第43.2話 六日目。昼。後悔と謝罪(二)

「――ホンットごめん!」


「ああうん。まあぼくは全然いいんだけど」


 朱音あかねが頭を下げると、勝手に許しを与えたのは、完全に他人事ひとごとのはずの海斗かいとだった。


「でもそれだと、咲久さくちゃんを狙ってた理由が分からないままだけど? あと昨日の夜、りく君呼び出したのも」


「え? あー、うんゴメン。実はアタシ、昨日アナタたちと別れたぐらいからのことが、あんまり……」


 朱音は申し訳なさそうに言った。


 どうやら彼女、神霊に良いように使われていただけらしい。


 陸は、奇稲田くしなだとはあまりにも違うあれ・・の性質に、自分がどれだけ恵まれていたのかを思い知った。


 奇稲田は小うるさい上にちょっとメンドクサイ性格のババ――もとい。お姉さん・・・・という致命的難点はあった。

 けど、それでも必要なことは丁寧に教えてくれたし、なによりも友好的だった。

 今だって鏡さえ無事なら、聞かれもしないアドバイスやお小言を積極的に垂れ流してくれたはずで、なのに自分のせいであんなことに――


「陸君? 大丈夫?」


「ん? あ。うん」


 海斗に心配された陸は我に返った。


 どうやら奇稲田のことを考えていたら、暗い顔になっていたらしい。


「どうする? 福士ふくしさん、今度は本気で味方してくれるみたいだけど?」


「ああうん……じゃ、なに? シュオンが迷惑動画撮ってたのも、あれ・・の指示だったとか?」


 陸は結論を先送りにして尋ねた。


 先日、朱音が咲久を泣かせたことが引っかかっているのだ。

 陸にとってそれは、自分のこと以上に許しがたいことで、その罪万死に値する! とか考えているぐらいなのだ。


 けど、その主犯が朱音じゃないと言うのなら、無闇に彼女を責めるのも違う気がして。


「あ……あーうん。神社のお店で氷室さんをハメたことについてはそうなんだけど……」


 朱音は、返事に困っていた。


 ◇ ◇ ◇


「アタシ、受験の後入院してたってのは今言ったじゃない? それでさあ、結局入学式には間に合わなかったんだけど、それでも調子も良くなってきたしボチボチ登校しようかな~って学校行ってみたの。そしたら……」


 朱音は迷惑系になった理由を語り出した。

 けど彼女、すぐに視線を落として、


「なんかさ。パパ活してたのがバレて停学になったことにされてて……」


「あ……」


 その噂に聞き覚えがあった陸は、思い出した。


 そうだ。確かにそんな話聞いたことがある。

 あれ? でも待って。その話、してくれたのって確か……


「あ。うん。ごめん……ぼくその話、信じちゃってたかも」


 陸に噂を聞かせた張本人海斗が朱音に謝っていた。


「あ。てことはシュオン。ウソ広めたヤツらに復讐してやりたくて動画を?」


「え? ……いや、まさか!」


 早とちりした陸に、朱音はブンブンと手を振って否定した。


「アタシはただ学校に居場所がなかったから別のことしようって。それに撮った動画だってまだ1件も上げてないし。てかね、気付いたらあんなことしてたけど、アタシ別に、そんなつもりなんて……」


 陸の迷推理を、朱音は一生懸命に否定していた。

 その様子は、ついさっきまで相手を煽り散らかすような態度だった人間と、同一人物だとはとても思えない。


「じゃあぼくからも。福士さんてさあ……そんなキャラだったっけ?」


「え? それは……ハハハ。はい。キャラ作ってました。普通にしてたんじゃ、なんかもう色々キツくって」


 同じことを感じていたらしい海斗の質問に、朱音はうなだれた。


 なるほど。こっちが彼女本来の姿なのか。どおりでこっちのが馴染んでると思った。


「とにかく! アタシ、もう色々ムリなの! もちろんゴメンナサイとかそう言うのは、またちゃんとするつもりだけど、アタシのせいでこんなことになっちゃってるんだし、だから手伝わせて!」


 真剣に謝る朱音。

 と、その時。




 ――ぺこん。




「ん?」


 誰、こんな時に? ――陸は迷惑そうにスマホを取り出した。

 すると、そこには――


┏━━━               ━━━┓


  10分だけあげる

  今すぐ戻って来なさい


  こっちには咲久がいることを

  忘れてないでしょうね?


┗━━━               ━━━┛


 それは、ひまりからの警告文だった。

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