第39.2話 六日目。昼。1年教室前廊下(二)
チャンスは突然に――そして
「ひむひむ
いや。正確に言えば、やって来たのはチャンスなんかじゃなく、もっと別のモノだったのだけど。
「なんだよー学校来てんなら部活来いよー。あそっか。今日土曜。てことは
そんなことを好き勝手に
あの感じからして、たぶん咲久の部活仲間だろう。
一度抱き着いたらもう離れないらしいその友人Aさん。
嫌がる咲久にも負けず、かなり積極的なスキンシップを図っている。
「今そこの男子と話してたよね? 誰? 弟くん? あ! もしかして彼ぴっぴってヤツ?」
「
咲久は迷惑そうにもがいていた。けれどAさん、そんなことはちっとも気にしないらしく、
「ちょ、待って待って。てことはひむひむさあ、もしかして、
Aさんにとって真実とは自分がどう感じたかと言うことらしい。咲久の言うことなんて聞きもせずに好き勝手なことを言いまくっている。
悪い意味での
◇ ◇ ◇
「なんか……スッポンみたい……」
あれって女子高あるあるなのかな? どうしてあの人、さっきから咲久のほっぺにチュッチュチュッチュやってるんだろう?
あとよくよく見てみたら、あの人、咲久に抱き着いてから、ずーっと胸を揉みまくってるみたいだけど、あれも……ねえ?
「くっそ、なんてうらやま……や!
陸は強がった。
もし自分が女子なら、咲久に抱き着いたりはしないだろう。それよりも、もっとこうムードを重視したシチュエーションで――
(て、言っとる場合かぁっ!)
「だから言い間違えただけで! 別に本音が出たとかじゃ――て、ああっ!?」
陸は我に返った。
そうだ! 今はスッポンさんのことをうらやましがってる場合じゃなかった!
幸いなことに咲久は今、スッポンさんのおかげでその行動が著しく制限されている。やるなら今しかない!
(行け陸よ! 娘を破滅から救い出す時は今ぞ!)
「っす!」
陸は飛び出した。
◇ ◇ ◇
しかしその時――
「ああもう! いい加減に!」
「うきゃ――!?」
スッポンさんの悲鳴に、陸は気が付いた。
彼女、さすがにやり過ぎたらしい。怒った咲久が、スッポンさんの拘束を強引に解いたのだ。
ただ、その様子はちょっと普通じゃないもので、
「な、なんだあれっ!?」
その光景に陸の足が止まった。
咲久の目が血走ったかと思うと、突然とんでもないパワーを発揮したのだ。
振りほどかれた勢いで、スッポンさんが数メートルほども吹っ飛んでひっくり返っている。
(今の光景、しかと心に刻み込んでおけ。荒ぶる霊魂は肉体を
奇稲田が目の前の怪現象を説明した。
「でもじゃあどうすれば!?」
(いや。今こそ逆にチャンスじゃ。霊魂がどうであれ、肉体が人のそれである以上、あれだけの力を発揮した直後に満足に動けるはずがない。こうなれば娘の回復とそなたの脚、どちらが早いか競争あるのみ!)
「うっす!」
奇稲田からGOサインをもらった陸は加速した。
スッポンさん。
ありがとう。
あなたのおかげでチャンスが生まれました。
咲久に抱き着いたり、チュッチュしたり、あまつさえ胸を揉みしだいたりしてんのに、それでも
「サァークーっ!!」
「――っ!?」
陸の声に、咲久が振り向いた。
奇稲田の言う通りなら、咲久は今ろくに動けない。
けれど咲久は、奇稲田の予想に反して、陸の接近に気付くと、早くも窓枠に脚をかけようとしていて――
これは――間に合わない!?
(諦めるな! 人を想う気持ちは時として肉体にさらなる力を与える! 娘を想うそなたの気持ち、力に変えよ!)
「うらああああぁぁぁぁーーっ! サク! これが、オレの――!」
陸は未だかつてないほどに声を張り上げると、さらに加速した。
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