六日目 午前
第33話 六日目。朝。氷室神社(?)
六日目。日が昇った。
――明日迎えに行きますから――
そしてここは、神社の中でも、プライベートな一角で。
『アっハハハハ……』
陸は、笑い転げる二人を前に、怒り出したい気持ちをグッとこらえていた。
「ハハハハハ……ひ、ひーっひひひひひ……」
「ひーっ……お、おな……おなか痛い……」
なにがそんなにおかしいのか笑い過ぎなぐらいに笑いまくる二人に、我慢のあまり手がワナワナと震えてくる陸。
すると、さすがにもうこれ以上は笑えなくなったのか、そのうちの一人がようやく息を整えて。
「ははは……あーおかし……でもさ
どうあっても笑うのを止められない
◇ ◇ ◇
と言うわけで、ここは神社の敷地内にある氷室家住宅の一室。
いよいよ決戦か? そう悟った陸は、咲久が
「おけ。面白かったから貸したげる」
「あーめっちゃ面白れー。リック超似合ってたし、もう毎日やってよ」
そんなリクエストをしてきたのは
「でもすね毛汚なかった。ジャージ履くとかした方がいんじゃね?」
「それ! リっちゃんせっかく歩き方キレイなのにもったいないよ」
「うっせーわ」
要らんアドバイスをくれる姉弟に、嫌な顔をした陸。
確かに、「今度、体育祭の仮装競争で使うから」とは言った。「仮装のクオリティによって得点がプラスされる」とか要らんことも言っちゃった。
けど、そんなのは借りるための方便――ウソに過ぎないわけで、だから履けとか言われても「うっせー」としかならないわけで。
「大体雨綺は今日サッカーじゃねーのかよ?」
陸は雨綺に邪険な目を向けた。咲久はともかく、小学生にまで笑い物にされたら高校生の
「そうだよ。でもまだ全然時間じゃねーし。そんなことよりさっきのポーズもっかいやって」
「くっ」
陸は言葉に詰まった。
ホント、なんでコイツこんな犬みたいなんだ? こっちがどんなに邪険に扱っても、平気で懐に飛び込んでくる。
しかも雨綺の犬っぽいところは、普段はそんな感じのくせに、こっちが本当に困っているとちゃんと気遣ってくれる点だ。
そんなやつだから本当に嫌ってやれば近寄らなくなるんだろうけど、それはそれで心が痛いと言うか、寂しいと言うか……
「あー、でもサク。これ、本当に借りていいの? 今日学校あんじゃ?」
どうにも打つ手がなくなった陸は、咲久に話を振った。
「それ夏服。あと
あっけらかんと咲久。なるほど。それなら大して悩みもせずに貸してくれたのも頷ける。
「あれ? どうしてリク、土講のこと知ってんの? 話したっけ?」
「ええっ!? あ、うん! こないだ! こないだ聞いた」
予想外の質問に、慌てた陸。
別に、土講のことはひまりから聞いたと正直に答えてもよかった。けど、今ここで別の女子の名を出すのは、なんとなく気が引けたのだ。
「あー、返す時はちゃんと洗って返すから。その……安心してな」
「なんで? 別にそんなことしなくてもいいのに」
「ええっ? や。ダメだろそりゃ。ちっとは汚れるだろうし」
そう言うことには無頓着な咲久に、逆に気を遣った陸だ。
実際には制服を汚すつもりなんてサラサラない。けど、なにが起きるか分からないのが今回の相手。
それに、使おうが使うまいが、借りた以上は借りた時よりもきれいにして返すに越したことはないわけで。
「わたし、リっちゃんのそう言うちゃんとしたトコ、前からいいと思ってた」
「リっちゃんじゃねーけどな」
陸は対して嬉しくもない世辞に、そっぽを向いた。
しかし彼、内心では――
◇ ◇ ◇
あれ?
もしかして今、オレ、サクに褒められた?
いいと思う。だって。
それってつまり、オレのことがす……す……す……すき?
いやいや!
それはさすがに早いって。
……でも待てよ?
今、洗わなくていいとか言ってたな。
それってつまり、咲久にとってオレは嫌な臭いじゃないってこと?
あ。
そう言えば、遺伝的に相性がいい人の体臭は、いい匂いに感じられるとかって、どっかで聞いたような……
て、ことは――!
◇ ◇ ◇
「う、うへへへへ……や。子どもは何人? とか、そりゃ気ぃ早すぎだろ……」
「リックなにニヤニヤしてんだ?」
「え? やだ。なに? ……キモ」
「――はっ!?」
ドン引きする氷室姉弟の言葉に、現実に引き戻された陸。
「や! ちがうぞ! 別にオレ、制服でイケないことしようとか、そんなこと考えてな――!」
「わたし、別になにも言ってないけど」
「リック、それ逆に不審者」
「……あー……やっぱ貸すのやめよっかな……」
「ええっ!? や。ちょ、そりゃ困るんだけど!」
あらぬ疑いをかけられた陸は、誤解を解くためムダな時間を費やす羽目になった。
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