第74話 忘若無人(ぼうじゃくぶじん) 6
◆逆井光side◆
「え、電車動いてへんやん! 代行バスしか出とらんし!」
さっきのゲリラ弩雨の影響で電車は運転見合わせとなっていた。
しかもつい数分前から見合わせとなったようだ。
ウチが傘を忘れなければ間に合うたかもしれん……。
いや、そもそも兵頭が遅刻なんかせぇへんかったら……。
今それを考えてもどうしようもあらへん。
ここで代行バスに乗られへんと、泊まれる場所まで辿り着けへんくなってまう。
「……しゃーない、バスで行くで!」
2人にそう告げるとバス停まで走る。
なんか全然思い通りいかへん。
こんな日もあるわな……。
「はぁ、はぁ……。あーギリ間に合うたな。2人とも、忘れモンないよな?」
「大丈夫だ……ハァ……ハァ……。俺は体力落ちてるから……走るとキツい……」
「はは……。兵頭は贅沢が抜けきれず絞り切れてないからな。拙者を見るがいい。この元通りの肉体を!」
「おい藤堂、見せんでええ! 前から言っとろうが! お前はもっと
「は、はい……」
「フッ……相変わらずいいコンビだな」
「だーれが名コンビや! コイツのギャグセンスじゃトップは目指せへん。もっとおもろい人材を探すんや! 来年の新入生に賭けるで♪」
「はいはい。拙者たちについてこられる人が入るといいですね。とりあえずこれで間に合いそうですね」
「…………」
ウチは星の巡り合わせいうんは信じん方やけども今回のことは何か引っかかる。
……とにかくロッジまで着ければ問題あらへん。
あそこには色々と役立つモンが置いてあるからの。
バス停を降りたら後は、15分くらいで着く。
予定の時間を大幅に遅れてしもうたが、あとは一本道や。
「よーし、ここまで来たらあとは歩くだけや。暗くなってきてしもうたから辺りに気を付けて進むんやで」
「拙者の忍術で周辺一帯を照らしながら進むでござる」
「待て、それだと炎獣の的になるぞ。俺が防獣ランタンを持ってきた。この青い光なら気づかれない」
「ほー、準備がええな兵頭。やるやん、見直したで」
兵頭のランタンを奪いとり、ウチを先頭に歩き出す。
……が、すぐに歩みを止めることとなる。
「な、なあ……。これ、雨のせいやろか……」
小さい川やが、橋の一部が崩れて渡れんくなっとる。
「またもや山場か……。ここまで崩れていると迂回しなくては川は渡れぬようですな」
「…………」
「南西へ回るか。そっちの橋の方がしっかりしとったもんな。ほな行くで」
ここまでうまくいかんのは初めてや。
何か説明のいかん不運が押し寄せてるに違いあらへん。
こないな時こそ、転換の意識や。
この世は
良いこと悪いこと、無作為の連続や。
必ず転換するんが人の運。
焦らずじっくりと待つんや……。
「おお、こちらの橋ならば無事であったか。まずは拙者が通って見せ――」
「回り道言うても許容範囲内やな。このまま行くで」
「……部長は石橋を叩かず渡るタイプ?」
「あーん? この橋は石やのうて木やからな。ウチが叩いたら壊れてまうで」
「……。ついていきます!」
ここから川伝いに順路へ戻るんもまどろっこしいもんで、獣道をそのまま突き進む。
「ぶ、部長! まさかここから行くつもりですか⁉ さすがにそれは……!」
「もう目の前や! 少し我慢すりゃ――!」
「ぶ、ぶちょ――」
*
ウチが横になっとったのか。
目を開けただけじゃ気づかんかったわ。
岩に囲まれた祠に銅像……。
【アナライズ】せんでもこの禍々しい雰囲気をウチは知っている。
この場所を。
「イタタ……。部長……? 大丈夫ですか? 兵頭……? 生きてるか?」
「あ、ああ……。ここは……」
「マジか……! ここは〖希少点穴〗! キタでキタで! ここの運のためやったんか!」
「〖希少点穴〗ゥゥ⁉ まさか拙者たちが遭遇するなんて!!」
「ここに……〖アカシックライブラリ〗が……」
「いや、念のため【アナライズ】したんやけどテーブルまではわからんかった。けど踏破のためや。アンタらの持ってる転位硝石よこしい!」
「は、はぁ……」
「ほら、兵頭も」
「お、おう……」
「ええか。これから出てくるガーディアン。死ぬ気で倒すで」
「いいっ⁉ 拙者たちでやれるんですか?」
「やれるかどうかやなくて、やるんや!! ええか、命賭ける価値があるんが〖希少点穴〗なんや! どうしようもなくなったら……ウチの判断で戻る……。ええか、何としてでも倒すんや!」
ゴゴゴゴ…………
地面が揺れ出し、祠の奥の銅像にヒビが入り動き出す。
「これ、倒すってマジで言ってるんですか?」
「せや。倒し方知らんから連携から試すで! 藤堂! 忍術準備や! 【フラムリボン】!」
「……御意。《藤堂流
ウチが出した火のリボンにより、でかい銅像は拘束された。
「おー? なんや、思たより見掛け倒しや――」
ブチィッ……
「な! リボンを引き千切った⁉」
火の拘束は解かれたが、そこでようやっと藤堂の«土»が発動した。
ッドドン……
若干の仰け反りを確認した。
ウチの【フラムリボン】はノーダメで藤堂の《土遁󠄀》は食らったやて……?
