壊される
「莉緒ってなんで彼氏と別れたの?」
瑞穂もなかなかデリカシーが無い女だ。彼氏と別れて三日の女がそんなこと聞かれて気分がいいと思うか?悪気が無いのがかえって傷つく。
「隙を見せすぎて壊されそうになったから振った」
瑞穂の顔が「ワカラナイヨっ!」と言っている。瑞穂には恋人が出来たことがない。
「ふぉーん」
「ごめん、もうちょっと分かりやすく言うね。うん、そうだな」
私は頑張って上手い言い回しを考える。まとまりそうになる度に脳裏に元彼の顔が浮かんでキツい。
「ねぇーまだ?もうその話聞くの諦めるからさ、パンケーキ食べ行こうよ!」
「せっかく考えてるんだからちょっと待て。分かった。話し始める。一度しか言わないからよく聞けよ?」
「分かった!えっと、メモ帳、メモ帳、」
「そこまでしなくていい」
「はぁい」
私は深く呼吸をして、息を整える。瑞穂の真っ直ぐな目に少し戸惑いながら語った全文を最後に載せておく。そんなことより聞いて欲しい。パンケーキがふわふわだった。
「別れた、というか、振った理由っていうのはふたつあってね、まあこれは人を振ったことがある人なら少しは理解できるんじゃないかっておもうんだけど。一つは衝撃的な悲劇。言い換えるなら、トリガー、ってやつ。名目上の原因って言うのかな。浮気されたとかさ、殴られたとかさ。内容は人それぞれだと思うよ。なんだろうな、あ、一緒にやってけないやこの人と、って確信する瞬間があって、人は好きだった人を振るんだと思う。私の場合は、好きなものを貶されて、笑われたってのがそれ。好きな人に対してってさ、心許しちゃうんだよね。なんでも話しちゃうし、基本的にはなんでも受け入れちゃう。だからさ、無意識に心のガードを緩めちゃうんだ。この人が私を傷つけるようなことをするはずがないっていう、信頼で、心の扉を最大限開いてやるのさ。だから不意打ちで攻め込まれたら終わりなんだよ。信頼してた分だけ、隙があるから、ダメージが大きい。だから簡単に嫌いになれちゃうんだよね。うん。そういうこと。で、二つ目は、慢性的なすれ違い。積み重ねストレス、って感じかな。人を振るときのきっかけっていうのはもちろんあるんだけど、突然そのきっかけだけが訪れても、ちょっと傷つくだけでスルーできる人がほとんどだと思うの。重要なのは、そのきっかけっていう攻め込まれ方をされる前に、自分の心がどこまで攻め込まれてるか。ずっと仲良く楽しく好き好きでやってたんだったら多分耐えられる。耐えられないってことは、もう既にちょっとした、本当にちょっとした、すれ違い、段差、みたいなものがあったんだと思う。いわゆる亀裂ってやつ?それにも満たないぐらいかもしれないね。そういうのが何個も重なって、でもそれだけなら許せて。でも大きな衝撃が加わった瞬間に壊れちゃう。何も不思議な事じゃないよ。え?いや、いいって。私も話せてすっきりしたし。いや、だから別に迷惑だなんて思ってないってば。」
最後にもう一度言っておく。パンケーキが本当にふわふわでした。
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