第28話 五日目。放課後。公園。

 五日目。放課後。


 これも朱音あかねを監視下に置いた成果なのか。結局、ひまりから危急を知らせる連絡が来ることはなかった。


 そしてここは、川女の正門を出て少し行った所にある小さな公園で――




こっちの彼・・・・・はともかくとして……どうしてこの女までいるの?」


 合流したばかりのひまりは、りく以外のメンバーを見つけるなり不快感をあらわにした。


 そう言えば、ひまりには二人が同行することを伝えていなかった。気が付いた陸だ。

 でもひまりは話せばちゃんと分かってくれる人だし、今からでも説明すれば――


「あーそれはすね――」


「はぁ? アタシがいるとなんか問題でもー?」


 けれど、説明しようとした陸の言葉を遮ったのは、挑戦的な態度の朱音だった。


 元々迷惑系として名を馳せた(?)朱音。

 自分に向けられる敵意には人一倍敏感なようで、そういう相手には、絶対に退きたくないらしい。


「あら、随分と可笑おかしなこと聞くのね。いちゃいけないのかですって? その答えはYESよ。ここは貴女みたいなのがいていい場所じゃないの。早く帰りなさい」


「はぁー!? なんでアナタにそんなこと言われなきゃならないんですかあ? アタシはりってぃに告られたから一緒にいるだけで、アナタにはカンケーないことなんですけどー?」


「見え透いたウソね。いいから早く巣にお帰りなさい」


「はぁ? ホントですけど~? 妬かないでないでくれますぅ?」


 ひまりと朱音。水と油みたいな性格の女子同士が、早くも鎮火不可能な勢いで燃えている。


 しかしその一方で、会わせちゃいけない二人を会わせてしまった張本人様はと言えば……


「あれ? もしかしてオレ、福士さ……シュオンに告ったことになってる?」


 陸は、さっきからちょいちょい含まれる新情報に、誰よりも驚いていた。


 どうしてそんな話に? ――そんなことした覚えがまったくない陸だ。頭をフル回転させて記憶を探ってみても、やっぱり見つからない。


「ねえ。陸君ってそう言うつもりで・・・・・・・・福士さん助けたの?」


「え? ――やっ! 違う違う違う違う!」


 とんでもない誤解をしてくれた海斗に、陸はものすごい早口で否定した。


 そんなことがあってたまるか。自分の本命はいつだって一人だけだ。

 そう。自分の心にはいつだってあのお節介な幼馴染がいて――


「だよね。安心したよ。いくら陸君でもさすがに三股はしないよね?」


『三股!?』


 海斗の発言を聞き逃さなかった女子の敵意が、一斉に陸に向かった。


 ◇ ◇ ◇


「――そんなわけで、福士さ……シュオン……さんには神託しんたくの期間が過ぎるまで、一緒にいてもらうことにしたんです」


 なぜかいわれなき迫害を受けた陸は、憤慨ふんがいする女子たち……とりわけひまりに対して丁寧に説明した。


「そう言うこと……悪かったわね、ひっぱたいたりして」


「いえ。とんでもないです」


 自身の早とちりを恥じてか、ちょっと頬が赤いひまりと、特に反省する点はないけど、ヒリヒリと頬が赤い陸。


 分かっちゃいたけど、ひまりは絶対に怒らせちゃいけない。

 咲久さくもベクトルこそ違うけれど怒らせると変に怖いし、なんで川女の生徒はこう怖いのばかりがそろっているんだろう?


「え? じゃあ、りってぃがアタシとずっと一緒しよって言ったの、告ったとかそーゆーんじゃなくて、ホントに……ただ一緒にいるって意味だったの?」


「ん? ああ」


 朱音の質問に、陸はやっとのことで喫茶店での出来事を思い出した。


 そう言えばあの時、確かに陸は言っていた。「ずっと一緒にいてもらう」と。

 けどそれは、彼女が破滅の黒幕候補で、監視の対象だったから。言ってみれば捜査中の容疑者と警察みたいなもの。

 そんな理由でもなければ、咲久を泣かせた彼女と一緒にいたいはずがなく。


「はい。オレが言いたかったのは、ただ一緒に行動しようってだけの意味です」


 陸はなんの感慨かんがいもなく告げた。


 彼女の勘違いには勿論驚かされたけど、分かってしまえばだからなにと言った程度の話。

 好きか嫌いかで言えば嫌い寄りの彼女にどう思われようが、別に知ったこっちゃない。


 けれど朱音、陸のこの回答に気分を害したようで、


「……もういいわ。やっぱアタシ帰る」


「……え!? や。ちょっと! ダメだって!」


 今度こそ本気で帰ろうとする朱音を、陸は慌てて追いかけた。

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