六日目 昼休み・敗走
第42話 六日目。昼。逃走。
ひまりが相手の神霊に乗っ取られた?
だというのに、逃げ出すしかなかった
「シュオン! どこ行くんだよ!」
「分かんない!」
「だったら上! 4階! お守りがある!」
「今からまた戻るとか!? アタシ、スマホまで犠牲にしたんだから、あんまふざけたこと言わないで!」
「スマホ?」
陸は、さっき朱音が何かを投げていたのを思い出した。
そうか。あれ、スマホだったのか。
スマホなんて高校生にはホイホイと買い換えられるような物じゃない。なのに、そんな大事な物を犠牲にしてまで自分を助けてくれるなんて、どうして――?
「く……」
陸は湧き上がってくる後悔に、
あの時、
いや。理由は分かってる。
それは、取り乱すひまりの様子があまりにも魅力的に見えたからだ。
普段あれだけツンツンで怖いぐらいの彼女が、あんなふうになるなんて。
けどその結果がこれ。鏡を失ったのはあまりにも痛い。
「ああくっそおっ!」
つまらないスケベ心に負けた。
自分を許せなかった陸は、階下まで一気に跳び降りた。
◇ ◇ ◇
1階に着いた陸は、朱音に続いて昇降口に向かった。
鏡もお守りも失った以上、今は逃げるしか手がない。
すると昇降口の方から、やたらパンパンのバッグとコンビニ袋をぶら下げたメガネが、ノコノコとこっちにやって来るのが見えて、
「小宮山君!?」
陸は呼んだ。
そうだ。そう言えば彼には、
「あっ、陸君。丁度よかった。今からそっち行こうと思ってたんだけど、みんな何が好きか分からなくって。それでさあ、とりあえずこれ、おにぎりなんだけど、陸君はツナマヨとエビマヨと特選炭火焼きカルビマヨ、どれが――」
「そんなのいいから! こっち!」
「え? なに? えええー?」
陸は事情を知らない
◇ ◇ ◇
公園――
靴を履き替えるような余裕もなかった陸、朱音、海斗の3人は、靴を持ったまま今朝の公園まで走っていた。
「で、陸君はツナマヨとエビマヨと特選炭火焼きカルビマヨ。どれがいい?」
全員が息を整える中、真っ先に口を開いたのは、一人だけ事情が分かっていない海斗だ。
「あーじゃあ、カルビ……」
陸は答えた。
なにしろ、もう昼休みも30分を過ぎようとしている。いい加減お腹だって空いているのだ。
だから陸は、ここは一つカルビでガツンと腹の虫を黙らせてやろう! とか考えたのだけど――
「――って! 違ーう!」
陸はツッコんだ。
そうじゃない! そうじゃないんだよ! 今必要なのはカルビじゃないんだよ! いや。カルビはカルビで良い物なんだけど、今は他にもっと大切なことがあって……
「え? カルビマヨ嫌いだった? じゃあツナマヨかエビマヨになっちゃうけど?」
「あ、ううん。むしろカルビしか勝たんぐらいで……て、違うよ! てかさ、なんで全部マヨで責めてきたの? もっと他にさあ、梅とかおかかとか王道のヤツが――って、それも違くて!」
もう何がなんだか。
ひまりのこと。奇稲田の鏡のこと。朱音のこと。咲久のこと。他にもあれとかこれとか、ついでに空腹とか解決しなきゃいけないことが山積みで、陸の処理能力はもういっぱいいっぱいだ。
「あーゴメン。ちょっといい?」
陸が頭を抱えていると、手を挙げてきたのは朱音だった。
「あ……シュオン……」
警戒した陸。
なんのつもりなのか知らないけど、彼女は破滅の導き手。要は敵だったはず。なのにどうして?
――まさか罠?
けれど、朱音が口を開くよりも先にしゃべり出したのは海斗で……
「あれ? どうして
『そこ!?』
この期に及んでどっかずれたことを言う海斗に、陸と朱音の息がぴったりと合った。
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