第32話 太陽を取り戻そう
自分に無いものを私たちは日々食べている。考えてみるとそうなのだ。自分を食べているという光景は描けないか、ちょっと怖い映像になってしまいがちである。
私たちは自分以外のものを食べることで、生命を繋いで生きている。それはこれまでの出会いの中で見てきたとおり、実際の食料としての食べ物がまずあって、毎日私たちは食事という形で体内に取り入れている。それは母親の胎内にいる時から始まっている。栄養を受け取って子宮の中で育ってきた。
最初は静まりかえったような状態の卵だった私たちは精子がやって来て受精し、何らかのエネルギーが働いて動き出し始める。
細胞分裂ということが起き続けていき、太古からの宇宙をトレースするように不明瞭な形のものから徐々にお魚のようになり、やがて最終形態である人型へと変容していくことになる。地球にいる誰もが同じ経験をしている。
母体の中で母親が摂取した食べ物の栄養を受け取って子宮という小宇宙の中で育っていく時間を体験する。この地球に居る人のほとんどがそういう母体内での経験をして生れて、やがてこの地球に足を着けて生活している。
母親の子宮から飛び出して地上に生れた私たちは、外に出たようであって、母親のお腹というひとつ目の中から外に出ただけである。
そこは今度は母なる大地である大地母神、ビナーのお腹の中という風景だったのだ。だがそうとは思えない、見えていない私たちが社会を見て、当り前にその風景の中を生きていく。意識の世界、生命の樹の世界から見ていくなら、社会で生きている私たちは大地母神のビナーのお腹の中、子宮の中に住んでいるというのだ。
これはもうひとつ外側へと出て行くことでさらに生れるという構図になっていることに気が付く。
私たちは、地球の母親の子宮の中で育ち生れ出て、そのまま今度はビナーの母の子宮の中で育てられている最中であると仮定してみよう。
ここから生まれ出るということは、ビナーの子宮から出るということ。それはものの世界のみに生きることを卒業し、もっと広い世界へと出て行くことなのだろう。私たちは守られて育ち、やがて外側へと生まれ出ることになるという体験をもうしてきているので、それが繰り返されていくのだと思うと面白い。
物質の世界、ものの世界の、この地球という星のひとつ外側にあるのは太陽系である。生命の樹が四段あるという仮定の中で見ていくと、それは上から三段目の生命の樹のことである。四段目の一番下にある生命の樹は、この地球のこと。物質的、肉体的、感覚的な世界のことだ。
この肉体のある地球上での体験そのものが、次に生まれ出ていくための私たちの食料となるだろう。地上でのその経験から必要な栄養素を取りだし吸収していく。捨てるもの、排泄して置いていくものもあるだろう。
そう考えるならば、私たちの地球での経験は、次に「生まれる」ための成長期間ということになる。母なるビナーの子宮の中で、今もまさに育っている最中なのだ。
ビナーは地球でのあらゆる物質的なものの雛形、設計図を持つとされている。たくさんのまるで悪夢のようなものでさえその子宮の中で体験することだってあるだろう。ゆりかごのように守られゆっくりと眠っていることもあるだろう。地球社会での体験は、大変なことも、怖いことも、楽しいことも嬉しいこともあるだろう。それは実の肉親である母親の子宮の中でも体験していたことなのだ、おそらくは。
地球で育ち続けている大人達、私たちは、大地の母、ビナーの子供なのである。
地球上の肉親である母親の子宮の中では、約十月十日の時が刻まれていく。地球での母であるビナーの子宮の中では、長くて百年という寿命の時が与えられている。私たちはその滞在期間の間、何を食べてどこまで育って十月十日の状態を迎えるのだろうか。その時が次の広い世界へと飛び出して行く時となる。
次の世界へと生れるのだ。
もちろん地上に生れた時のようなエピソードが付いてまわることも想像できる。十月十日よりも早く生れる人もいるだろうし、病や早産などの危険を体験する人もいるだろう。また、長く胎内に滞在してなかなか生れない人もいるだろう。
生まれ出る環境だって様々なはずだ。一人づつそれは違っている。そこには個人の物語がある。それは時に一生を左右さえすることもある。
もともと地球に生れる前には宇宙にいた、ということを仮にイメージしてみる。
そうすると宇宙でも何かの栄養分を食べていたであろうことが想像出来る。
私たちは母の胎内でも食べて成長し、やがて生れたあとも環境の中にあるものを食べていく。食べ続け、排泄し続けていく中で、ステージを変えて次の新しさへと生れていく、というようなお話が見えてくる。この場合の新しさとは、遠い昔に知っていた宇宙ということだろう。縁のある場所へと帰っていくかのようなお話である。
占星術もタロットも生命の樹も、それらを内包している九分割という理論の世界観も、私たちという存在が今ここに居る地球人として名前の付いた私というひとつの人生の持ち主であるだけでは無い、もっと大きな存在である可能性を伝えてくれている。
