第23.2話 四日目。午前。むすひ(後編)
「――じゃあ、本当に触ろうとして触ったんじゃないのね?」
「はい。わざとじゃないけど当たっちゃって……センパイには本当に悪いことしたと思ってます」
昨日の痴漢事件について説明し終えた
「でもなんで
けれど陸は答えに困った。「実は、ひまりの機嫌が悪いのは
言えば「え!? リクってそういうの信じる系だったの!?」とかなるだろうし、「じゃなくて!」と、反論すれば、今度はなし崩し的に
どっちにしろオカルト成分が濃い。泥沼だ。
そもそも、陸はウソやごまかしが苦手なのだ。それができれば、最初からこんな展開にはなっていないわけで。
「……センパイ来年受験だし、お守りって人からもらう方が効果高いって言うし……」
「は?」
どうにか納得してもらおうとひねり出した言い訳に、咲久が眉をひそめた。
いくらひまりが
「で、本当は?」
「……オレ、センパイニ、何カ、プレゼント、シタカッタンデス」
もう一度チャンスをくれた咲久に、陸は心にもない理由を伝えた。
でもマズい。言葉が死んでいる。
これじゃまるでAI。いや。AIだって最近はもうちょっとマシなしゃべり方をする。
こんなウソついてると、ますます咲久を怒らせてしまうだけ。
けれど……
「あ。そう言う……」
けれど意外なことに咲久は納得した。
「あ、あはは……そっか。ごめんねぇ。わたし、そう言うの全然気付けない人で――」
気まずそうに視線を泳がせ始めた咲久。別に暑くもないのに手を
「ま、まあ事情は分かったし。そう言うことなら先輩にはわたしから説明しておいてあげるから、今度会ったら謝りなさいよ?」
なぜか上気し始めた咲久は、そそくさと席を立った。
◇ ◇ ◇
「あ、あのさ! ……できれば今日、センパイに謝りたいんだけど」
陸は逃げるように去る咲久を呼び止めた。
「えっ!? ……あー、明日じゃダメ?」
と、なにを勘違いしているのか、ちょっと困った咲久。
「や。明日はちょっと。絶対に今日じゃないと」
「……なんで?」
「え?」
咲久の質問に、今度は陸が困った。
明日じゃ遅い。彼女には、学校にいる間の護衛を頼みたいのだ。でもそんなことを、まさか本人に言えるわけがない。
「……か、覚悟が……鈍っちゃう?」
陸は苦しい理由を告げた。でもあながちウソでもない。
相手はただでさえ苦手なひまりなのだ。
その上、相手がおかんむりだと分かっているのに、それでも会おうだなんて、勢いにでも任せないとできるはずがない。
「……そう言えば今日、部活あったような気するし……うん。帰りにこっち寄ってもらえるか聞いてみる」
ちょっと嫌そうだった咲久は、それでも最後には
◇ ◇ ◇
「はあ……」
一人席に残された陸は、ぐったりと天井を仰ぎ見ていた。
(予想外の局面じゃったな。しかしよう乗り越えた。わらわ感動した。
「そりゃどうも」
大して嬉しくもない賛辞を適当に流して、ぼーっと考える。
なんかすげえ疲れた。もう帰って寝たい。でもできないんだよな。今日、奉仕あるし。
でもセンパイ、今日部活なのか……あれ? でもだったらなんで、サクは部活行ってないんだ? 行けよ。同じ部活なんだろ?
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