第41.2話 六日目。昼。生物室(後編)
「さあ。もう逃げ場はないわよ。いい加減観念して私と仲良くしましょう?」
楽しむように距離を詰めてくるひまりに、
「や。それはもうちょっと考えさせてほしいす」
それでも拒否する陸。
ひまりの狙いがなんなのか分からない。けど、それでも降参するわけにはいかない。
陸は、活路を求めて横に逃げた。
すると、彼の足に何かが当たって、
「――シュ、シュオン!?」
陸は驚いた。
足に当たった何かとは
この薄暗さに紛れて分からなかったけど、どうやら彼女ずっとここに倒れていたらしい。
まさか本当に死んで!? ――陸は確かめた。
や。大丈夫。息はしてるっぽい。でもどうしてシュオンがこんなことに――
「……え?」
「……」
陸は朱音の手にあったスマホを見ると、動きを止めた。そして、小さく頷くと立ち上がる。
「その子ね、もう要らなくなったのよ。もうちょっと使ってあげてもよかったんだけど、あまり使える子じゃなかったし、だったらもっとスペック高そうな子を使いたいじゃない?」
ひまりは上機嫌だった。
陸の前では基本不機嫌な彼女からは想像できないその笑顔に、陸は、
「……今のセリフ、やっぱり自分はセンパイじゃないって白状したってことでいいすね?」
陸は彼女の言動の矛盾を突いた。
そして、今の発言をトリガーにして、ひまりの歩数を数え出す。あと10。
「いいえ。私はひまりよ。でもそんなことはどうでもいいじゃない。今大事なのは、貴方が私のお願いを聞いてくれるのかってことなんだもの。それだけ。簡単でしょ?」
ひまりが、コツ……と、一歩ずつ足音を立て近づいてくる。あと7。
「分からないすね。昨日の夜も、シュオンがなんかそんなようなこと言ってたけど、オレにはなんのことだかサッパリす」
陸は、じわりと滲んでくる手汗をズボンで拭った。あと4。
「そう。残念だわ。まだ思い出してくれないなんて」
ため息を吐いたひまり。諦めたように一気に距離を詰めてくる。3……2……1……そして!
「――ゼロっ! うらあっ!」
カウントがゼロを数えた瞬間、陸は手近にあったカーテンを引っ張った。
急に差し込んできた太陽の光に、ひまりが――そして陸までもが、視力を奪われる。
「くっ!」
ひまりが怯んだ。
と、今度は――
「ええいっ!」
気合と共に動いたのは朱音だった。
それまで気を失っていると思われた彼女。陸の声を合図に立ち上がると、ひまりに何かを投げつける。
「くっ! そんな手が!」
けれどひまりはその攻撃に対応した。飛んできたそれを手で払い落とすと、まだ視力の戻らない目で、陸たちを睨みつける。
しかし――
ガチャン!
「きゃあ!? なに!?」
予想外の事態に、ひまりは
たった今弾いたそれが、すぐ横の水槽を割ったのだ。
しかもそれで流れ出したのは水だけじゃない。足にぬるりと触れる物があったものだから、
「――っ!?」
これにはさすがのひまりも、パニックを起こした。
「りってぃ逃げるよ!」
「え? あっ!? ちょっと!」
「ま、待ちなさ――ひっ!?」
こうして陸は、ひまりの怒声を浴びながら、朱音と共に逃走した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます