第99話 一路平安(いちろへいあん)4
「くくくく……」
「アハハ……!」
突然の笑い声にハッとなって辺りを見る。
「皇! その顔いただき!w」
パシャッ
「…………へ……?」
俺は声を出すのがやっとだった。
「って……ムービーだぜぃ!w」
「オバケや心霊現象は信じてないって前に言ってたけど、ゾンビは信じてるのね」
村富さんがそう言いながら田中くんと木の陰から出てきた。
自分の顔がどんな顔をしていたかは分からないが、恐らく酷い顔をしていたのだろう、村富さんは目を逸らした。
「これって……どういう……?」
「皇! すまなんだ! 予定変更してよ。皇たちに脅かしてもらうより、もっと面白そうな〝ドッキリ〟に急遽切り替えたんだ!」
「へ……?」
説明されたのだろうが、まだ頭が追いついていない。
そのため、先程と同じような声しか出なかった。
「二番手の
「凍上さんが……?」
「サメジの細工ボックス&皇を強引に1番手にしたことで俺らの計画に気づいたらしい。頭良いからな、凍上さん」
え……だって凍上さんは人の心が読めるんだから俺が脅かす役ってわかって当たり前……。
あ、心を読んで推理した振りをしたのか。
「んで俺が白状したって訳。『皇に脅かしてもらうために先に行かせたんだー』……ってね」
「え、それはわかったけど……なんでゾンビ?」
話がまだ見えてこない。
「まあ待ちなさいよ、順番に説明するから」
村富さんは一歩前にでた。
「凍上さんが『バレちゃって面白くなくなっちゃったから、逆に皇くんを脅かしましょう』って提案してきたの。あの凍上さんがよ? ……そっちの方が驚いたっていうの!」
「驚かすのにどうしようか考えててな……。〝演技をさせる魔法〟を使える人がいないか凍上が聞いたわけよ。そもそも、人に演技をさせるなんて思いつかねぇし、あるとも思わなかったんだけども……。ここで手を挙げたのが門音。あいつも変異属性持ちだからな……。憑依魔法【トランスミッション】! 対象は与えた指示を熟すか、魔法発動時の使用分のMPが尽きるまでトランス状態になる。MP消費量に応じてより長く、高度な指示を与えることができる。このトランス状態ってのがある意味、ゾンビにも見えるってこった」
な、なんだそれー……!?
「まず門音さんが、草むらから文華を術にかけてその後にトランスミッション鮫島を配置。命からがら辿り着いた井戸には……
「ちょ、ちょっとまって……。それはわかったけど……残りのみんなはどこなの?」
「私はここに」
そう言うと待っていたとばかりに凍上さんが出てきた。
凍上さんをこの目で見るまでは信じられなかったから少し安心した。
「ん……? あれ? ここは門音が出てくるはずじゃ……? 凍上さんは念の為にって少し長めに井戸で倒れてるんじゃなかったっけ?」
「……門音さんが自分から代わってくれたの」
確かに井戸には門音さんもいた。
今思い返すと、あられもない姿で……。
でも、あんな○神家の一族っぽい姿を自分から買って出る……かな?
「あ、あれ門音だったんだw 自分にも魔法をかけられるのね。いやー……、術師自ら体張ってんなw 何だかんだ言ってノッてたんだな」
ガサガサ……
「はぁはぁ……いてて……。あの魔法、ガチだぜ……。恐ろしすぎる……。ほんとに自分が化け物になったかと思ったくらいヤバすぎる」
「サメジ……、それにしちゃ遅くね? 油売ってた?」
遅く現れた鮫島くんに田中くんは問い詰める。
「あのなあ! 顔が痛くてちょっと
それほどまで……恐ろしい魔法だ……。
そんなのかけられたら操り人形じゃないか。
「ん、あれ? 凍上さん……? 門音ッチは……?」
「田中さんたちと一緒に井戸にいたんじゃない?」
すると門音さんもまた、タイミングを見計らったように出てきた。
「はぁ……はぁ……なんてこと……! 完全に出し抜かれたわ……!」
「お、来たじゃん。やる気ない顔しててもあんなぶっ飛んだ格好するとか……自分から体張ってノリノリだったんじゃんー門音ッチぃー!」
「は? ……え……? ええ……、うん……そうね……」
……今の反応、明らかにおかしいけど……。
もしかして凍上さん、なにかやったのかな……。
「門音ッチの魔法怖すぎだぜぇ……。如月の顔、超怖かったもんな、皇……」
「う、うん……。転生モノからゾンビモノに転向したかと思った……」
「……何それ……? で……
「しらね……」
「……そういえば……あいつら二番手で……どこいった?」
「……………」
***
「え!? じゃあなに、アタシがゾンビになってホッくんを襲ったってこと!?」
「あ……まあ……そうなんだけど全然大丈夫だかよ……! 腕に爪が食い込んだけどそれだけだったし……」
「それよりもそんな醜い顔を見られたとか……ショックすぎる〰……」
深夜23時……。
村富さん家の離れで打ち上げをしている。
如月さんは憑依が解けた後、スタート地点で座って待っていたらしい。
今回、一番の被害者は如月さんであることに間違いないだろう。
