第26.4話 四日目。夕方。デリカフレ(元川薙駅)(四)
それにしてもこの騒ぎ、一向に収まる気配が見えてこない。
見てるだけでも嫌な気持ちになるし、さっさと終わらせて戻ろう。
陸は迷惑系・女子の背後に回り込むと、タイミングを計った。そして――
「っし。今――」
「待った」
「――ぐえっ!?」
飛び出そうとした瞬間をジャストで襟首を引っ張られた陸。
「ちょ、なにすん――」
誰だよ! 怒った陸。
すると、そこにいたのはなんと
「あのさ。あそこにいる女子ってもしかして
「――だ、って……え? 福島?」
「福士。隣のクラスの」
「ま? でもそんなことなんで知ってんの?」
「だってあの人、入学前からパパ活やってたのバレて停学食らったとか、結構有名だよ?」
逆になんで知らないの? と、海斗。
そう言われても、実は陸、隣のクラスどころか自分のクラスメイトだってろくに知らないのだ。
入学早々ぼっち――じゃなくて、孤高キャラになったことがこんな形で響くなんて。
「え? じゃ、どうしよ? 小宮山君、やる?」
すっかり弱気の虫が鳴き出した陸は、海斗に丸投げするつもりになった。
この場において適任なのはどちらなのかもそうだけど、さっきの「ぐえっ!?」で、陸の
「ぼくはやらないよ。陸君さっきいいって言ったでしょ?」
「や。でも小宮山君の知ってる人なら、小宮山君がやった方が――」
「いや陸君だって知ってるじゃん」
――同じ高校の同じ学年だし。今教えたし。と、海斗。
「う、う~ん……」
陸は渋った。
こっちは向こうのことを知っていても、向こうはこっちのことなんか知らないのだ。
しかも、こっちだって「知ってる」と言えるほど知っているわけでもないし。
「んん……でもなあ……やっぱりなー」
陸はどうしてもその気になれなかった。
所詮は人見知りのへたれ。一度勢いが削がれてしまうと、たちまちこんな調子だ。
「じゃあぼくが手伝ってあげよう。ぼくが合図出すから、そしたら行ってみよ?」
「え? ええ~? ……や。それは……ええ~?」
それが一体なんの役に? そんなことするぐらいなら、もう交代してくれればいいのに。
ありがた迷惑な海斗に、陸は余計に尻込みした。
けれど海斗は、陸の気持ちを確認もせずに一人準備を整えると、
「はい決まり。じゃあ行くよ。サン、ニイ、イチ――」
「え? え!? ええ!?」
勝手にキューを出そうとするメガネに、陸は慌てた。
◇ ◇ ◇
「サン、ニイ、イチ――今!」
「あ、あのっ! ちょっといいすか?」
一方的に、しかも物理的にお尻を押してきた海斗に、陸はその場から飛び出した。けれど――
「――て、言ったら行くんだよ」
「ええっ!?」
いまさら告げられた、これがリハーサルだと言う事実に、急ブレーキの陸。
今そんなの求めてない。てか、じゃあなんで今お尻押したの? 陸は海斗を
「あの。お客様、なにか?」
「あっれー? アナタたしか、神社のトコの――?」
店員と迷惑系・女子、二人の視線がこちらに集まっていた。
「いや……ええと……」
変な注目を浴びて、まごまごするしかない陸。
今の陸に必要だったのは、お尻を押してくれる人なんかじゃなくて、
なのに海斗があんなことをするものだから、その気がよみがえる前に飛び出しちゃって……
「フレーフレー」
背後から海斗の無責任な応援が聞こえた。
うるさいよ。彼にはやらかしてくれた自覚がないのか? とにかく裏切り腐れメガネ野郎に、恨み節の陸。
まさか海斗がこんなやつだとは思わなかった。やっぱり自分は
「ほら。
陽キャみたいに
彼女、陸がなにをするつもりなのかと、その様子を見守っている。
「あ」
そうだ。自分が今こんなことしてるのは、ひまりに破滅の話を信じてもらうため。
証拠もなしに「破滅がー」とか「奇稲田がー」とか説明しても信じてもらえなかった。
だから、氷室の、奇稲田の力を見せることで、彼女に自分の話を信じてもらおうとしたのだ。
「え? なんです?」
「あー、えと……なんて言ったらいいのか……とにかくコレ、お守りなんすけど……」
「は? そんなの見れば分かりますけど?」
「ん~、つまり……これがすね……ああもう何でもいいや! とにかく! アナタもいい加減迷惑なんで! これ! 受け取って!」
色々面倒臭くなった陸は、問答無用で迷惑系・女子にお守りを押し付けた。
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