第39.4話 六日目。昼。1年教室前廊下(四)
――そういえば。
あんまりちゃんと考えたことなかったんだけど、サクのことが好きになったの、いつからだっけ?
中学に入学した時にはもう好きだったのは分かってる。だってクラス発表の時にがっかりした記憶があるから。だから絶対にそれよりは前だ。
でもじゃあ、いつ? 小学校高学年? それとも中学年? や。低学年かも?
もっと前なら、幼稚園てことになっちゃうんだけど……
いやいやいや。さすがにそれはないわ。だってサクとは幼稚園違ったし。
……そうだ。サクとは幼稚園が違ったんだ。だから一緒のクラスになったのは小1が最初だったはず。
ん? いやでも待てよ? クラスが一緒になったのは小1が初めてなのはそうなんだけど、サクのことはその前から知ってたような気がするわけで。
てことは、じゃあサクとはいつ、どこで出会ったんだ……?
(――きよ! 起きよ
「はっ!?」
自分を呼ぶ
「あれ……もしかしてオレ、寝てた?」
(「寝てた?」じゃないわまったく……いくら娘のためとは言え無茶しおって)
怒るに怒れないと言った感じの奇稲田。
「――そうだ、サクっ! サクは!?」
(安心せい。娘はほれ、
「そこ?」
奇稲田の言葉に、陸は辺りを探した。
すると、
「……て、ええっ!? え? え? あっれえ!?」
陸は目を白黒させた。
咲久は今、自分のすぐ横で添い寝するような格好で眠っていたのだ。
「ど……どどどど、どゆことこれぇ?」
(なにを取り乱しとる? 自分で仕出かしたくせに)
どうして憶えてないのか? 締まらない陸に、呆れる奇稲田。
(さっきも言ったが、そなた無茶し過ぎなんじゃよ。いくら娘が転落しかけたとは言え、加減と言うものがあろうに)
「はあ」
お小言をくらった陸は、その時の状況を段々と思い出した。
◇ ◇ ◇
陸が守りを投げると、それは咲久の首辺りに命中した。
すると、今にも飛び降りようとしていた咲久の体がぐらッと揺れて、
「――ダメだっ!」
陸は、考える間もなく飛び出した。
気を失った咲久が、その拍子に外に落ちようとしていたのだ。
間に合え! 手を伸ばす陸。
こんな所で終わらせるか。サクがいなくなったら、オレの人生に意味はなくなる。サクが……サクがいるから、オレは――!
「さっせるかぁっ!」
陸は床を思い切り蹴りった。
そして――
◇ ◇ ◇
そうだ。あの時、落っこちそうな咲久をこっち側に引き戻すような余裕はなかったんだ。
だから横からかっさらう感じで咲久に飛びついたまではよかったのだけど、あとのことなんか考えてなかったから、そのまま窓の脇にあった柱に頭からガツンっ!
なんか火花みたいな閃光と鉄っぽい匂いがして、それから視界が暗転して……
それは、出血がないのが不思議なぐらいの衝撃だった。
(まあよい。結果的には上手くいったのじゃ。
「はは……っす」
目をつぶるとか言う割には言いたいことは全部言っちゃった奇稲田に、陸は苦笑した。
◇ ◇ ◇
「ああっ! ひむひむ!?」
陸がちょっと気を抜いていると、その隙を突くように駆け寄ってきたのは、さっきまでそこでスッ転んでいたはずのスッポンさんだった。
「おお?」
突然の乱入者に驚いた陸。すっかり忘れてた。
「なに? なんで!? どうしてひむひむ倒れてんの!?」
「あーそれはっすね……」
急に現場復帰したスッポンさんに、陸は困った。
どうしてこの人は肝心なところを見ていなかったんだろう? どう説明していいか分からない。
どうせ居合わせたんなら最初から最後までちゃんと見てるか、さもなきゃ最初からいないで欲しい。
これじゃ、まるでオレがサクに悪さしたみたい見えるんだけど?
「まあ……オレも詳しいことは分かんないんすけど、サク、なんか今日ちょっと調子悪かったみたいで、今ちょっとフラフラッと……」
「そうなんですか? あれ? でもあたしさっき、ひむひむにすっごい吹っ飛ばされたような……」
「あーあー逆にオレ、その時の状況は見てなかったんでよく分かんないす」
陸は誤魔化した。
なにか知ってると思われたら厄介だ。
色々説明に困ることが多いし、それでも説明しようとすれば、今度はこのスッポンさんを巻き込むことになる。
そしてなによりも……
「メンドクセ……」
「なんて?」
「あ。や。なんも」
ポロっと本音が漏れてしまった陸は、知らんふりした。
するとスッポンさんは、
「えっと……ひむひむの彼ぴっぴ君なんですよね? もしかして今、ケンカ中だったとか……?」
幸いなことに彼女は深く追及してこなかった。それどころか、陸のことを咲久のカレシと勘違いする始末で。
「え? えぇ? そ、そう見ますう? や。実はこう見えて、オレ、ただの幼馴染なんすけど」
陸は
確かに今はただの幼馴染。でも近い将来そうじゃなくなるプランが自分の中にはちゃんとあって――
(なんとまあだらしない顔じゃろうなあ。そんな出来もせぬ想像を楽しむより、娘を起こしてやるとかすればよかろうに)
どうしようもなく表情が緩んだ陸に、奇稲田が呆れていた。
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