私たちは私たちが知っている以上にさらに大きな存在である、その可能性を秘めている。可能性であって、誰もがも目視できるような社会的事実にはならない。物質的な世界を重視している私たちの現代の文明、社会においてはわざわざ外されてしまっている世界があるのだ。
それが、見えないという世界である。しかしそれは単に怖いというだけの世界であるはずも無く、実際にはこころの世界であり、行間を読む力であったり、風の音に何かを受け取る発見や気付きのある日常だったり、人の言葉の奥にあるものを見抜いたり、人が言っていることと実際の動きとの差異を静かに見ている眼であったりもするだろう。
忘却してしまっているだけで、実際には在る、存在しているのがそういう意味での見えない世界であろうとNANAは考えていた。
この物質的なものや具体性、実際性を重んじすぎている現代の社会では、見える答えこそが正しいという扱いを受けやすい。それを多くの人たちで共有できることも重用とされている。
そのような社会の中で、私たちは未来を作っていかなくてはならない。未来の可能性を感じられないままに作らなくてはいけないと思わされる場合もある。
だからこそ、自分よりもより輝いている人に近付きたくなる。夢を見る。手を伸ばせば自分にも訪れるかもしれないと思い込むことだってある。
しかし時間の経過と共に多くの場合やって来るのは落胆なのだろう。
どうしていけばいいのか、どうしたらいいのか、教えてくれる場所が無い、という体験をする人も少なくないだろう。だからこそ、目の前に現れた一つの出会いに執着したりこだわり続けたりすることもある。二度と出会うことが無いかもしれないのだから。
太陽とは私たちの生活の中においての実感としては、何かを起こし続けている人であったり、活躍している人、そう見える人のことの場合が多いだろう。私たちの社会がそこに価値を置きすぎているからだと思われる。
社会の中でのことを占星術で見ていく時、その人の出生図の中にある太陽の星座が示しているものは職業的なことを表わすものとしても見ていく。太陽は社会的な象徴としては、父親であったり、夫であったり、ボス的な存在のこととして見ていく場合もある。この社会の中においての権威や地位なども象徴する。
太陽は、人生を創造していく力のことである。自らの意思による創造性の発揮ということである。待ちの状態では無く自らが意識的に創造することを意志することで、環境から必要なものを引き寄せるということに繋がっていく。太陽はまだ此処に無いものを生み出していこうとするのだ。
占星術では、月が過去であるなら、太陽は私たちの未来を意味する。
そのような太陽になりたいから太陽を食べたくなる。
あの太陽に成り代わりたいから太陽を食べたくなる。
月を重視して太陽を潰したいから太陽を食べたくなる。
8つの物語の中に登場している大人達も、これらの思いが食べたいという衝動の中に存在していると思われた。
太陽を欲しがる私たち人間は、外側に欲しいものを見ることから始まっている。やがてはそれになりたいが、すぐにそれになれそうに無い。
女性の場合は男性に太陽を投影してしまうことも少なくないとされてきている。父親や夫、尊敬する男性という形でそれを経験することになる。投影してきたものは、自らが使うべく、足りないものがあると気が付いたタイミングから取り戻すという経験をしていく必要がある。
どうしていいのか全くわからないという中では、取り急ぎ眼前の太陽の形や型を借りるが、そのうち自分の身体にフィットしないことがわかってくる。
自分という存在を型に当てはめようとして、合わないことを見せつけられる。すでにあった誰かの型にではなく、自分が何をしたいか、どうしたいのか、ということから探していく必要のあることだったのだと気が付くことになるのだろう。
ひとりひとりの旅が始まる。
自分の人生を何に向わせていくのか、それ職業とは限らない。むしろ余暇活動に中に存在しているものなのかもしれない。地上的な意味を持つ社会的役割に徹することとは違っているのだ。
年を重ねようが関係無いこと、身体が痛かろうが不自由だろうが、それを問題とはしないことになるだろう。どうあっても可能性を見出そうとし続けるのだ。
これは例えば、自発性を発揮していくことのトレーニングのようでもある。
母親の胎内から出て生まれた人が、やがてビナーの胎内から十月十日を過ごして生まれ出るのなら、それまでの地上の社会の常識の世界よりも、さらに広い大きな世界が私たちを待っていることになる。それもまたサイズの大きな常識の違っている、それまでの地上とは違った社会と呼ぶのだろう。
ここでもうひとつ、食べることにこだわっている話を思い出す。
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