第70話 忘若無人(ぼうじゃくぶじん) 2



「わざわざ第2体育館裏とは……どんな用事があるんでしょうか」


「アンタ、新入生の2番手やんな。ウチとりあって貰いたいん」


「……ヤヤヤ、ヤリあって⁉ そ、そそそそれは願ってもない……ん?」



 見た目以上に奥手ぽいな。

 さっき見せた感覚の鋭さはなんだったんか。

 


「拙者が2番手……、そのことは誰も知らない筈。……生徒は『答辞を読むイコール主席』という認識であった。そしてその謎の変ななまり……お主、何者だ……!」



 睨みを利かせた眼には先ほどの鋭さを垣間見た。

 なんや、行灯にも程があるな。



「ええっ、変なんはアンタも同じやで!? ……ウチはぁー、タダのおんにゃの子やでぇ♪ アンタとぉ、一発…………闘ってみたくて……ねえ!」



 言い終わる前に«火»を放つ。


 それを2番手は華麗に躱した。



「んふ、ええ動きやね。しっかし、入学式ん日は人が少なくて暴れるには良いとね。どや? 初日から波乱な幕開けやろ?」


「……拙者の巻物には『女子おなごに手を出さない』とあるのだが、身の危険が及べば話は別。それなりの反撃はさせてもらう。もし拙者が勝ったら何故、拙者が2番手だと言うことを知り得たのか答えても――」


「そんなんすぐにでも教えたるわ。ウチが……トップやから」


「なっ⁉ ……なるほど、教頭が口籠くごもっていた理由が解けた。……拙者がどんな思いであの場所に立っていたか、其方そなたにわかるか……!」


「えー? なんでや。別にええやん。主席や思われた方が女子じょしが放っとかんやろ? ガッコ楽しなるで?」



「…………」



 コイツ、ムッツリやな。

 想像しちょるやろ。



ブンブンブン



「教頭から答辞の話を聞いた時、拙者が筆頭であると確信していた。だが、次席であったことを伝えられた挙句、本当の主席には断られたと聞く……。そんな拙者が、胸を張って答辞を読んでいたと思うたか!」


「そらすまんが知らん」


「……女子おなごであろうが、もう構わぬ。拙者に喧嘩を売ったことを後悔させようぞ」


「お、やる気になってくれたか。ほな、2番手がどんなもんか見させてもらおかの」



「いざ尋常に……!」



 2番手は服を翻すと忍装束となった。



「ほほ、現代の忍者か……おもろい。アンタを倒して平伏させた――」



シュビッ……



 消えたように懐に入りこまれる。

 目で追えてはいたがその速さのため、一瞬対応が遅れた。



「覚悟……」


 ドッ……



 掌底で鳩尾を狙われたが間一髪、肘で受け切れた。



「イチチ……あっぶな! 女子相手に腹を狙うたぁ、ちょっち仕置きが必要やな」


「傷付けずに一撃で決めたかったのだが。少しは出来るようだな」


「フェミニストかいな。どちらにせよ、女子の腹狙う時点で許されへんのや」



「腹を狙わずとも拘束することなど容易い。ゆくぞ、《藤堂流 煙遁えんとんの術》」



ボムッ……



 地面に叩きつけた玉から煙があがる。

 死角を作られてあのスピードで不意を突かれたらさすがに受けきらんか。



「《藤堂流 金遁きんとんの術》」



 煙の中から無数の金属片が投擲された。


 これは……撒菱か!



「《藤堂流 捕縛の術》」



 上に投げ出された網はウチの体を覆う。



「……これにて仕舞いだ。主席が聞いてあきれる」



 瞬時にMAを展開する。



「【コンフォーコ・スイープ】」



 ボッボッボッボッ……



 辺りの撒菱と網を燃やし切った。


「なるほどのう。煙に乗じて撒菱で動きを封じ、投網で捕縛するんがアンタのコンボかいな」


「……傷つけずに勝敗を決めるのは難しいやもしれぬ」



「さて、今度はウチの番や。この«ちから»が忍相手にどれだけやれるか試させてもらうわ」



 忍者言うたら基本、隠密や闇討ち。

 煙幕やってそうやし撒菱、投網とどちらかと言うたら攻めよりも守りに近い。


 そんな相手を倒すんはこっちも意表を突かんとな。



「【ヒート・ベザンテ】!」







「ばかな……拙者の……負けだ……」



「ハァハァ……。アンタ、もしかして無魔やろ? ちゃうか?」


「く……。敗北した挙句、それすらも見抜かれてしまうとは……」


「それは別にええやん。多様な忍術は目を見張るしの。せやけどそれは忍具在りきの話やった。アンタの弱点、忍法による属性攻撃が圧倒的に遅いことや!」


「…………」


「忍者言うたらもっと早く術が発動してもええんちゃう?」


「く……、拙者は印を結ぶのが苦手なのだ。しかし当たりさえすれば……」


「誰が待ってくれるんや、あーん? 戦隊モンでも魔法少女モンでも、変身やらカッコつけポーズなんて炎獣は待ってくれへんで。アンタの忍法はもっと磨く必要があるわ」


「無念……さすらばひと思いに……」


「そんなんいちいちエエから。えーと……『藤堂』やったっけ? ウチは『逆井光』や。そんでウチにくだりい」


「……は、今なんと」


「うっさい。ええか、一度しか言わへんで。アンタはもっと強くなれる。ウチもな。んでこのガッコをシめるんや。後に続きぃ、藤堂!」



「……御意」

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