第24話 四日目。午後。氷室神社。

 四日目。午後。氷室神社ひむろじんじゃ




「はぁ……」


 今日も今日とて御朱印ごしゅいんの記帳に精を出していたりくは、ふとした拍子に上の空になっていた。


「今……3時かあ……」


 ちらちらと時計を気にしては、そのたびに胃がキュッと縮む思いの陸。


 5時半にむすひで。――それが、咲久さくが取り付けてくれた約束だった。


 けれど陸、その時が近づけば近づくほどに不安と緊張で、なにも手に付かなくなってくる。


(ほれほれどした? 腑抜ふぬけた顔しおって? シャキッとするのじゃシャキッと! そんなんじゃと、なんのために約束を取り付けたのか分からなくなるではないか!)


 モヤモヤを抱えた陸の耳に、奇稲田くしなだの無責任な激励が届いてくる。


 奉仕中は、緊急時以外はしゃべらないって約束はどこに? こんなんでも一応は神様のくせに。しかも結構有名な神様のくせに、平気で約束を破ってくる。

 陸はそんな彼女にちょっとイライラし始めていた。




 連休もついに最終日となった今日。だいぶ落ち着いたとは言え、まだまだ人は多い。

 だからこんなふうにポーっとしていると、同僚どころか客からも白い目で見られてしまうのは確かなのだけど……


「とりゃああ……っせいっ!」


 奇稲田の言い方に、なにか来るもの・・・・・・・があった陸は、氷室の神印を必要以上にドンッとやった。


「四十八番、上がり。ちょっと顔洗ってきまーす」


 そして年配のお巫女さんに仕上がったばかりの御朱印帳を渡すと、次の御朱印帳を任される前に席を立ったのだった。

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