第71話 忘若無人(ぼうじゃくぶじん) 3
*
体験入部 当日
「ハァ……誰も来えへんなぁ。部活志願者……」
「なあ、本気で『魔法研究同好会』を立ち上げようとしてるのか? 逆井――」
ドカッ……
「おーん? 藤堂ぉ。アンタ、ウチに負けてタメ語たぁエエ度胸やん。『さん』をつけりぃデコハチ野郎!」
「うぐうっ……デ、デコ……す、すみません逆井さん……!」
「ったく……。同好会やのうてちゃんと部にしたいわ。それに3人くらいおらんとカッコつかへんのやけど」
「……! おい……お前……」
不躾な呼びかけに機嫌が悪くなる。
「あぁ? アンタ誰にモノ言っとんねん」
「名、何と言う」
見上げるとボロッボロの学帽に
「あーん? ウチは『逆井光』や。見るからに頭ぁ脳筋が何か用かぁ!?」
「……さか……い……さか……」
「おーい東、やめとけって。今更入部する気か? 四天王がそんなことやるわけないよなぁ?」
「く……、西之。この手は何だ、止めるのか」
四天王やて……?
勢いに任せてガンつけまくっとったが……コイツら、相当強いで……。
「オレらみたいな輩は表に出ない方が良いに決まってんだよ。んじゃな、嬢ちゃん。邪魔したぜ」
そう言ってデカいのを押して立ち去った。
アイツらが四天王……?
やっぱ魔武学はおもろ……!
*
「む、魔法研究部はここであってるか?」
「……ハイハイせやで! 今年からのご新規参入部やから新鮮とれたてピチピチ! 入部希望ん方は名前書いたってー!」
次に来たのは冴えない顔の男。
さっきデカブツを見たばかりやから霞んでしもたが、ガタイは良い方やな。
名前は……『兵頭慈雨』か。
「アンタ、ガタイ良いけどなんかしとる?」
「空手を少しな」
「フーン。運動部からの文化部……、そんでホンマにエエんか? 入ったからには辞められんで? 覚悟あるんか?」
「ああ。それでいい……」
「……ヨシ! やったな藤堂! コレで3人……」
zzz......
「
ドカッ
「ガフッ……! ゴホゴホ……逆井……さん! それはいけません……!」
キレイに脇腹へ入った蹴りによって藤堂は悶絶中。
「何ィ、寝腐りおってからに! 次、寝よったら永遠の睡眠やで!」
「フフフ、ハハハ。面白いヤツらだな。ここなら楽しめそうだ!」
「……誰ですか? この肉だるまは」
「藤堂! 新人に『肉だるま』やあらへん! すまんのう、コイツ口も悪い忍者バカで……」
「『とうどう』……か。俺は『ひょうどう』だから名前は似てるな。よろしく頼む」
「……初対面で失礼した。こちらこそ頼み申す」
「……なんや。一瞬で仲良うなったな。オネーサン、妬けるわぁ。BL展開期待するで」
*
「金賞いえぁぁぁぁい!!」
恥ずかしげもなく、高らかに声を張り上げた。
「ちょっ、部長! やめてくださいみっともない……!」
「無駄だ藤堂。好きにさせておけ」
「何言うてんのや! 金賞言うたらドンモセレクションみたいな……ってそれはあかんヤツやったわ……。ともかくうえぁぁぁぁい!!」
「こなきゃよかった……」
「俺はもう慣れた」
開発魔法コンクールに、ウチの火魔法【フラムリボン】を出したらそれが金賞に選ばれたん。
これがどれだけ凄いことか。
炎天化の時代に«火属性»の魔法が選ばれたことがまず有り得ない。
評価基準は主に、魔法の『有用性』『優美さ』『ネーミングセンス』『大衆ウケ』だ。
確かにこの魔法を作り出すのに構想半年、実践半年と丸一年を費やした。
やっぱ必殺技は必要だ。
それがその人物の切り札やネームバリューにもなる。
あれや、格ゲーでもそやろ。
その必殺技で強敵でも倒したら盛り上がること間違いナシや。
せやから『魔法名』は大事。
ウチ、元々ドラムやっててん、『フラム』はそっから取ったんや。
響きも火っぽいしの。
『リボン』との相性もエエ。
炎のリボンやもんだから『優美さ』と『大衆ウケ』に関しては申し分ない。
問題は『有用性』にあった。
火魔法自体が蔑視される時代やからな。
せやけど、この魔法のキモは〝拘束″にある。
火のリボンが手でも足でも縛り上げて行動不能にする。
入試ん時のマッドドールの様に……。
これが決め手やったろうな。
「逆井、これは存分に自慢していいことだ」
「へへん。言われんでも自分から新聞部にタレコむわw」
「……恥ずかしい」
*
「なんや、金賞言うても賞状と盾だけかいな」
「そうですよ。何がもらえると思ったんですか? 食べ物なんかが貰えるとでも?」
「藤堂……。トゲの塊みたいな発言やけども、命は粗末にしたらあかんで」
「ヒッ……兵頭! 助けてくれ!」
