第97話 一路平安(いちろへいあん)2
紐の先には……!
如月さん……!
「ほ、ホッくん……!! マジか!!」
驚いているけど……嫌だったのかな……。
他のペア……凍上さんは誰と!?
って……鮫島くん!w
田中くんに対して、スッゴい申し訳無さそうな顔をしているけど……。
そりゃそうだよなぁ……。
でも田中くんも仕方ないといった感じ。
そんな田中くんのペアは村富さん。
他のペアは、土山くんと門音さん、
なんだかんだで一応、全員男女のペアになっている。
「サメジー、良かったじゃん! 丁度良く男女ペアになってさ! やっぱ肝試しって言えば男女ペアだよね!」
如月さんは先ほどとは違い、なぜか機嫌がいい。
度胸試しの雰囲気を大事にしてたから、男女ペアになったことで一安心したんだろうか。
これなら俺と一緒でも大丈夫そうだ。
「おー……? お、おん……」
だが鮫島くんの気まずさは拭えない。
「チーム名でも決める?」
「文華……、たかが肝試しなんだからそこまでしなくても……」
「……チームラギラギ……。うちらのチーム名は『ラギ×ラギ』に決定ー!」
「……勝手にしなさいよ。それよりもどうすれば勝ちなのよ」
「じ、じゃあ僕から説明するね」
吹っ切れたのか、田中くんは今回の度胸試しの趣旨を説明しだした。
「肝試し公式ルールに則りまして……この墓地の
「……ん? お札とかじゃないんだ。でもなんで水じゃなくて砂なの? 底が深かったりしたら危なくない?」
「あ、いや……水は枯れてるらしい。逆に井戸いっぱいに白い砂が詰まってるみたい。なんでだろうね?」
「は……? 実際に見てないの? 何情報? ソースはなによ? ……信憑性ないのによく肝試しなんかしようと思ったわね……」
村富さんは悪態をつく。
「に、2年の先輩がやったっていってたから間違いないよ! 砂を
「はぁ、とっとと済ませましょう。私達が一番手。田中、行くわよ」
「あ、いや! 僕は……皆を見送らなきゃいけなくて……!」
「そ、そうそう! 一番手は皇がやりたいって言ってたから行かせてあげようよ!」
「え、皇くん……そうなの?」
あれ……何故?
計画は失敗に終わったから、俺が脅かす役なんてやらなくてもいいんじゃないのかな?
って思って2人を見ると……。
「(一応楽しませるためにやってくれ! せめて肝試しとして成功させたい!)」
わかったわかった……。
俺には心を読む力はないが、それでも2人の思いが伝わるほど必死さは読み取れた。
……仕方ない。
「そ、そうなんだ! 悪いけど1番手は誰にも譲れない!」
「……ふーん。そんなに行きたいならどうぞ。文華もやる気みたいだし」
「え? えへへ!」
如月さんは妙に楽しそうだ。
度胸試しがそんなに好きだったとは……。
「後のチームの順番はどうするの? 別に何番でもいいけどさあ」
「そだなあ、そしたら――……」
如月さん、脅かす役やってくれるかな……。
度胸試しが好きなら「怖がる方をやりたい!」って言うかもしれないし。
「脅かすのなんてつまんない!」 って言われたらそれまでだぞ……。
困ったなぁ……。
でも如月さんと2人でお化け役とか……、緊張する……。
うまくやれるか分かんないし……。
「皇……? おーい。相変わらず宇宙を彷徨ってんのな」
「――⁉ あ、ごめん聞いてなかった……」
「……はぁ。もうすぐ今年が終わるってのに皇くんは何も変わってないのね」
村富さんはため息混じりに呟く。
「ホッくん遅いよー! 早く早く!」
如月さんは既にスタートラインで用意していた。
「いいか皇……。本気でやれ……! この際、田中を最大級に
……そういうことね、全く。
「如月さんをうまく説得できたらだよ?」
「それも込みでお前の力量なんだ! 頼んだ!」
……ほんと勝手なんだから。
事前に用意したお化け変装セットは墓地の手前の小屋に隠してある。
でも、怖がらせる道具とかお金は全部俺任せ。
普通、頼むんだったらそういうのも準備してくれてもいいんじゃない……?
って……俺の考え、変かな?
……まあ、それを着てワーワーやれば誰でも怖がるはず。
あとは如月さんを説得するだけか。
歩き始めて数秒……。
「け、結構さ……不気味度マックスだよね……ココ……」
初めはノリノリだった如月さんも少したじろいでいるようにも見える。
こんな状態で脅かす役ができるのだろうか。
「あー……如月さん。実はお願いがあるんだけど……」
「ひゃい⁉ えっ! な、なに……⁉」
「俺と2人で――」
「ふ、ふたりで⁉ ドドドドなにっ……なにを……⁉」
「あとから来る皆を脅かす役をやって欲しいんだ」
「っ――……」
「あ、でもね! その代わり井戸まで行かなくてもいいようにしてるんだけど……。あれ、如月さん?」
「ん、うん。なんだ、そんなことなら……。ヨユー」
…………?
