第43.3話 六日目。昼。後悔と謝罪(三)

りく君どうしたの?」


 スマホを見た陸が息を呑むと、声をかけてきたのは海斗かいとだった。


「……これ」


 と、スマホを見せる陸。


「……あーこれ。咲久さくちゃん人質にされちゃってるね」


「あ。やっぱり? 小宮山君にもそう見える?」


「うん。むしろそうとしか見えない」


「だよね」


『ははははは……』


 見解の一致を見た二人。


 なるほど。二人して意見が同じなら、このメッセージの意味は、そう言う認識で間違いなさそうだ。

 けど、そうなると……


「ど、どどどどーすんの!? 咲久ちゃん人質にされちゃったよ?」


「どどどどどーすんのって言われても……どーすんの!?」


 二人は同時にパニックを起こした。


「て言うかダメじゃん! 陸君の目的って咲久ちゃん守ることだったよね? なのに咲久ちゃん人質に取られちゃってるじゃん! なんで一人にしたの!?」


「ひ、一人にはしてないし!」


 思いがけず責められた陸は、タジタジになって反論した。


 咲久には、偶然居合わせた咲久の友だち――通称・スッポンさん――に付いてもらっていたし、万一の時のためにお守りだって持たせてあったのだ。

 だから、こんな簡単に敵の手に落ちるなんて思ってもないことだったし、それに……


「ク、クシナダ様だって大丈夫だって言ってたし!」


 陸は言った。

 そうだ。この件は奇稲田くしなだがそうしろって言うからそうしたのだ。陸の意志だったわけじゃない。だから責められても――


「全然大丈夫じゃないからこんなことになってんでしょ! じゃあクシナダ様今すぐここに出して! ぼく説教する」


「え」


 陸は言葉に詰まった。

 自分だってできるならそうしたい。でも、呼び出せないのだ。

 だって、奇稲田の鏡はもう存在しないのだから。


「はいはいそこまで。二人ともちょっと脅されたぐらいでビビり過ぎ。まあこんなん、アタシにだけは言われたくないと思うけど」


『ホントだよ』


 ついこのあいだまで脅迫まがいの迷惑動画を撮っていた朱音に、二人は同時にツッコんだ。


 ◇ ◇ ◇


 それから――


 咲久を人質に取られた陸たちは、やむなく川女かわじょに向かっていた。




┏━━━               ━━━┓


              今から戻るけど

         かなり遠くまで行ったので

              20分ください


┗━━━               ━━━┛


 陸は歩きながら、返信した。

 本当は、この公園から川女までたったの5分。でも、嘘でもいいから1分でも稼いでおきたかった。


 するとすぐに返信がきて、

 

┏━━━               ━━━┓


  15分


  1-A

  4階


  精々遅れないようにすることね


┗━━━               ━━━┛


「……っし!」


 それを読んだ陸は、小さくガッツポーズした。


 いける!

 ひまりを乗っ取られたと知った時は、もう完全に詰んだと思ったけど、こんな簡単にだませるのなら、まだどうにかなるかも知れない。


 すると、ひまりから続けて画像が送られてがきて――


「ん? ……っ!」


 陸は息が詰まった。

 ひまりが送ってきた画像。それは、教室の机の上に寝かされている咲久の姿だったのだ。


┏━━━               ━━━┓


  どう?


  いい寝顔だと思わない?


  でも


  来るなら早くした方がいいわよ


  じゃないと


  この子がどうなるか


┗━━━               ━━━┛


「……」


 陸は画面を消した。そしてぎゅっと目を閉じ、スマホをしまう。


 大丈夫。まだ大丈夫。寝てるだけ。オレが絶対にたすけるし。そう。最悪、自分が身代わりになってでも――


 目を開いた陸は、差が開いてしまった二人に追いつこうと足を速めた。


 ◇ ◇ ◇


「今のセンパイ? なんて?」


 陸が追いつくと、その様子を気にした海斗が声をかけてきた。


「1-A。15分くれるって」


「へえ、5分儲けたってこと? でも1-Aだと4階の一番端っこかあ。急いだほうがいいかも」


「え? なんでそんなこと知ってんの?」


「知らないよ? でも1年の教室って上の階にあるもんじゃない?」


 なるほど。陸は納得した。

 簡単に女子高の構造を言い当てるものだからちょっと驚いたけれど、聞いてしまえば簡単なこと。


「でもどうする? このままじゃ勝てないでしょ? それとも、なにか作戦とかある?」


「それなんだけど……」


 陸は朱音にも声をかけると、考えを打ち明けた。

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