「むう。ならば何か食べに行くか。逆井の祝杯でもあげてやろう」
「ホー、兵頭。エエこと言うやん! ならウチがとっておきの場所に案内したる!」
「部長のとっておき……。怖いような恐ろしいような」
「アンタの口に【フラムリボン】をしたらどないなるか知りたいな」
「さ、さぁさぁ行きましょう!」
「……藤堂、お前は本当に忍者なのか……?」
*
「着いたで。やっぱ混んどるな」
「
「フッフー。食べて驚くなや! スイーツのドンモセレクション金賞受賞――!」
「そのネタはもういいですって。男2人をスイーツの店に連れて来て……大丈夫なんですか?」
「……俺も甘い物などそれほど好んでは食べないが……」
「カーッ……アンタらときたらそないに食べもせんと文句ばっかりやな! はよ行くで!」
2人を店内に連れて行き、テーブルに座らせた。
「……あの、何を選んだらいいんです?」
「逆井、俺も初めてだからよくわからん。自分の好きなものと俺らの分も適当に頼んでくれ」
「ふむ。初心者なら……この辺がオススメやな。えーと、ウチはコレとコレと……あとコッチのも……」
「部長! 節度ある注文をしてくださいよ! そもそも拙者達よりも金持ちなんですから!」
「なーん、わかっとるで。でもそうやないんや……。アンタたちが奢ってくれるいうんが嬉しくての」
「「…………」」
「ほな注文したで。ベロが落ちるでの」
待つこと5分程。
「お待たせしました。ヤワラカソフト3つ、ジャーマンジンジャーソフト3つ、ハンドメイドケイクの4号です」
「イイッ⁉ なんでこんな量頼むんですか! 食べられるかもわからないのに」
「こ、これはいっぺんに頼んで溶けないのか?」
「大丈夫や。«氷»の永続魔法がかかっとると。せやから食べ始めるまでは溶けへんで。文句ばっかり垂れてのうで一口食べてから言うてみ」
文句ばっかりの2人の目の前にコーンスタンドを押し出す。
「……で、では頂くとする」
ペロ……
「……!」
ペロ……ペロ……
「ひょ、兵頭……?」
「へっへー。こういう事じゃ、藤堂。アンタも早よ食べ」
「……じゃ、じゃあ……」
ペロ……
「……!!」
ペロペロ……
「へへん。楽しいのうw」
*
「ちょ……アンタら、もうそれくらいにしとき……」
「いや、部長。もう一本!」
「俺はまだまだ食えるのだが」
「限度があるわ……。藤堂なんか酔っ払いみたいになっとるとよ……」
「ヤワラカ、マジでうまいんすよ……」
「これなら毎日でもイケるな」
「…………」
*
「お会計、6920円です」
「……思いの外、食べたな」
「ああ。だがあれだけ食ってもこの金額なんだな」
「ウチも少し払おか?」
「「いや、いい」」
2人とも気が合うこって……。
「また来よう。来週にでも」
「甘いモンにハマっとるやないけ兵頭!」
「拙者もここならば毎日でも……」
「……カァー……。こないにハマるとは考えもせぇへんかったわ。チョイス、ミスったんかもしれんな……」
*
「おまッ⁉ 2人ともなんやその腹は⁉」
「……。通い詰めた」
「アンタもうそれ、中毒やで……。藤堂は?」
「……。テイクアウトしすぎたら……こんなんなっちゃいました……」
「バカ2人やわ……。魔武本控えてんのにどないするんや! 藤堂、アンタそれ忍者失格やないん?」
「……しまった、忘れてた……どうにかします……」
「俺はもう無理かもしれん」
「バカタレ! 走り込みぃ!!」
*
「魔武学体育祭! 壮絶な争いを繰り広げた結果、黒2−4が優勝となりました! なんと2年連続優勝! 来年も期待されます! 最後となりましたが全生徒に熱い拍手をお願いいたします!!」
「……紫1-3組、大敗しとるやんか」
「拙者のせいではごぜ、ござらんよ」
「体重戻したってのう、こびり付いた贅沢は簡単には落ちひんのや!」
「そ、そんなぁ……」
「逆井、残念だったな」
「4位とかなんの旨味もないわ。こんなことなら賭けの方に全振りすれあよかったわ」
「そう言ってるが、稼げたんだろう?」
「ニッシシ……バレたわ。兵頭んとこは3位やったな」
「ああ。そうだ、逆井。これお前にやる」
「ハッ……! A定5食分のチケットやん! ええんか?」
「俺は使わん。とっておけ」
「アンタ、エエやつやんなぁ」
「……物をあげれば良いヤツになるなら簡単だな。もっとその人物の本質を視ろ」
「お、おお……せ、せやな」
「拙者が空気とは……。さすが忍の末裔……グスッ」
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