第107話 威々濁々(いいだくだく)6
「皇くんも輪に入って。……よし、いいか? 作戦確認! FWは皇くんと四郎、速皮はボランチで全員のデバフを解除してくれ。みんな……、準備はいいか? 泣いても笑ってもこれが最後だ! ……って、勝っても次はあるんだけどなw みんなももう限界だろうけどそれは相手も同じだ! いくぞ!!」
「「「魔武イチ……ファイ!!」」」
円陣を組んで気合を入れる。
円陣なんて憧れだったんだけども、まさか死ぬまでにやれるとは思ってなかった。
いや……、死ぬまでには、やれなかったなあ。
まあいいや。
速皮さんは全員をフォローできるポジションに配置したのか……。
さすがキャプテン。
相手がどう出るのかわからないけど、俺は俺なりにやれることをやろう。
ピーーーーッ
延長戦がスタートした。
俺はFWだが、二楷堂くんは魔力・スタミナ共、完全に切れている。
スピードも今は6~7割程度になり、ドリブルのキレもなくなっていた。
だが、速皮さんのサポートで攻め込んでいく……!
ドッ……!
「皇! あがれ! 逆サイ!!」
速皮さんは俺に指示を出していた。
先ほどの、速皮→俺→二楷堂のコンビネーションを繰り出そうとしているとすぐにわかる。
ここは俺がどうにか繋いで、今の二楷堂くんでも決められるようにする。
「よし……《瞬炎》……!」
シザーズ……!
エラシコ……!!
2人、3人とドリブルで抜ききり、コーナー付近へたどり着く。
二楷堂くんは再び相手のペナルティエリア内へ食い込んでいる。
「なんだアイツ……! ヤベェはえェ!!」
「ついていけねぇぞ!!」
位置取りは先ほどよりも完璧、これなら俺のパスが容易に通るだろう。
火の力を入れ込んだボールは二楷堂くんの元へ。
「これで……決まっちまえ……!!」
案外あっさり決まるか……と思われたが……。
♧アイアン斉藤side♧
俺の鉄を突破してきたのはやはりアイツの力か?
だがどうみても無魔だよな……。
さっきのシュートは鉄を砕いたのではなく、溶かしたという感じだった。
鉄の融点は1500℃だぞ……⁉
その温度を出してきたというのか……!
……二楷堂のヤツは«雷単»、«火»は使えないはず。
あの高密度な火を入れ込むためにはボールに直接触れる必要があるだろう。
やはりラストパスをしたコイツが火を……?
どんなカラクリか知らんが……カリッ……BBQを使えば問題ないんだよ!!
「ハァァァ……【クロム・ウォール】!!」
ヒヒッ……これなら2600℃までは耐えるぜぇ!
ゴンッ
♠皇焔side♠
な、え⁉
魔力切れかと思われたアイアン・斉藤さんは先ほどとは違う銀白色の金属の壁を出し、いとも簡単にシュートを弾き返したのだ。
これには俺も驚きを隠せなかった。
火の力を入れ込んだにも関わらず弾かれてしまったからだ。
高々、10分程度の休憩でMPを回復できるはずがない。
そしてその事実は、希望から絶望へと変わる。
相手の余裕の表情……MPの回復……先ほどのトイレでのやり取り……。
相手に渡ったボールは今までにない動きでパスを繋いでいく。
「おいおい、まだそんな動きが出来……⁉」
「や、やばい! 全員戻れ!!」
突如のカウンターに愕然としている俺の横に、先ほど相手のキャプテンと言われていた人物が来て話しかけられた。
「クヒヒ……。そういうことだ」
「完全にやってんな……アンタら……」
さすがにキレそうになる。
どうみても消耗後の動きじゃない。
「あれほど抑えろって言ったのにアイツら聞かねぇからなあ。まあ気持ちよくてブチかましてやりたくなるほど高揚するんだよな……ヒッ……ヒヒッ……」
……なんだ、この人の目……。
まるでクスリでもやってるかのような……。
いや、それよりも今は戻らないと!
視線を戻すと、センタリングを出された瞬間だった。
まさか……これで終わって……。
「残 念 だ っ た な ご 苦 労 さ ん」
周り全てがスローになる。
もう俺の手が及ばない位置で……
たかが助っ人だし……
もう一度サッカーがしたかった……
もうどうしようもない……
俺を受け入れてくれた……
「皇くん。ありがとう」……
「ああああああああ!!!」
気が付くと叫んでいた。
もう終わってしまうかもしれない、そう思うと今はただただ悔しかった。
どうにもできない無力さが、余計に腹立たしかった。
♧魔武イチキャプテンside♧
瞬く間に詰められてしまった。
相手チームは疲れを知らないのか?
背水の陣ってやつか?
だが、ただ手を
もう相手の射程内……、センタリングが風魔法による2段階変化……いや、3……4⁉
もはや予測不可能な動きを見せる。
「オラ決まれよ!!」
雑に蹴られたボールはとてつもないスピードと威力だと分かった。
間に合え……!!
「【マチスモ】……!!」
ドゴッッッ……!!
♠皇焔side♠
とんでもない威力の蹴りを、キャプテンは顔面で受けた。
いや……顔面を狙った……?
あの威力の蹴りを受けてもなお、倒れず立ち続けている。
吹っ飛ばされてたらボールごと入っていたに違いない。
零れたボールは速皮さんへ……。
「キャプテンが死ぬ気で止めたんだ、繋げ!!」
しかしパスを上げた速皮さんはトリッピングされ吹き飛んでしまった。
……笛は鳴らない。
もう相手は、完全に愉しんできていると認識した。
パスを受けた二楷堂くんと目が合う。
その瞬間……。
ドガッ……
今度は相手選手のジャンピングアットによって二楷堂くんも数メートル飛ばされてしまった。
ピーッ……!
今のはさすがにファールを取った。
イエローカードが出たが、レッドでもおかしくなかった。
直接フリーキックを取ったがもう負傷者数名……。
完全に頭にきた。
二楷堂くんは俺に託すように手を伸ばしてきた。
その顔を、俺は心に刻み付けた。
もう蹴ることができるのは俺しかいない。
位置的にミドル……いや、ギリギリロングレンジか。
そして相手GKは銀白色の鉄を出して広範囲を守っている。
延長から豹変した相手側のプレイスタイル……数々のラフプレー……およそ普通ではない魔力の回復……。
もう許すことはできなかった。
「銀白色の金属……モリブデンか? 決められない自信がありそうだね。俺も心置きなく全力が出せるってものさ」
ピッ……!
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