俺とペアを組まされ、脅かし役にさせられた挙句、最終的にゾンビにされる……。
不憫だ……。
「アミすゎん! Meと付き合おうずぇい!」
「なんでそんなニョンチュウみたいな田中と付き合わなきゃいけないのよ! 離れなさい!!」
「アッハッハ!!」
…………。
田中くんは一緒のペアだった村富さんにベタ惚れしたらしい。
あんな堂々と告白
ほんと、振り回された……。
「井戸が枯れてる理由……なんでか知ってるか?」
「なんか僕が聞いた話だと炎天化で水が枯れちゃったとか」
「え? なにそれ知らね……。俺は人が落ちた事があるから砂で埋めたって聞いたぜ?」
「私は井戸に落ちた動物が水を飲み干して登れなくなって死骸が堆積して砂になったと聞いたわ」
「…………。諸説あるよな! なぁ!?」
「……なんか、真相は知らないほうが良い気がする……」
「アンタ、マジでそういうのちゃんと調べてからになさいよ……」
「アッハッハ! 肝試しサイコー!」
あちらこちらで盛り上がっている。
俺は1人でドプシをがぶ飲みしている。
「いやー、楽しいな! まあ結果オーライだったよなあ皇。なんにせよ、田中は自分の素が出せる相手が見つかったんだからな」
鮫島くんがやってきて俺に絡む。
「……あれ、素なの? でも相手にされてないみたいだけど……」
「あのな。恋ってのはな……してる時が一番楽しいんだぜ。実ったのならそれはそれで楽しいんだけどな。片思いなりの楽しさってのがあるんだよ」
「……いや、でも凍上さんへの想いはなんだったの……?」
俺はちょっとイラっとして鮫島くんに聞いてみた。
簡単に諦めた……? というか村富さんに乗り換えた……?
そんな田中くんに少なからずムカついていたんだ。
「人の想いは……たんぽぽの綿毛にも似てるよな。風の向くまま、気の向くまま……。それでもちゃんと、辿り着いた先で芽を出すんだろう」
なんだそれ。
「ほら、見てみろよ。あの2人を……」
視線の先には
かなり……近い距離に2人はいる。
「ああやってなんの苦労もせずにくっつくカップルだっているんだ。だからそんなもんだろうよ」
あの2人は、俺と如月さんが脅かした後、墓場を一周しながら困難を乗り越えたらしい。
吊り橋効果ってこういうことを言うんだろうな……。
本当に何にも知らなかった2人が一番幸せになったってことか……。
「ちょっと……
「何」
あっちでは凍上さんと門音さんが話している。
「あの時、一体何をしたの? 私の魔法を
「なんとなく受けたくなかったからよ」
「それと
なんか……言い争っている?
「確かに持ちかけたわね」
「受けたくないとか簡単に言ってくれるけど……私の魔法は相手の目を見て暗示をかける魔法……。それを知ってないとあんな風に氷を鏡にして反射させるなんてことできるわけない! しかも魔法をかけるタイミングをピンポイントに……」
「あなたの動きが読みやすかっただけ。何か企んでたってことも。私にあんな格好をさせたかったってこともね」
「っ……! 出来が違うって言いたいのね……。私は華々とは違う!! 必死に努力して魔武学に入ったの! それを簡単に魔武学歴代トップになるなんておかしい……ズルい!」
魔武学の……トップ……?
え、アッシュを差し置いて……歴代……?
「あなたが何故それを知っているのかは聞かないけどこれ以上ここで話すことはないわ」
そう言うと凍上さんは帰る支度を始めた。
「あれ……、ハナちゃん……帰るの?」
「ちょっと眠くなったから先に帰る」
「あ、凍上さん帰るの? じゃあ車出させるわよ」
村富さん家は相変わらず金持ちだ……。
「いい。ちょっと風に当たりたいの」
バタン
そう言いながら凍上さんは出ていってしまった。
あ……今一瞬、「行かなきゃ」って思った。
だけど、怪しまれるかもしれない……。
他に行ってあげようとする人がいるかも知れない。
「でもさすがにこの時間1人じゃ危ないわよね。……皇くん。ほら、送ってってあげて」
「え……、俺ですか?」
「だって皆あんなだし。それに家、同じ方向でしょ? 行ってあげて」
俺の記憶だと……村富さんの家からは同じ方向じゃなかったような……。
でも、この時間になって車の送迎を断っちゃったのなら……。
「でも俺、ほんとにいります? 必要ないくらい強いから大丈夫だと思うけど……」
「……そういうもんだいじゃないぞー。1人でかえすわけにはいかないってこと。……でもどうしちゃったんだろ……? ……ほら、ホッくん! いったいった!」
なんと如月さんまでもが俺を押してくる。
「じゃあよろしくね! ……狼さんになっちゃダメだぞ! …………」
バチン!
ダメ押しの一撃。
「
なんとも言えない雰囲気に包まれていたが周りも、うたた寝を始める者、話に夢中になっている者と分かれている。
そもそも俺が凍上さんを送りにいくことを気にするものはいないだろう。
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