表情が変わって目が座ってしまった。
あれかな……怖がらせる役になった途端、お化けの気持ち👻を憑依させて脅かす役に徹してくれるってことなのかな?
「ホントに……鈍すぎて……」
「ん? いやー、色々あって脅かす羽目になっちゃって……ありがとう、助かるよ。えと、ここの小屋の中にお化けセットを用意してるからこれを着れば簡単に驚かせ――……」
…………?
あれ、変だな……。
お化け変装セットがない。
小屋を全部見たけどそれらしきものはない。
「……ないの?」
「確かにここに置いといたのに……」
そんなバカな……。
この時期にこんな
まあ、先輩たちがここを知ってるって言ってたから誰かしら来ることはある……?
でも師走だぞ……こんな時期に度胸試しをやる人なんかいるわけないよな……。
それとも炎獣……? じゃなくて普通の獣が持ってった……とか?
いや、それこそありえない。
「困った……。脅かすっていっても、俺らの姿見られたら絶対つまんなくなっちゃうよね……」
「うーん。まあ……魔法でいいんじゃん?」
「え、魔法?」
「あたしは風。ホッくんは火。しかもホッくんは火を使えるって皆には知られてない。どうにか演出できるんじゃん?」
「そ、そうか! ないものを探したって仕方ない……。力を合わせてやってくれる?」
「力を……合わせて……。うん! レッツ♪」
*
「
「いやぁ……ハハ……」
やってきたのは
「フミカたちはもう井戸についた頃かしら……。アミも怖がらないみたいだし負けてらんない! ほら! 急ぎなさいな!」
「
ピュウウウモアアアア……
「……ん⁉ なに急に⁉ この生暖かい風は……!」
「はわわわ……あ、あれ、あれ……!」
「え、なに
「ガチガチガチ……」
「い……いい⁉ 振り返って何もなければ承知しないわよ! わかった⁉」
バッ!
「……ほら何もない。こんな時に脅かすなんて……!!」
「ギャアア!!」
「え! なになになに⁉ アーッー!」
2人は凄い勢いで逃げていった。
「…………」
「ヒヒヒー! うまくいったね!」
「うん、まさかこんなに驚いてくれるなんてね」
まず、如月さんにそよ風を吹かせてもらう。
そこへ俺が空気を火で温め、生温い風を演出。
ハンカチを固く丸めて燃やし、それを浮かせて彼らに気づかれないよう風で運んでいく。
ただの火の玉演出だが、この怪しい雰囲気の墓場なら効果は絶大……!
「ねえ、ところで火の色が黄色っぽいの何で?」
「ああ、これね……。炎色反応だよ」
そう言って近くにあった盛り塩を取る。
ボッ……
「燃やす物によって火の色が変わる。塩を燃やすと黄色に見えるってわけ」
「ふ、ふぅーーん……。凝ってるね……。たしかに普通の火よりは雰囲気出てる感じがする!」
如月さんは目を丸くしている。
「……バチが当たんないといいけどw」
え、あ……脅かすことに夢中でそんなこと考えてもいなかった。
「だ、大丈夫だよ! ……でもさ、こんな火でも怖がってくれるんだね」
「こんな火ねぇ。……その火の技名は【ファイヤーボール】にしよ!」
……え、ダサい……!
「んと……確かに直訳では火の玉だけど……ファイヤーじゃなくて〝ファイア〟で――。そしてこの場合だと〝ウィル・オ・ウィスプ〟って英訳が適――」
「え、なにそれ。長い。わかりにくい。【ファイヤーボール】!」
そ……それじゃあまるで初期の頃のやろう系の、同級生モブとかが使う初級魔法名みたいで……。
如月さんはあだ名をつけるのはうまいけど、魔法の名前は安直なのかな……。
「あ! ホッくん、次のペア来たよ!」
「……わ、わかった。やります!」
俺たちは、この火の玉作戦で土田・門音ペアも脅かした。
「きゃあー、ひのたまこわいーー」
「あ、待ってよ門音さん!」
ダッダッダッダ……
「あれ……。へぇ、門音さんって案外怖がりなんだね。雰囲気は凍上さんに似てるからこういうの全然平気だと思った」
「え? モンモンがハナちゃんに似てるって? アハハ! ぜんっぜん違くない⁉ ホッくんわかってないなぁー!」
「俺は似てると思ったモン……」
感性が人とズレてるのかな……はぁ。
そしてついに鮫島・凍上ペアがやってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます