第26.2話 四日目。夕方。デリカフレ(元川薙駅)(二)

「なにやってんだあいつ?」


「どうしたの?」


 咲久さくからの怪文章に、りくが眉をひそめると、ひまりが尋ねてきた。


「あ……えと。これ、なんすけど……」


 ちょっと迷ってから、テーブルにスマホを置いた陸。


 こんなメッセージ送ってくるなんて、咲久はなにを考えてるんだろう?

 でも咲久の先輩のひまりなら、意味が分かるかも知れないし。


「あら。咲久からじゃなかったの」


「へ?」


 ひまりの言葉に、陸はもう一度スマホを見た。すると相手の名前のところに「庶民派くー様」とあって、


「誰?」


 陸はまた首をかしげた。


 どうせ咲久だろうと思って確認もせずに画面を開いたけれど、自分の知り合いには庶民派どころか庶民しかいないのだ。だから勿論くー様なんて人知るはずもなく。


「あ。既読……」


 やっちまった。陸は、苦い顔をした。

 得体の知れない相手なんか、しばらく無視してからブロック。が、彼の基本パターンなのだ。けど既読を付けてしまった以上、その手も使いにくくなるわけで。


「ふふ、どうせならなにか返してみたら?」


 陸が困っていると、完全に他人事のひまりが、そんなことを提案した。


「でもなんて?」


「そのぐらい自分で考えなさいよ」


 自分から言い出したくせに意地の悪いことを言うひまりにますます困った陸。


 本当はこのまま無視したい。

 けど、せっかく仲直りしたばかりのひまりの意見を無視するのもちょっと。


 陸は悩んだ末に、指を動かし始めた。


┏━━━               ━━━┓


                すみません

            相手間違えてますよ


┗━━━               ━━━┛


「なによそれ?」


「い、いいじゃないすか別に」


 あまりにもつまらない返信に、笑うひまりと、赤面する陸。


 すると、すぐに相手から返信が来て、


┏━━━               ━━━┓


  いいえ


  間違いてないです


  違う


  間違いた


  いや


  これも違う


  間違えた


  間違えてない


  です


┗━━━               ━━━┛


を間違えたって言いたいみたいだけど……慣れてないのかしら?」


「ああ」


 ひまりの分析に納得した陸。


 彼女言う通り、庶民派くー様とやらは操作に慣れてないのか、妙にぎこちない文ばかりが送られてくるのが気になるところ。


┏━━━               ━━━┓


                すみません

   でもこっちはあなたのこと知らないです

            宛先確認しました?


  もろちん


  あなたは陸ですよね


  酷い


  いつも

  あんなに

  良くしてあげてるのに


┗━━━               ━━━┛


「あ。改行覚えたみたいすね」


「貴方ねえ。今はそんなことよりも、いつも良くしてるって方に注目しなさいよ」


「ん?」


 言われた陸は目を向けた。


 あ、ホントだ。いつも良くして、だって。でも誰だろう?


┏━━━               ━━━┓


  あまやって


                  はい?


  違う


  あやまって


  あたしのこと知らないとか

  ちょっと傷付きました

  謝ってくれたりしませんかね


┗━━━               ━━━┛


「なんだかちょっと面倒な人みたいね」


「うう~ん」


 苦笑するひまりに、陸はもう唸るしかなかった。


 この面倒臭さ。誰かに似ている気がするのだけど、それが誰なのか思い出せない。


 いつも良くしてもらってると言えば咲久か、さもなければ小宮山君ぐらいのもの。だけど、この性格じゃちょっとどちらにも当てまりそうにない。


 すると――


 ◇ ◇ ◇


「あの、お客様。お会計前の商品には直接手を触れないよう……」


「はあ~? お金はちゃんと払うしなにか問題ありますー?」


 そんなやり取りが聞こえてきたのは、その時だった。


「ん? あ」


 騒ぎのする方を見て、すぐに呆れた陸。


 さっきむすひで好き放題してくれた迷惑系・女子だ。


 彼女、ついさっきひまりにやり込められたばかりだと言うのに、まだあんなことを。

 今度は会計前のパンをかじるとか、なにが面白いのかさっぱりな企画を実行しているらしい。




「はぁ……ホントいい加減にしてほしいわ」


「っすね」


 陸はひまりに心底同意した。


 今回はただの客として居合わせただけだから無理に矢面に立つ必要はないけど、ああいうのは見ているだけで……いや。存在していると思うだけで不愉快なのだ。


 だから、できればここは一つ、店員さんにバシッと決めてもらいたいところなのだけど――


┏━━━               ━━━┓


  何ぼさっとしてるの。


  早く行って


  お店の人を助けておやりなさいって。


┗━━━               ━━━┛


「は? え!?」


 見計らったように飛んできたメッセージに、陸は目を剥いた。


┏━━━               ━━━┓


  大丈夫だって。


  あたしもついてるし、

  陸にはとっておきのあれもあるでしょ?


  あれを使えば、

  まあまあ


  きっと


  たぶん?


  少しは上手くいくはずだし。


┗━━━               ━━━┛


「え? え? え?」


 もしかして近くにいる? と言うか、店の人を助けるって? とっておき?


 いっぺんに大量の新情報が入ってきて混乱する陸。

 しかし、そうしていると彼の脳裏に、ふと昨夜の出来事が思い浮かんできて……

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