#26
ついうっかり昨日よりさらに寝過ごす格好となってしまい、またもや
まだたったの二回目の朝なのに、すでに自宅のように勝手知ったる調子の三人と朝の準備を整えて学校へと向かう。
三人の美少女が転入してきて二日程度では、当たり前だがまだまだ話題と噂が落ち着くことなんてなかった。
そんな何もしなくても注目を集めてしまう最中に、うすうす懸念していた通りの恐れていた問題が発生したのは体育の授業中だった。
体育の授業は男女に分かれて隣のクラスとの合同で行われるのだが、俺と
体育館内を分割して男子はバスケを、女子はバレーボールを試合形式で行う授業だった。
普段であれば軽く流す程度の、ともすればダラダラと形だけ試合をしている体で行われるのが常だったが、今日の男子はやたらと静かに盛り上がっていた。もちろん試合に対してではない。
噂の美少女転入生がいるからだ。しかも二人も、だ。
いかに格好良いプレーを見せることで目立ってアピールするか、態度には出さないものの静かな闘志を燃やしているのだ。
試合待機中の話し声が耳に入り、華詩子さん狙いと梓さん狙いの男子は概ね半数ずつらしいことがわかった。ものすごくどうでもいい。
男子はバスケの試合なので、必然的にシュートをいかに格好良く決めるかに重点が置かれた。
じつに浅はかではあったがパスカットやリバウンドを何度決めるよりも、シュートでゴールネットを揺らす方がはるかにわかりやすいし目立つのは明らかなのだ。
結果として男子全員がチームプレーを忘れ、いかに自分が多くシュートを放つかに終始してしまい小学校低学年のボール遊びのようになっていた。
絶対に無理な距離からのスリーポイントや到底届きもしないダンクに挑むなど惨憺たる状況が繰り返された。
しかし、そんな男子たちの甲斐甲斐しいアピール合戦も虚しく、多くの女子たちの視線を釘付けにしていたのは誰あろう梓さんだった。
コートでプレーしている梓さんの姿はお世辞抜きに生き生きとしていて輝いていた。
おそらくバレーボール経験があるのだろう、素人の俺の目から見てもごく単純に上手いのだ。
バレー部に所属する女子たちでさえ目を奪われる実力なうえに、それでいてバレー部員のような本気さを滲ませることもなく笑顔で汗を流す姿は、純粋に試合を楽しんでおり見ているこちらに元気を振りまくようだった。
決して大柄ではないのに、しなやかに動き、舞い上がるように高くジャンプして放つアタックは矢のように鋭い。攻守を問わずとにかく大活躍だった。
そして男子の視線を縫い付けるように虜にする最大の理由があった。
俊敏に飛んだり跳ねたりするたびに大きな胸が魅惑的に揺れ動き、ひるがえる体操着からはチラリとお腹が覗き、なんとも健康的な魅力を無自覚に振りまいているからだ。
甲高くホイッスルが響き渡り、本日何度目かわからない梓さんのアタックが決まった。
――対戦チームの華詩子さんの足元に。
「きゃー、
「バレーやってたの!? てか、バレー部の子たちよりすごいよっ!」
チームの女子たちが梓さんを取り囲んで黄色い歓声を上げている。梓さんは謙遜しながら頭を掻いている様子だったが、俺は気が付いていることがあった。
どうやら梓さんのアタックは寸分違わず全て華詩子さんを狙っているのだ。
まるで精密機械のように、絶妙に華詩子さんが取りにくい足元を狙って打ち込まれていた。
そんな執拗なアタックに対して華詩子さんはきちんと反応していた。
ただ反応してはいるのだが単純に球技が苦手なのだろう、いくら反応はしても身体が追い付いてこないため手が出ずボールに触れられないのだ。
「さあ、次のセットも一気に奪っちゃおう!」
「鷲見さんがいれば余裕だよっ!」
和気藹々と盛り上がっている梓さんのチームに対して、
「……だ、大丈夫だよ
「……あれは相手が悪いよ、だってプロみたいだもん」
「……け、怪我だけはしないようにがんばろ?」
などと顔面蒼白で立ち尽くす華詩子さんを元気付けようと、お通夜のような雰囲気が漂っていた。
はっきりいって華詩子さんと梓さんの二人がバレーで競い合う必要なんてない。
どっちが勝とうが負けようが、これは体育の授業でしかないのだ。
人には得手不得手というものがあるし俺だって球技はまるで得意ではない。
しかし華詩子さんの鈍くささはなかなか目を見張るものがあった。
決して運動神経が悪いわけではない。その証拠に俺の目の前で見せたナイフ捌きは、その殺気も相まって尋常ではなかった。
ただルールを伴うスポーツ、特に球技に至っては恐ろしいほど下手くそなのだ。同じく球技が得意ではない俺だからこそわかる。
身体の反応速度に対して、ルールのせいで動きに制約を受けてしまい、理屈が先行してしまって結果身体が動かないのだ。
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