しかし食らっても尚、銅像はこちらに突進してきよる。
ブンッ……
大振りの攻撃やがこれを一度でも食らったら終わりやろな……。
「なんや藤堂、コイツは«土»が弱点かいな? せやったら《土遁󠄀》連打で頼むで!」
「……御意。《藤堂流
「少しでも拘束するで! 【フラムリボン】!」
再び火のリボンが銅像を拘束する。
が、今度は容易に解かれてしまう。
……ドドン……
「なんや、ウチの拘束は全然効いてへんちゃうか? どないなっとんねや……。あの銅像自体が属性を対策しとるっちゅうことなんか?」
「拙者の
「ん……? つまりどゆことや」
「3HITするはずが2HITしかしてませんね……」
属性吸収……それか属性抗体か?
一応ダメージは通ってるんやったら……考えられるんは……。
「《血塊岩》!!」
このタイミングでいきなり兵頭は«血魔法»を放った。
コンッドゴンッ……ドタン!
大きな音と共に銅像は仰け反ってひっくり返った。
「な……なんや今の威力……⁉ ホンマにあれが兵頭の«血魔法»やったん? しかも2発同時に撃てたんか……」
今ので確信したことがある。
兵頭の1発目は当たったが砕けずに落ちた。
だが2発目は当たって砕け、銅像にダメージが通った。
属性の連続攻撃でダメージが……?
せやけど兵頭の土遁も次のターンでは、1発目がまた無効になっとる。
これらを考えると、同じ属性を一定時間内に当てるとダメージ……ってところか。
「藤堂! «火»や! 《
「……御意」
藤堂の《火遁󠄀》は比較的連発が出来る。
その数秒でウチの高火力の«火»で攻める……!!
「《藤堂流
印を結んどる藤堂を
「……!! アブい!! 逃げ――!!」
ブンッ……ドゴォォッ……
「……ッッッァ!!!」
銅像が投げた《血塊岩》は投げた軌跡が見えんほど速く、兵頭の足に当たった。
鈍い音が鳴り響き、兵頭は声なくして崩れ落ちた。
「ひ、兵頭!!! おま……ッック……」
パッと見で右足粉砕骨折、左下腿開放骨折……か。
これ勝てなかったらマジでくたびれもうけやん!!
「兵頭! キバリい……!! ウチがこのふざけた銅像ぶっとばしたるけーの!」
「さ……か……い……」
「ウチの最高の«炎»……。全て出し尽くすわ……」
ゴオオッ……
「ちぃとばかり〝賭け″がないと張り合いないな。ええでぇ。向こう1年、ウチの«火»持ってけ。それだけ値する敵やわ」
「ぶ、部長⁉ まさか【魔力犠牲】まで使う気ですか⁉」
「これでイーブン。チャラや。こないな強敵倒すんに何もなしやとカワイソうやん。ウチの【魔力犠牲】を以てしてギリギリ倒した方が語れるやろ」
「ななな、何をそんな呑気に……。どうするんですか合宿は! 学校は! 部長がいなくては拙者のみで――」
「そんなこと言うてる場合やあらへん。自分のやらなきゃいけんことを考えや。やれ、藤堂! 【魔力犠牲】!!」
「……丁度溜まりました。《藤堂流
藤堂は溜めた火をリズミカルに打ち出す。
そのタイミングに合わせてウチの炎を繰り出す。
「【ヒート・ベザンテ】!! 【フィアマ・モレンド】!!」
ドガッドガッドガッドガッ
火炎の応酬というに相応しい連打。
これに耐えよるモンがおるなら……。
その時は
ズドォォン……!!
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