第106話 威々濁々(いいだくだく)5

ゴオオオーーーール!!!



ピッピッピーーーーー!



「「「ウオオオオオオオ!!!」」」



 彼の放ったシュートは火を纏いながら相手のGKが出した鉄を溶かし、ゴールネットを焼き切った。



 だが本当に最後の力だったんだろう。

 二楷堂くんはそのまま倒れ込んだ。




「ニカドーーー!やったな!!」

「おま、なんちゅうシュートカマしてんじゃ! ボール蹴った瞬間に燃えたぞ!!」

「同点だ同点!!首の皮一枚だぜ!!」




 みなに抱き起され二楷堂くんは軽い胴上げをされている。


「全く……。まだ勝った訳でもないのに浮かれてるな……まあ無理はない。負けるのと延長戦じゃ全然違うからな。……皇くん、オレの判断は間違ってなかったと思うと誇らしい。ありがとう」


 キャプテンは二楷堂くんらの輪に入らず、俺の肩を叩きながらそう言った。


「俺はちょろっとしか助力してませんよ。魔武イチは本当に、いいチームだと思います」


「……そうか。相手のキーパーももう虫の息だろう。あと一本、俺たちに力を貸してくれ」


「できる限り頑張ります」


 ……ん?

 延長戦……? あと一本……?


「えと、同点だとどうなるんですか?」


「延長で、次に決めた方が勝ちだ」


 ブ、Ⅴゴール……!!!

 まさか今時Ⅴゴール方式なのか……。



「皇ーーー!! 神パスすぎだぜ!! もう相手GKは動けないだろ! 勝てるぜー!!」



 さっきまで力なく倒れ込んだ二楷堂くんは俺に駆け寄ってきて、既に勝った気でいる。


 確かに相手のGKは最後の力を振り絞ったセーブだった。

 だがこちらも同じだ。

 二楷堂くんももう【雷塵シュート】は打てないだろう。

 それに……相手の様子が気になる。


 全く焦っている様子は見られない。


 普通追いつかれたら少しは焦ってもいいだろう。

 確かに焦ったところで何も変わりはしない。

 だがそんな素振りは全くない。

 むしろ、笑っている者さえいる。


 うーん、腑に落ちない。




 10分間の休憩後、延長戦が始まるという。

 その間に俺はトイレにでも行ってリフレッシュでもするとしよう。




 お通じではないが、いつものように個室に入り一息つく。


 確かに俺は、まだまだ余力を残している。

 だけど二楷堂くんや他のみんなが心配だ。

 彼らはもう魔法は使えないだろう。

 m-スポーツがどれだけ過酷か聞いているからね……。


 前に部長は『魔法はマラソン』って喩えてた。

 元からガンガン走らなければならない競技なのに、魔法を打つとマラソン数メートル分のスタミナを消費するという云わば『体力+魔力の同時消費』なのだ。

 バランス・コントロールが非常に難しい競技の一つに挙げられる。


 だが、相手選手も同じく消耗している。

 速皮さんならきっと俺のパスを受けられる実力があるはずだ。

 そう考えると、消耗しきった二楷堂くんと速皮さんをチェンジしてもらった方がいいのでは……?




「はぁー、しっかし魔武イチもしつこいですね」


「ああ、まあな。そもそも出場してくると思わなかったぜ」


 相手の選手だろうか。

 俺に気づかず話をしている。


「はぁー、まさかBBQビービーキューを使うことになるとは思いませんでしたよ」


「おい、外でその話はするなって言っただろ!」


「すっ、すみません!!」


「……まあいい。いいか、余裕のフリは見せるなよ。あくまでギリギリ感を出せ。気づかれるな」


「わかりました」




 ……。

 どういうことだろう。

 明らかに怪しい話をしてたけど……。




 俺はこっそりと個室を出た……のだが……。

 先ほど話していた2人に見つかってしまった。



「ほらな。やっぱり誰かいただろ。だから話すなと言ったんだ」


「ハハ……ホントすみませんw ……でコイツ、魔武イチの助っ人ですよ。桐ケ崎きりがさきの蹴り止めた奴です」


「あんなのはまぐれだ。……フン。助っ人か、通りで見ない顔だ。ま、それならバレても大丈夫か。どうせあのチームに思い入れもないだろ」


「ですね。……オイお前。さっきオレたちが話してたの聞いたろ? これで聞かなかったことにしろ」


 そう言うと紙幣を数枚渡してきた。



「……、これは口止め料ってことですか?」


 そういうことなんだろうけども、改めて確認してみた。


「察し悪い子ちゃんか? いいから取っとけよ」


 本当に気分が悪い。

 発言も行いも全て。


「大丈夫です。こんなの無くても俺は何も言いませんよ」


 数枚の紙幣を奪ってその人の前に突き返す。



「……なんだ、なら話が早い。お前のラストパスのせいで二楷堂に決められちまったが奴ももう魔力切れだ。どーせ負けるんなら別にこんなのいらないか」


 そういうと、俺が突き出した紙幣を横から奪ってポケットに入れた。


「あっ、なんでキャプテンが……」


「アイツにやったと思えよな! ぶん殴るぞ」


「ひっ……わかりやした」



 マジか……キャプテンだったのか。



 そういうと2人は去っていった。相手チームは一体何をやってくるんだろうか。

 前半後半戦ってみて、ラフプレーもないし普通に強いと思っていたんだけども。

 蓋を開けてみたら案外、黒い部分があるのかもしれない。



 俺は駆け足で自チームに戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る