第39.3話 六日目。昼。1年教室前廊下(三)

(――娘を想うそなたの気持ち、力に変えよ!)


「サク! これが、オレの――!」


 絶対にたすけてみせる! 咲久への想いを胸に、りくは加速した。


 けど、ここからじゃどう考えても遠い。


 あと3――いや。1秒でいいから時間が欲しい!


 陸は願った。勿論そんな余裕はない。でもそうじゃないと、だってほら! 咲久はもう窓枠に両足をかけて飛び降りようとしている。


 と、その時――




「っ!?」


 陸は自分の手が光っていることに気付いた。


 いや、光っているのは自分の手じゃない。手に持っている物。


 お守りだ。咲久の荒魂・・・・・しずめ、清めるために必要なアイテム。


「クシナダ様!?」


 陸は聞いた。けど、奇稲田からはなんの反応もない。


「ねえクシナダ様!」


 陸はもう一度聞いた。


 けど、奇稲田はなにも答えない。


「えっ!?」


 そこで陸は気が付いた。


 奇稲田が答えてくれないんじゃない。自分の時間が……いや。自分以外のすべての時間がゆっくり流れているのだ。


 そんなことってある? いくら極限状態だからって、そんなこと……


 陸が不思議がっていると、お守りがさらに光を発した。


 ――なに? もしかして、使えって? や。言われなくたって分かってるよそんなこと。


 でもここからじゃ咲久には届かない。お守りは直接渡して初めて効果を発揮する。


 そりゃ投げれば届くだろうけど、そんなことをしても意味なんかない。

 もしそんなことをしても、それは相手とお守りに失礼なだけ。


 ――信じてみない? わたしを。それに、あの子を想う自分の気持ちを――


 知らない声がどこからか聞こえていた。


 誰? 分からない。あ。でも知ってる。これは、昔どこかで聞いたことある。優しい声。


「分かった。信じてみる。だって××さんが言うことだもん!」


 陸が承諾すると、世界が再び動き出した。


 ◇ ◇ ◇


(陸よ! 急げ! 急いで急いで急ぐのじゃ!)


 元の時間では、奇稲田が必死の応援を繰り広げていた。


 けれど陸、足を止める咲久に狙いを定める。


 咲久はもう両足を窓枠に乗せ終えていた。こちらを見て、お前の負けだとわらっている。


(どうした!? そなた一体なにを――)


「いっけえ!」


 陸は思い切り腕を振った。


 飛んで行くお守り。一直線に。嘲笑する咲久目がけて。


 そして――




 咲久がその動きを止めた。


 お守りが彼女に当たったのだ。


 咲久は、後はもうその手を離しさえすれば外に落ちるという体勢で、さっきまでの嘲笑はどこへやら。ただただポーっとした表情でこちらを向いている。


「やっ……た?」


 陸は注視した。


 動けない。動けば咲久は手を離すかもしれない。でもずっとこのままってわけにもいかなくて……


「――あっ!?」


 陸は焦った。

 咲久の頭がぐらりと揺れ動いたのだ。


 マズい! 気を失ってる!? しかもそっちは――!


「ダメだっ!」


 外に落ちようとする咲久を救けるため、陸は再び駆け出した。

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