違いない。

 体調不良……もしくは不安、疲労からくる過呼吸とか……?



 そんな事を考えながら、俺は爺ちゃんから貰った小遣いを使って如月さんの分も払った。


「あ、一緒でいいです。この『FFFFエフフォーバーガー』と――」


「え、いいよホッくん。自分のは出すから(奢ってもらうつもりはなかったんだけど……)」


「いや、爺ちゃんからいつも言われてるから。『不出来なしたうなら、せめてちゃんころ出させるな』ってさ。意味はよくわからないんだけどね」


 爺ちゃんは「女性にはなるべくお金を出させるな」って言いたいんだろうけど。


「慕う……? そ、そうなんだ(尊敬してくれてるってことなのかな……?)」


「それよりも……トイレとか行ってきても大丈夫だよ。その後でいいから席を取っておいてくれると助かるかな」


「あ、うー、うん。わかったー(……なんでトイレ?)」





「あ、ホッくん! こっちこっち!」


 2階の席を取ってくれていたみたいだ。


「ここって……前と同じ席だね! あ、はいどうぞ」


 如月さんの分を渡す。


 俺は前回、凍上さんが食べてたフィフスフィッシュフィレフライバーガーとフローズンライスを注文していた。

 改めて見ると……結構な量あるんだね。



「ありがと、いただきます……。そだよね、3人で食べた! あの時は三人四脚の練習だったよね! 懐かしいなー」




 食べながら他愛のない話をする。

 ……如月さんの表情から察するに、体調不良ではなさそうだけど。



「えーと……ところでさ、如月さんは何でウチに来てたの? 何か用事あったんでしょ?」



「あ、うん…………。(……昨日あんなにシュミレーションしたのに……。やっぱり言えない……。今日、こくりに来たなんて……)」



 それを聞くと口籠くごもってはなかなか口を開かない。

 あの如月さんがこんなに喋らないなんておかしい。

 やっぱり何かあったに違いない。

 もしかして言いづらいことでも起こったのだろうか。


 改めて聞き直そうとすると――。



「昨日……昨日さ、暑原あつはら行ってたでしょ。(無言はダメだ、とりあえず昨日のことを話そう……)」


「あー、色々あってね。何で知ってるの?」


「えとね……。あたしあそこのスタジアムで売り子のバイトしてんだ。ホッくんだってすぐわかったよ(ホント、分かりやすい……っていうか気づいちゃうんだよね)」


「え! 如月さん暑原にいたの⁉」



 まさか観られてたとは……なんか恥ずかし……。

 高校生のサッカーで売り子なんていたんだ……。

 観客席は全く意識してなかった。


 でもバイト中ならそんなマジマジとは観てないよね。


「Vゴール決定打! ニカドにラストパスもしてたし! 凄かったよ!!(ホントに凄かった!)」


「めっちゃ観てた⁉w でもバイト中だったんでしょ? 大丈夫だったの?」


「あ、いやー! 全っ然平気だよ!!(応援しまくったせいで飲み物全っ然売れなかったんだよなー……バレてオーナーに怒られちゃったけど)」


「それならいいんだけど」



 「サッカー観たよ」ってわざわざ話しにウチまで来てくれたってこと?


 いや、そんな訳はない。

 きっと相談したいことがあって、言いにくいから暑原でのことを話して誤魔化したってところか。


 思ったよりも如月さんは悩みが多い年頃なんだ。

 よし、それなら……。



「そうそう。いきなりだけど如月さんは映画とか観る?」


「え、うん。そこそこ観るけど……(なんでだろ……)



 一度、ゴミ箱に捨てたものを人にあげるのはどうかと思ったんだけども……。

 もし映画を観ることが多いならと、あげるつもりで拾ってきたんだよな。

 捨てるよりかは貰ってくれた方が田中くんも報われるはず。



「よかったらこれ」


 俺は映画鑑賞券ペアチケットを取り出した。


「貰ったんだけどもうすぐ期限が切れちゃうんだ。誰かと行く――」


「ハイ! 行きます!! (いいい行きます‼‼)」



 如月さんのあまりに大きな声に店内にいた客はこちらをジロジロ見ている。



「すぐ行こ! 気が変わる前に!!(すぐすぐ!!)」



 誰かと行くならチケットをあげる……って言おうとしたんだけど……?

 俺が誘ったって思われた?


 けど、如月さんはノリノリだ。

 ……きっと観たいのがあったんだろう。

 まあそれなら丁度いいか。



「じゃ、じゃあ行く……?」


「ハイ……。(ヤバ……興奮しすぎた……。ホッくんと映画デートとかちょっと今日ツキ過ぎ⁉ あー、こんなことならもっと短いスカート履いてくれば良かったっ!!)」



 如月さんは頭をブンブンと振っている。

 観たい映画が色々ありすぎて困ってるのかな?


 でも俺……観たい映画なんてあったかな?

 寧ろ、映画なんて小学生の頃に行ったきりだ。


 まあ何にせよチケット無駄にしないで良かった。

 勿体ないことは嫌いだからね……。



 そういえば鮫島くんたちは、俺の好きな人を〝如月さん〟って勘違いしてたもんな……。

 ある意味、思惑通りになっちゃったってことか。


 でもが俺を好きになるはずないし。

 俺は凍上さん一筋だし。

 ただ映画観に行くだけだし……。



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