第71話 忘若無人(ぼうじゃくぶじん) 3




体験入部 当日



「ハァ……誰も来えへんなぁ。部活志願者……」


「なあ、本気で『魔法研究同好会』を立ち上げようとしてるのか? 逆井――」


ドカッ……


「おーん? 藤堂ぉ。アンタ、ウチに負けてタメ語たぁエエ度胸やん。『さん』をつけりぃデコハチ野郎!」


「うぐうっ……デ、デコ……す、すみません逆井さん……!」


「ったく……。同好会やのうてちゃんとにしたいわ。それに3人くらいおらんとカッコつかへんのやけど」



「……! おい……お前……」



 不躾な呼びかけに機嫌が悪くなる。


「あぁ? アンタ誰にモノ言っとんねん」


「名、何と言う」


 見上げるとボロッボロの学帽にすすけた学ランの大男だった。


「あーん? ウチは『逆井光』や。見るからに頭ぁ脳筋が何か用かぁ!?」


「……さか……い……さか……」



「おーい東、やめとけって。今更入部する気か? 四天王がそんなことやるわけないよなぁ?」


「く……、西之。この手は何だ、止めるのか」


 四天王やて……?

 勢いに任せてガンつけまくっとったが……コイツら、相当強いで……。


「オレらみたいな輩は表に出ない方が良いに決まってんだよ。んじゃな、嬢ちゃん。邪魔したぜ」


 そう言ってデカいのを押して立ち去った。


 アイツらが四天王……?

 やっぱ魔武学はおもろ……!





「む、魔法研究部はここであってるか?」


「……ハイハイせやで! 今年からのご新規参入部やから新鮮とれたてピチピチ! 入部希望ん方は名前書いたってー!」


 次に来たのは冴えない顔の男。

 さっきデカブツを見たばかりやから霞んでしもたが、ガタイは良い方やな。


 名前は……『兵頭慈雨』か。


「アンタ、ガタイ良いけどなんかしとる?」


「空手を少しな」


「フーン。運動部からの文化部……、そんでホンマにエエんか? 入ったからには辞められんで? 覚悟あるんか?」


「ああ。それでいい……」


「……ヨシ! やったな藤堂! コレで3人……」



zzz......



