第5話事故

アソウ警備保障と名乗る人物から、夜電話があった。

「もしもし、柴田渡さんの奥様ですか?」

「はい、そうです」

「実は、うちでアルバイトされている旦那様が事故に遭われまして、市民病院まで来ていただくことは可能でしょうか?」

さやかは、訳が分からなかった。なぜ、アルバイト?

さやかは市民病院まで、タクシーで向かった。

病室に入ると、渡は点滴をしており、右足はギブスを装着していた。

「あなた」

「おっ、さやかか。悪いな」

「渡さん、何のアルバイトしていたの?」

「夜の交通整理」

「なんでまた」

「再来年、結婚20周年だろ?海外旅行を考えていたんだ。お金貯めて旅行の資金を作ろうと秘密にしてた」


さやかはハッとした。

月水金曜日、夜遅いのはアルバイトしていたからだ。でも、香水が気になる。気になるついでに、勇気を絞り、尋ねてみた。

「渡さん、最近、香水の匂いがするのは何故なの?」

「……交通整理って意外と汗かくんだ。汗臭いと嫌われるし、さやかに気付かれたく無くて、汗を香水で隠していたんだ。スマン」

「疑ってごめんなさい」

さやかはハラハラと涙を零した。

すると、病室のドアをノックする音が聴こえた。


2人が返事すると、小林とネームプレートを付けた医師がさやかを呼んだ。


さやかはちょっと話し聞いてくる。と行って病室を出た。

「この度は、ご主人が事故に遭われお察しします」

「足の骨折は、どれくらいで治りますか?」

と、さやかは小林に尋ねた。

「実は、奥様にお伝えしたい事がありまして」

小林医師は骨折には触れなかった。

「事故に遭われた時に、全身のMRIを撮ったのですが、一つ問題が……」

「何でしょうか?」

「恐らく、ご主人は胃がんです」

「えっ!」

「まだ、詳しい検査は明日以降になりますが、血液検査でも反応がありまして」

「手術で治るのでしょうか?」

「はい。安心して下さい。ま、検査結果待ちですが、明日、大きな検査があります。ですので、お立ち会いのお願い出来ないでしょうか?」

「はい。大丈夫です」

「今夜はもう遅いので、お帰りくださって結構です」

「主人を宜しくお願い致します」

「はい。分かりました」


さやかは病室へ戻り、

「また、明日来るから」

「うん、ありがとな、さやか」

2人は別れた。タクシーの中でさやかは不安を隠せなかった。

帰宅すると、ソファーに座りゆっくりペットボトルのお茶を飲んだ。

そのまま、深い眠りに就いた。

翌朝、目を覚ましシャワーを浴びて着替えてから、渡の待つ市民病院へバスで向かった。

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