五日目

第27話 五日目。午前。喫茶店。

 五日目。午前。とある喫茶店にて。




 昨日の迷惑系騒ぎから一夜明けた金曜。

 平日にもかかわらず、りくはなぜかこんな所でお茶をシバいていた。




「――だから、オレはそのサ……あー友だちを守るために動いてたと、そう言うわけでした。以上!」


 今までの経緯いきさつを大まかに語った陸。

 彼は最後にちょっと薄いラテを一口すすった。


「へえ」


 そんな彼の熱弁に、感心の吐息を漏らしたのは、対面に座る海斗かいとだ。

 彼、昨夕の一件で陸の行動に興味を持ったようで、別に頼んでもいないのに同行していたのだ。




「あー。それで陸君、ひまりあの人と仲良くなりたいって……」


「まあ、ん」


 陸はちょっと居心地悪そうに頷くと、窓の外に見える建物に目を向けた。


 川薙かわなぎ女子高校――


 今ごろ、あそこでは咲久とひまりが授業を受けているはず。

 勿論、学年の違う二人だし、同じ教室にいることはない。

 けど、それでも咲久の身になにかあれば、咲久のクラスメートからひまりに連絡が飛んで、そこからさらに陸にも――それが、昨日ひまりと相談して構築した連絡ルートだった。




「っても、くー様とかまだ分かんないこともあんだけどね」


 また視線を戻した陸は困ったように言った。




 When、Where、What、Why、How――今日でもう五日目だと言うのに、Who(咲久)以外はなにも分かっていない。この破滅、謎が多すぎる。

 そして、そんな謎をさらにややこしくしてくれるのが、昨日突然スマホに現れた例の「庶民派くー様」だ。




「ふーん。で、その庶民派さんは、それからなんて?」


「なんにも。なんなんだろうね、ホント」


 陸はスマホをいじると、テーブルに置いた。

 くー様とのやりとりは、[ならゴーゴーゴー!]を最後に、なんの更新もない。


「あーもう意味分からんし!」


 あまりの手がかりのなさに、陸は頭を抱えた。


 こんな時、奇稲田くしなだがいてくれれば、きっとなにかしらのアドバイスをくれただろう。けど彼女、昨日の老害発言がよっぽど気に障ったようで、未だにだんまりを決め込んでしまってるのだ。


「ふうん。んじゃあもうひとついい? この人、どうしているの?」


 海斗は、この席にいた三人目・・・に好奇の目を向けた。


 すると彼女・・、それまでご執心だったスマホから海斗へと視線を移して、


 「はぁ? なんか文句ありますぅ?」


 ▽ ▼ ▽


 今日、この場に集まったメンバーの三人目とは、福士朱音ふくしあかねのことだった。


 そう。昨日までは迷惑系・女子と認識されていたあの彼女だ。


 15歳。県立川薙南高校の1年で、陸たちの隣のクラス。


 かなり派手めな髪とネイルが特徴の不登校・素行不良ガール。

 昨日もあちこちに迷惑をかけた彼女だけど、そんな朱音が今この場に同席しているのはなぜ?


 △ ▲ △


「アタシいーかげん飽きたんでぇ、もー帰っていーすかー?」


 またスマホに視線を戻した朱音が聞いた。


「それはムリ。福士……さんにはずっとオレと一緒にいてもらう」


 陸ははっきりと告げた。


 ◇ ◇ ◇


 迷惑系・女子の福士朱音が、陸に従っているのには、理由があった。


 それは昨夕、デリカフランでのこと。

 お守りの力で霊魂が正常化し、呆然としている朱音を助けたのが、陸と海斗だったからだ。


 どうして陸たちはそんなことをしたのか? と言えば、それは陸の直感によるもの。

 彼女に守りを押し付けたその瞬間、陸の脳裏に「破滅の黒幕は彼女では?」と、閃きが走ったのだ。


 ともあれ、そういう恩があったからこそ、今のところは彼女も大人しく従ってくれていたのだけれど……


 ◇ ◇ ◇


「あのさ。スマホやめてくんない? 今オレ、結構大事な話してたんだけど」


 陸は朱音の態度にムッとした。


 彼女、さっきからずっとスマホをいじりっぱなしで、こっちを見ようともしない。


 助けた意味あんのかな? ――あくまでも黒幕の可能性を見極めるのためではあったけど、これだけ自分勝手だと腹も立つと言うもの。


 陸は鏡を取り出すと、朱音に向けた。


 映し出された彼女の像は、昨日と違って揺らいでいる感じはない。なら、霊魂自体は正常化しているはずなのだけど。


「シュオン」


「は?」


「福士じゃなくてシュオンでいいよ。あ。朱音って呼んだらいくらりってぃ・・・・でもオコだから」


「はあ……え? りってぃ?」


 病は治るが癖は治らぬ――昔の人は良くも言ったもの。陸はそんなことわざを思い出した。

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