第72話 忘若無人(ぼうじゃくぶじん) 4




「ほんじゃあ呪界中層でええやんな?」


「異議なしでござる」


「俺は……あまり気が進まない」


「おお……? あー、アンタん«血属性»は使い勝手悪いもんなぁ。呪界が怖いんよな?」


「ち、違う……そうじゃない。いくら部活の合宿とはいえ、教員の引率なしで行くのは危ないと思っただけだ」


「せやかて兵頭……、ウチん部は顧問おらんし」


「合宿まではまだ猶予がありなさる。それまでに自身の研鑽を積めば結果が出るのでは?」


「ま、3人なら余裕やろ。ウチの拘束と藤堂の……隙デカ忍術でOKOや」


「なんですかその、OKとKOが混ざったような……。それには余計ですし、«水忍術»が使える拙者が前衛に立つべきだと――」


「ほー。ほなら1人でやってみいや。フクロにされるかされへんかA定5食分、賭けたるわ」



「う、うぐ……。……調子乗ってすみませんでした」


「アッハッハw ウチがおって初めて藤堂の忍術が活きるんやから、そないな強がり言わんことや! ちなみにOKOやが、ホンマは『お前、ここに、おったやろ?』なんやで♡」



「…………」




 せや。

 自信過剰やなく、

 今の炎天化時代でも、この«火»なら十分やれんのや。


 昨今、こぞって炎獣を倒すことに固執しすぎてる。

 個人で討伐することが大前提、んで最優先。


 なんやろな。

 今、魔法に溺れるモンがホンマ多いんよ。 

 部隊の司令塔、指揮系統がポンコツだと一瞬で捲られる。

 特に炎獣は、種族や個体別でも強さがピンキリで変わる。

 せやから戦況によって戦い方変えんと長生きできひんやん。


 敵だろうが獣だろうが、鍛えれば強くなるんが定石。

 そんなアタリマエのこと、ウチら人間だけが当てはまる特別なことやあらへん。


 そして、人間に足らんのは機転や発想力なん。

 例えばウチで言うと【フラムリボン】やが、«火»を攻撃として使うんやなく、別の用途として使うてる。

 そういう発想に至るかどうかや。


 『The flame fears no fire.』〝炎は火を恐れず″

 そんなタイトルで出された論文にウチは釘付けやった。

 国際魔法研究所の研究結果によると、『基本的に炎獣は«火»に対して警戒心が皆無』なんやて。

 それは炎獣自身の火耐性にあるらしいんやと。

 怖ないモンにいちいちビビらんちゅうことやね。


 そこで考え出したんが【フラムリボン】。

 火への警戒の無さを逆手について拘束出来る言うんが有用さやろな。



 確かに六魔神ろくましん七賢者しちけんじゃ、英雄選抜者、炎天化解明チーム所属にいる偉いヤツは心底、強いで。

 でも強いヤツイコール魔法力ではないわ。

 そこ勘違いするヤツがマジで多いねんな。


 炎獣を仕留めたらいちいちネットに上げる人間バカ

 「一人で余裕」だの「正義は勝つ」だの言いたい放題言い腐りおる。

 アンタらのクソ正義で守られんのは国やのうて、承認欲求の塊な己のプライドと、偽善まみれの薄っペラペラな正義感だけや。



 好きでヤツらは……炎獣になったとちゃうんにな……。



 ……そういや最近、外来種がかなり繁殖してる言うとったか。

 ファイラタートルの外来種がかなり雑食で、在来種が食われて絶滅しやん言うとったもんな。

 炎獣同士の争いもまたしかり、弱いモンが淘汰されてくん。


 人で言うと藤堂は絶妙なんよな。

 藤堂自身は無魔なんやが、忍術により魔法のような攻撃ができる。

 しかも属性は破格の«四属»やからバリエーションに富んどる。

 忍具も事前に揃えておけばウチより厄介な相手になるはずなん。

 そもそも魔法やないからかAMAにも弾かれんしな。



 ……そんな藤堂を2番手たらしめる理由。



 〝術の発動速度〟や。



 炎獣相手に瞬時に対応出来ひんなんて使い物にならへんやろ。

 それこそ後衛やってろやになってまう。


 でも、本当はそれでええんや。

 藤堂が後衛なら多少、印を結ぶんが遅くても安定する。

 しのびに魔法使いポジさせんのはオモロいけどなw


 前衛が輝く時代。

 その真意から変えていかへんと炎天化は終わらんかもしれん。



 まあええわ、どうとでもなるやろ。



「……ほなら兵頭。1週間前まで己磨いてそっから決めよか。のぅ!」


「なんか……随分考えごとしてたな。わかった」


「拙者も印を結ぶ練習をひたすらに行うでござる」

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