第98話 一路平安(いちろへいあん)3
……あっ……って待て待て待て!!
凍上さんには全部筒抜けじゃん!
俺がお化け役なのとか!
それにMAを展開されてたら、どのタイミングで脅かしに来るーとかモロバレなのでは……?
「どしたの、通り過ぎちゃうよ?」
ぐ……とにかくやるしか……!
あれ……、凍上さんの周辺の土に霜柱ができてない。
もしかしてまだMA展開してない……?
この墓場がPAだから炎獣は出現しないと思って警戒してない……?
……これならいける!
「《ファイヤーボール》!」
さあ、予定と違うから鮫島くんも驚くはず!
2人とも腰を抜かしてもらおうか!
ビュウ……ピキ……ボトッ
な……! 俺の《ファイヤーボール》を
……いや、そもそも火の玉が飛んでくるタイミングがわかるはずないのに、どうやって《ファイヤーボール》だけを狙って……!?
「ちょ、ちょっと……! 火の玉消えちゃったじゃん! 失敗したの?」
「いや、まだ手はある……!」
……こうなったら奥の手しかない。
「バーニングリミッツを使ってオーブを作り出す……」
「あれ……、でもオーブってあれでしょ? 白くて丸いやつでしょ? あれを火で再現できるの?」
シュボボボボボ……
「色温度。火を重ねがけして温度をどんどん上げていけば白くなるんだ。それを辺りに飛散させる。オーブ自体がかなり高温になるからあまり使いたくなかったんだけどもうこれしか方法はない」
「いろおん……? ほへ!! ホッくん、相変わらず色々凄いね!」
これも前世の記憶と知識の賜物。
婆ちゃんの家には山ほど本があったからな。
暇つぶしに見ていた甲斐があったというわけだ。
なんせ実力がないんだからそれに変わるもので勝負するしかない。
「……頑張って!」
「よし、やるよ! ……《バーニング・オーバーリミッツ》」
シュボボボボボ……
火の塊は幾重にも重なりやがて白い炎と化す。
これならさすがに驚くは――……。
パキパキパキパキ……パキ……
「…………!!」
「!?」
俺の出したオーブ全ては、出現と同時に凍らされ無効化した。
「あ、あのさ如月さん……。凍上さんって今、MA展開した……?」
「よくわかんないけど、一瞬だけしたかも……?」
「それ……最初はしてなかったよね?」
「え、うん。見た限りでは……」
俺はガックリと膝をついた。
「え、ちょっと! 何が起きたの?」
「もうよそう。俺の負け……」
一瞬でオーブを凍らせられ、万策が尽きてしまった。
勝負していたつもりはないけど、今の凍上さんに俺は全く歯が立たない。
氷よりも炎が強いっていう常識は覆されてしまった。
……だけど前からこんなに強かったっけ……?
確かに変異属性持ちで、気丈なところもあったけど。
ここ最近……、魔武本の時にはもう普通じゃなかった。
一体いつから……?
でもタイミングまで全部バレてたのはなぜ?
どう考えてもそこだけは謎であった。
「……そか、ホッくんがそういうなら……」
と言うと如月さんは展開していたMAを格納する。
本音を言うと、あの落ち着いてる凍上さんをビックリさせたり声を出させたりしたかったというのは少なからずある。
それは意地悪ではなく、ただのちょっかいだ。
好きな子をいじめる……みたいな些細なもの。
でも相手は素直にいじめられるタマじゃなかった。
炎を凍らせるという常識外れの認識の持ち主。
だって普通は炎を凍らそうとはしないし、凍るとは思わない。
彼女はそれができるという確信があったからこその発動……。
……ここは観念して見逃そう。
「気を取り直して……あと誰だっけ。田中・村富ペア?」
「だねー」
しかしいくら待っても来ないのである。
かれこれ20分は待ったのではないだろうか。
「……ねえ、もしかしてその2人……二番手だったんじゃん…?」
「今それ、丁度考えてた。早く行きたそうだったから俺らが出たあと5分と待たずに出発しちゃったのかな……。俺らが準備してる間に追い越してっちゃったとか……」
「…………」
「戻ろうか」
どちらにしろこれだけ待ったんだ。
戻っても変に思われないだろう。
「……あ!」
「ビクッン……! き、急に大声出してどうしたの!」
「お化け変装セットの中に、井戸の砂を用意してたのになくなっちゃったから……」
「つまり……今から井戸に行かなきゃダメってこと……?」
「あはは……そういうことになる……」
「…………」
「…………」
「ニコッ。いいよ、いこ!」
この笑顔はやっぱ怒ってる……!?
