第25.3話 四日目。午後。むすひ(三)
「証拠ならあるわよ」
背後からの声に
「あ……ひまちゃん先輩ぃ……」
「ひま……長谷センパイ」
「何やってんのよまったく」
他人の迷惑を顧みないカップルへの憤りと、頼りにならない陸への失望をあらわにした彼女。ツカツカと小気味よい足音を連れて、こちらにやって来る。
「はあんっ!? んだテメエ
「アナタ誰です? あー。もしかして、まーたお仲間ですかー?」
新手の登場に、迷惑系カップルの――特に男子の方の鼻息が、いよいよ荒くなる。
「証拠ならあるわ。私、
けれどひまりは、自身のスマホをひょいと掲げると余裕そうに言った。
◇ ◇ ◇
「へえぇ? その中に証拠? それってホントですかねー?」
「ええ。貴方たちの犯行の瞬間、ばっちり撮れてるわ」
迷惑系・女子の
「でもそれってホントにホンモノですぅ? いくらなんでも都合よすぎじゃないですかぁ?」
けれど相手も強気だ。彼女、証拠なんてあるはずがないと確信しているのか、薄ら笑いを浮かべてひまりのことを見上げている。
「私がウソを吐いてると? だったらほら。見てみればいいわ」
ひまりはスマホを差し出した。スマホを覗き込む迷惑系・女子。と――
「あら」
ひまりは、画面を見られる直前でスマホをひょいと取り上げていた。
「は? どー言うつもりです?」
「一つ言い忘れてたけど……」
ギリギリでのお預けにイラっと来たらしい女子に、ひまりが微笑を浮かべて続ける。
「私ね、貴女たちがこの動画を見たら、威力業務妨害と強要の罪で貴女たちのことを告発するつもりなの。それでも構わないのなら見せるけど」
ひまりは最後に「フッ」と鼻で
「んだテメエ!?」
これに逆上したのは迷惑系・男子だった。彼、どうやら最後の「フッ」が気に入らなかったらしい。女子同士の駆け引きに割って入ってくる。
「キョーハクするつもりかテメエ!?」
「
「っンだっラァ!? よこせっ!」
迷惑系・男子はひまりのスマホに手を伸ばした。
けれど、あらかじめ見越していたらしいひまり。簡単にひょいとかわすと、スマホをバッグにしまい込む。
「あら。今ので
ひまりは周囲に目を向けるように促した。
すると、他の席ではこの一件を途中から撮影しているらしい客の姿がチラホラと。
「これだけの人がいるんだもの。証拠も証人も事欠かないわ。で、どうするの?」
「……っ! チッ! やってられっか!」
完全にひまりにしてやられた男子は逃げ出した。
けれど彼の向かった先には、陸が立ちはだかっていて――
「どけっ!」
「うわっ」
突き飛ばされた陸。
けれど陸、剣道なんてやっていたおかげが、異様に体幹が強くて……
「あ」
「ブっヒェッ!?」
見事なまでに、
「あ! や。すんません。別にわざととかじゃないんすけど……」
そしてなぜか謝る陸。
どちらかと言えば突き飛ばされた自分の方が被害者なのに、これぞ小市民。へたれの
「クソっ! 憶えてやがれ!」
結局、迷惑系・男子は陸を無視して
◇ ◇ ◇
「ずいぶんいいお友だちを持ったのね。それで、貴女はどうするのかしら?」
迷惑系・男子の撃退に成功したひまりは、そのみっともない後ろ姿を微笑ましく見送ると、まだ居座り続けている迷惑系・女子に言った。
「見た感じだと、お友だちよりも貴女の方が罪が軽そうだったけど、実際には貴女が主犯なんでしょ?」
全部お見通しとばかりにひまり。
すると女子、ため息を一つ吐いて、
「あ~あ……はーい。降参しまーす」
彼女は諸手を上げて降参した。そして、
「今度もイケると思ったんだけどなー……でもまぁ、しょうがないっか~。
その言い草は、反省している人間のものではなかった。
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