第105話 威々濁々(いいだくだく)4
「な、何かわかったのかい⁉ 皇くん!」
キャプテンは試合中なのに俺に掴みかかる。
ギュウウウゥ……
「あっ……すまない。助っ人である君に無理はさせられないが、何かわかったのなら教えてほしい」
「……まだ確証はないんですが……。俺にやらせてください」
そう言うとキャプテンは一度静かに目を閉じた。
「……どの道このままじゃ負ける。君に託してもいいかい……?」
再び開いたその目は覚悟を決めた者の目をしていた。
キャプテンは考え抜いて俺に託してきた。
これが最後の大会になるかもしれない状況で、部外者に頼むという決断をしたんだ……。
キャプテンの覚悟を受け俺は、改めて部の一員として試合に臨むことを決意する。
ワーーーッ!!
先ほどのカウンターも相手のGKによって防がれてしまっていた。
「く……みんな、もう時間がない。……皇くんと極目くん、ポジション交代だ」
「え⁉ オレを外すのはいいとしても……。でもいいんですか⁉ 皇くんは助っ人ですよ?」
「これはキャプテンであり監督としての指示だ。それに極目くんだって限界が近いだろう……。ここは皇くんの考えに乗るしかないんだ」
「……わかりました。皇くん、君はあの2段階シュートを止めた。きっと本当に実力があるんだと思う。だからこそ……、頼んだ」
そう言うと極目さんからも肩を叩かれた。
「皇、オレからも頼む。お前は無魔だが、あのアッシュと2度もやりあった。それだけでも凄いことだ。それにお前は助っ人ってことで遠慮しているように見えるんだよな。まだまだ余力あるように感じる。思いっきりやってくれて構わないんだぜ! ここはフィールド、走るのに許可なんかいらねぇ。目指してみろよ、
ビシッ!!
二楷堂くんは相手のゴールを指さした。
きっと俺を奮い立たせてくれているんだろう。
でもゴールを決めるのは俺じゃないんだよなー。
さすがに部外者がそこまで目立つ訳にはいかない。
最高のアシストをするよ。
これ以上ないくらいのラストパスを……。
「それと……ここからはこちらもツートップに変更。3-3-2-2へ! 速皮、ボランチ頼めるか?」
「はい、キャプテンの采配通りに!」
速皮さんを下げたのはきっと理由があるのだろう。
「それにしても……。オレの«雷»が全く効かないってことは何かやってるに違いないんだよ。今までは普通に食らってたんだし……。大体、弱点を突いても破れないってのは絶対おかしい。それがわからない限りオレたちに勝ち目はない……」
二楷堂くんはそう漏らした。
*
「いくぞ、もうアディショナルタイムだ! これがホントにラストチャンス! 気張れ!!」
ボールを受けた速皮さんは一気に俺へロングパス。
バフありの敵すら反応できないくらい本当に良いボールコントロールだ。
その瞬間、体が一気に重くなる。
相手からのデバフがかけられた証拠だ。
だが、一瞬で元に戻る。
速皮さんが俺にかけられたデバフを解除してくれたのだろう。
紛れもなく今日のMVPは速皮さんだ。
「皇! 押し込め!!」
相手のペナルティエリア内に入る手前、GKの近くにいたDFを見る。
……やっぱりな。
これなら二楷堂くんの電気が効かなかったのが頷ける。
2回目のシュートを防がれた時になんとなく「それかな」って思ってた。
改めてしっかり見たら一目瞭然だった。
こっそりやってたみたいだけど同じ火属性だから特にわかっちゃうのかもね。
〝GKに火を付与〟してたって。
いや、付与ではないか?
アナライズした先輩がバフじゃないって言ってたもんな。
今は時間がない、とにかく追いつくことに専念しないと。
敵の4-4-2を崩すのは
まずは俺と相手の距離感を……惑わす!
《瞬炎》……!
俺はコーナー近くまで走り出すと一人のDFがマークに来たため、すぐに相手の陣形が崩れた。
それに気づいた相手GKは大声で叫んだ。
「……わ、罠だ戻れ!! 残り時間少ない! 下がれ!!」
その声にすぐ俺へのマークを外しディフェンス陣形へ戻す。
一瞬の判断ミスが全てを狂わせることを俺は知っている。
一方俺は、逆にドリブルが早すぎてゴールラインを割りそうになる。
「そのままゴールラインを割っちまえ!! 割ればオレらの勝ちだ!!」
ゴールラインを割る寸前でインサイドにいた二楷堂くんへギリギリパスを通す。
すると、MFは慌ててGKに«火魔法»を放った。
「俺の〘燧食〙は火を消すだけじゃない。熱量そのものを無に帰す……!」
走りながら右手を前に出す。
〘燧食〙……!
「とっておき……頼んだよ!」
諦めかけていたのか、唐突にパスされた彼は少し慌てていたが、すぐに【雷塵腱】を発動させた。
「よし! 最後の力……、みせてやる!! 【雷塵シュート】!!」
ビシイッ……ドガッ!
「うおおおおおぉぉぉ! 【アイアン・ウォール】!!」
ドッ……ビリビリビリビシィッ……!
二楷堂くんの放ったシュートはGKを捉えた。
「うぎぎぎぎぎ……!! ぐ……バカな……体が痺れて……」
「まさか⁉ 何度も火で攻撃したはずだぞ!」
あれは攻撃だったのか……。
味方を火で攻撃して、鉄を変質させるとか凄い発想だ。
熱した鉄は電気を通さない。
だから【雷塵シュート】が効かなかったんだ。
ぶっとんだ発想……、属性同士反発しあうはずなのによくやろうと思ったよ。
少なからずダメージあるはずだし。
やはり属性を繋げ合わせる法則でも存在するのだろうか。
「意地でも……入れさせぬ……」
感電した筈のGKは出現させていた鉄を弾いてこぼれ球をクリアしようとする。
絶対に決まったと思うほどの、これ以上ないシュートが防がれてしまった。
今ので押し切れないほど、相手も死力を尽くしてきている。
すごい執念だ。
ボールはかなり戻されてしまったが、《瞬炎》にて追いつく。
そのこぼれ球をどうにか拾うとこちらも火の力をボールに入れ込み、再び二楷堂くんへパスする。
審判は時計を見ている。
ホイッスルはもう鳴らされるであろう。
「二楷堂くん!!」
ラストチャンス……頼んだよ!!
♧二楷堂side♧
もう……時間がない……。
ここまで頑張ってくれたキャプテン、みんな、そして皇……。
負けたらもうキャプテンたちとは試合が出来ない!!
もっと
オレの青春……
「振り抜けぇぇぇぇ!!!!」
その、皇の声はだけはハッキリと聞こえた。
「うおぉぉぉぉ!! ノーマルシュートだ!!」
ドガッ……ジュッ……シュルルルルル……
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