そりゃ奥まで行かなくてもよかったっていう利点がなくなっちゃったんだもんな。
怒って当然……、俺は必死に謝る。
「え、何で? ある意味こっからが本番の肝試しじゃん! 楽しも!」
疑いようのない、恐らく本気笑顔な如月さんは俺を引っ張ってズンズン進んでいく。
……怖くないのか聞いてみた。
「え、怖いよ? 平気な人の方が少ないんじゃん? 仮にも女の子だよ? あたし」
そうだよね、うん。
この暗さ、
「でもキモ試しってさ。怖くてキモくて逃げたくなるのを抑えてさ、その極限状態に身を置いて心臓爆裂させる行為じゃん? スリルを求めるのって最高じゃん? これってジェットコースターとおんなじでしょ!」
……なるほどね。
確かに需要があるからそういったものが流行ってるわけだし。
嫌いだったらわざわざこんなところに来てまで怖い思いしないか。
パキ……ビクッ!!
「ヒッィ……!!」
如月さんは俺にしがみついている。
俺はしがみつくところがなくて手を宙に漂わせている。
お化けや心霊現象の類は全く信じてはいないが、驚くものは驚く。
それに、信じていないのと怖くないのは別問題だ。
事実、鮫島くんから帳尻合わせに井戸の砂を渡された時、奥まで行かなくて済むとホッとしたのが本音……。
怖がらせる役であれば、対人間……闇に巣食う
故に、肝試しではなく度胸試しとなる。
人が作り出した想像の産物。
きっとそんなものはいない。
いないが怖い。
だから早く終わらしたい。
お堂までの距離、100メートルが長く感じる。
かなり歩いたはずなのに辿りつかない。
ギュッ……
「痛っ!?」
突然如月さんに握られていた
急につねられたのだ。
「いたた……。あ、あの……如月さん? ど、どうしたの……」
てっきり怖いものでも見て力が入ってしまったのだと思ったが……。
つねられるなんてものじゃない。
爪が皮膚に食い込んでいる。
「ちょっと……? ……え……」
「キキキキ……」
月明かりに照らされた如月さんはまるで、なにかに取り憑かれたような顔をしていた。
「う、うそ……如月さん……!?」
「ガァァァ!」
「皇!」
急に誰かに名前を呼ばれ、反対側の腕を引っ張られて草むらに引き込まれた。
ザザッ……
「痛ぁ……って、鮫島くん!? え、どゆこと!?」
「落ち着いて……聞けよ……くっ……」
鮫島くんは左腕を押さえて続けた。
「皆……やられちまった。残ってるのはもう俺とお前だけだ」
「え、え!? ちょっとどういうこと!? 凍上さんはどうしたの!!」
「……あ? ああ……。これは……『アンぶるぁ社』の……に……よっ……粥……美味……」
そう言うと鮫島くんも身体を震わせながら顔が醜く変化していく。
「うわああああ!!」
そんな、みんな……みんな化け物みたいになっちゃったってのか!!
走って逃げてるうちにようやく最奥部の井戸までたどり着いた。
「はぁ……はぁ……。……っあ!?」
井戸の近くには村富さんと田中君が横たわっていた。
「え……嘘だ……」
何でこんなことに……。
この世界で何が起こってるんだ……!!
なにが転生だ、なにが〘燧喰〙だ!
まともに生きていけないんじゃこれこそ、死んだほうがマシだ!
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
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