しのびの癖に何、呑気に寝てるんやバカたれ!」


ドカッ


「ガフッ……! ゴホゴホ……逆井……さん! それはいけません……!」


 キレイに脇腹へ入った蹴りによって藤堂は悶絶中。


「何ィ、寝腐りおってからに! 次、寝よったら永遠の睡眠やで!」



「フフフ、ハハハ。面白いヤツらだな。ここなら楽しめそうだ!」


「……誰ですか? この肉だるまは」


「藤堂! 新人に『肉だるま』やあらへん! すまんのう、コイツ口も悪い忍者バカで……」


「『とうどう』……か。俺は『ひょうどう』だから名前は似てるな。よろしく頼む」


「……初対面で失礼した。こちらこそ頼み申す」



「……なんや。一瞬で仲良うなったな。オネーサン、妬けるわぁ。BL展開期待するで」









「金賞いえぁぁぁぁい!!」


 恥ずかしげもなく、高らかに声を張り上げた。


「ちょっ、部長! やめてくださいみっともない……!」


「無駄だ藤堂。好きにさせておけ」


「何言うてんのや! 金賞言うたらドンモセレクションみたいな……ってそれはあかんヤツやったわ……。ともかくうえぁぁぁぁい!!」


「こなきゃよかった……」


「俺はもう慣れた」



 開発魔法コンクールに、ウチの火魔法【フラムリボン】を出したらそれが金賞に選ばれたん。

 これがどれだけ凄いことか。


 炎天化の時代に«火属性»の魔法が選ばれたことがまず有り得ない。

 評価基準は主に、魔法の『有用性』『優美さ』『ネーミングセンス』『大衆ウケ』だ。


 確かにこの魔法を作り出すのに構想半年、実践半年と丸一年を費やした。


 やっぱ必殺技は必要だ。

 それがその人物の切り札やネームバリューにもなる。

 あれや、格ゲーでもそやろ。

 その必殺技で強敵でも倒したら盛り上がること間違いナシや。


 せやから『魔法名』は大事。

 ウチ、元々ドラムやっててん、『フラム』はそっから取ったんや。

 響きも火っぽいしの。

 『リボン』との相性もエエ。

 炎のリボンやもんだから『優美さ』と『大衆ウケ』に関しては申し分ない。

 問題は『有用性』にあった。


 火魔法自体が蔑視される時代やからな。

 せやけど、この魔法のキモは〝拘束″にある。


 火のリボンが手でも足でも縛り上げて行動不能にする。

 入試ん時のマッドドールの様に……。


 これが決め手やったろうな。



「逆井、これは存分に自慢していいことだ」


「へへん。言われんでも自分から新聞部にタレコむわw」


「……恥ずかしい」








「なんや、金賞言うても賞状と盾だけかいな」


「そうですよ。何がもらえると思ったんですか? 食べ物なんかが貰えるとでも?」


「藤堂……。トゲの塊みたいな発言やけども、命は粗末にしたらあかんで」


「ヒッ……兵頭! 助けてくれ!」


「むう。ならば何か食べに行くか。逆井の祝杯でもあげてやろう」


「ホー、兵頭。エエこと言うやん! ならウチがとっておきの場所に案内したる!」


「部長のとっておき……。怖いような恐ろしいような」


「アンタの口に【フラムリボン】をしたらどないなるか知りたいな」


「さ、さぁさぁ行きましょう!」


「……藤堂、お前は本当に忍者なのか……?」





「着いたで。やっぱ混んどるな」


味家乃屋みやのや……。ここは何の店なんです?」


「フッフー。食べて驚くなや! スイーツのドンモセレクション金賞受賞――!」


「そのネタはもういいですって。男2人をスイーツの店に連れて来て……大丈夫なんですか?」


「……俺も甘い物などそれほど好んでは食べないが……」


「カーッ……アンタらときたらそないに食べもせんと文句ばっかりやな! はよ行くで!」



 2人を店内に連れて行き、テーブルに座らせた。



「……あの、何を選んだらいいんです?」


「逆井、俺も初めてだからよくわからん。自分の好きなものと俺らの分も適当に頼んでくれ」


「ふむ。初心者なら……この辺がオススメやな。えーと、ウチはコレとコレと……あとコッチのも……」


「部長! 節度ある注文をしてくださいよ! そもそも拙者達よりも金持ちなんですから!」


「なーん、わかっとるで。でもそうやないんや……。アンタたちが奢ってくれるいうんが嬉しくての」



「「…………」」



「ほな注文したで。ベロが落ちるでの」



 待つこと5分程。



「お待たせしました。ヤワラカソフト3つ、ジャーマンジンジャーソフト3つ、ハンドメイドケイクの4号です」


「イイッ⁉ なんでこんな量頼むんですか! 食べられるかもわからないのに」


「こ、これはいっぺんに頼んで溶けないのか?」


「大丈夫や。«氷»の永続魔法がかかっとると。せやから食べ始めるまでは溶けへんで。文句ばっかり垂れてのうで一口食べてから言うてみ」


 文句ばっかりの2人の目の前にコーンスタンドを押し出す。



「……で、では頂くとする」



ペロ……



「……!」



ペロ……ペロ……



「ひょ、兵頭……?」


「へっへー。こういう事じゃ、藤堂。アンタも早よ食べ」


「……じゃ、じゃあ……」



ペロ……



「……!!」



ペロペロ……



「へへん。楽しいのうw」




 *




「ちょ……アンタら、もうそれくらいにしとき……」


「いや、部長。もう一本!」


「俺はまだまだ食えるのだが」


「限度があるわ……。藤堂なんか酔っ払いみたいになっとるとよ……」


「ヤワラカ、マジでうまいんすよ……」


「これなら毎日でもイケるな」



「…………」





「お会計、6920円です」


「……思いの外、食べたな」


「ああ。だがあれだけ食ってもこの金額なんだな」


「ウチも少し払おか?」


「「いや、いい」」



 2人とも気が合うこって……。




「また来よう。来週にでも」


「甘いモンにハマっとるやないけ兵頭!」


「拙者もここならば毎日でも……」


「……カァー……。こないにハマるとは考えもせぇへんかったわ。チョイス、ミスったんかもしれんな……」







「おまッ⁉ 2人ともなんやその腹は⁉」



「……。通い詰めた」


「アンタもうそれ、中毒やで……。藤堂は?」


「……。テイクアウトしすぎたら……こんなんなっちゃいました……」


「バカ2人やわ……。魔武本控えてんのにどないするんや! 藤堂、アンタそれ忍者失格やないん?」


「……しまった、忘れてた……どうにかします……」


「俺はもう無理かもしれん」


「バカタレ! 走り込みぃ!!」









「魔武学体育祭! 壮絶な争いを繰り広げた結果、黒2−4が優勝となりました! なんと2年連続優勝! 来年も期待されます! 最後となりましたが全生徒に熱い拍手をお願いいたします!!」



「……紫1-3組、大敗しとるやんか」


「拙者のせいではごぜ、ござらんよ」


「体重戻したってのう、こびり付いた贅沢は簡単には落ちひんのや!」


「そ、そんなぁ……」



「逆井、残念だったな」


「4位とかなんの旨味もないわ。こんなことなら賭けの方に全振りすれあよかったわ」


「そう言ってるが、稼げたんだろう?」


「ニッシシ……バレたわ。兵頭んとこは3位やったな」


「ああ。そうだ、逆井。これお前にやる」


「ハッ……! A定5食分のチケットやん! ええんか?」


「俺は使わん。とっておけ」


「アンタ、エエやつやんなぁ」


「……物をあげれば良いヤツになるなら簡単だな。もっとその人物の本質を視ろ」


「お、おお……せ、せやな」



「拙者が空気とは……。さすが忍の末裔……グスッ」

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