第21話 太陽を食べたがる8つの物語の大人達⑦

 太陽は、タロットでは「19・太陽」として登場する。

 この「19・太陽」のタロットカードの絵の中には2人の子供が居る。その二人の上空には太陽が輝いている。この二人の子供が手を結び、協力するという関係になると、ステージが一段上がって上空にある太陽になる、とされている。

 宇宙からやって来たであろう私たちが多くのことを忘却しながら地球を生き、そして何らかのきっかけで再び宇宙を取り戻していこうとした時、その導きとなるのがタロットであるということをNANAは学んでいる。その世界観からの「19・太陽」のタロットの意味のひとつである。

 街中でのタロット占いのカードの意味とは違っているが、それは目的の違いでもある。地上を生きる私たちは、地上生活で欲しいものがあり、知りたいことがあり、悩んでいることにおいての答えが欲しいという位置から質問することが多い。その地上的範疇でタロット占いが機能することになる。だが、本来はさらに大きな意味を持っているのがタロットであり、そこに宇宙が現れる。地球に来たとか宇宙に帰るとか、そういう話にもなっていく。


 「19・太陽」の話に戻る。並んでいるこの二人の子供たちは、同じ子供では無い。一人には尻尾があるのだが、それは地上の子供では無いということを意味しているのだ。もう一人の子供は地球社会を生きている人格の物質世界の今の自分自身である。だから地上由来であるということはわかりやすい。


 尻尾のある子供は、非物質の存在であり、地上的には見えない子供であり、それは見えている物質よりもより軽い、エーテル体としての子供なのだ。これをツインと呼んだり、地球に入っていく段階でお別れした、やがて再び出会う存在である、自らの片割れともいう。


 私という存在は、この物質世界の地球の社会的な私という存在のみで出来上がっているわけでは無いということをタロットの世界は教えてくれている。私たちは「物質的な肉体」の自分と「非物質的な意識」の自分との両方の側面を実は持っているのだ。大きくは異なる二つのそれぞれの常識の世界に私という存在があるのだということを知って生きるのとそうでないのとでは人生の質感は大きく違ったものになるだろう。本来の私たちの生命の形は、今の自分が考えるよりもっと大きい。


 地上由来の私という位置に居る自分という存在に呑み込まれて、私たちは日常を生きている。その自覚さえ無いことが多い。私は私であって、それ以外には無いと信じ込んで生きていることが多いのだ。この現代社会においては、昔々は当り前だったという常識を教えてくれる存在は少ない。幾世代かの中で知恵が薄らいでいった。そんなことを教えてくれる人は誰も居ない、と感じている人もいるだろう。実際には、現代ではその知識や知恵を持っている存在たちは地球上に点在しているが、その出会いは縁が繋ぐ。繋いでいく。見えない約束とでもいうようなものに導かれて出会うことになっていることが多いと思われる。その出会いへのきっかけは「望む意思」の発揮である。


 太陽は己自身が太陽という意識状態に成る日を、戻ってくる日を気長に待っているのかもしれない。

 社会的人格の、この自分が自分であると認識出来る私という存在と、もう一人の尻尾のある形無き存在の自分という自覚など到底出来ないような存在としての私と、この二つがお互いの存在を受け入れる時がやって来た時に、私という存在はようやく一つの「太陽」という存在になるのだと言われている。


 それは時と場所に限られたこの地上を生きながらにして、時と場所に括られることの無い、自由にそれらを移動することの可能な自分自身の登場である。空に見えている物理的な太陽とは違っているのだ。


 私たちの多くは、まだそれについて多くのことを知らないという場合が多い。何しろ、自ずから自分の本性を求めての旅をし始めていくつもの難関を乗り越えた挙げ句の果てにやって来る課題、というように終わりなき精神の旅が待っているのだから。


 物好きの道楽とも、精神修行とも、気がおかしくなったのだとも、どのようにでも周囲から言われる可能性は普通にある。ただただ止むに止まれず自分のルーツを求めて旅をする者たにとっては、それも笑い話にしかならないだろう。地上生活において、端から理解されることなど求めてはいない。

 同じ道を歩もうとしている者や、すでに遠き星に到着してしまった者たちからすれば、当然のことであり何ら違和感の無い話である。そんなに日常をNANAは歩いていた。




 ④強い獲得欲求と敗北への怖れ


 会社経営をしているW氏は三十代前半。女性でありつつ男性的なエネルギーの強い人だった。W氏は、社会では小さな会社を大きな会社が飲み込んでいくのだと話していた。自分が飲み込まれないようにするために必要なことというのを意識していた。それは販売戦略だけでは無く、新商品の着眼点や開発力にあると話していた。特許であるとか、特別なものを持っていることが重要だと考え、常に開発のことで頭の中はいっぱいなのだと言っていた。飲み込まれるのでは無くの飲み込み続けていくことを想像し、自分の仕事を大きくしていくことをネライ続けているのがW氏だった。社会というのは小さなものは吸収合併していく、されていく。だからこそ大きくなることを良いこととして目指し、日々奮闘していた。


 W氏は、仕事が出来れば出来るほど、それは素晴らしく、価値のあることなのだと話していた。横並びでは無く突出していることが重要であり、常に意識をターゲットに向けていて、日々が戦いでもあった。それはまるで常に狩りに行くかのようでもあった。


「じっとしていられないんです」


「はい。じっと……ですか?」


「はい。特に仕事では当り前ですが、家に居るときに居ても立っても居られなくなるっていいますか……私は意味が欲しいんです」


「意味、ですか?」


「ええ、意味です。家に居ると、何もしていないような気がしてくるんです」


「あまりにもこの今回の世界の動きが止まってしまったかのような、感染症による世界の変化で家に居ることも増えたのですが、どうにも耐えられなくて。今はもう動き出していて大丈夫ということで世界も動いていますよね。やれやれなんです。ですが。家に居るということ自体がそんなに自分にとってはストレスなのかということを自覚してしまいまして……それもそれでどうしたものかと」


「家族は家に居て、普通です。ですが私は、家の中に居ると、何していいかわからないんです。思い付かないっていいますか。家事とか考えてみても、それは私がすることじゃ無いだろうって、そう思ってしまって、実際やらないんですよね」


「Wさんがやることじゃないなって、ご自身で思うわけですね?」


「ええ、はい。なんて言いますか。正直に言いますと、こんなことに意味あるのかって思ってる自分がいるというか……。」


「家事全般に? ですか?」


「掃除、洗濯、料理から片付け、何から何までです。やっていると残念な気持ちになってしまうんです。もっと重要なことがあるんだって。それは自分がやっている仕事ということになるのですが。だから休むっていうことの方が苦痛ってことなんですよね」


「では通常の家のことは他の方が?」


「そうです。父や母、姉妹が同居していますので、私以外の人たちがやっているという状況です。町内のこともですね」


「で、Wさんは仕事に集中しているとも言えるわけですね?」


「言えなくは無いと思いますが、でも、家族からは家のことを考えてほしいというようなことは言われたりしますので、そういう印象なんです。いつも好きなことやっていて、勝手だなっていわれている感じなので、理解はされていません」


「そうなんですね。会社の方が忙しいとか、普通以上に稼いでいるということに関しては、ご家族はそのように?」


「そこは当り前なんです。好きなことを勝手にやっていて、それが仕事っていうものであって、でも家事をやらない、家のことをやらない私は放り出しているとか、逃げているとか、そういう扱いというか認識に近いような感じだと思います。どうしてもわかってくれないので、もうそれぞれ勝手にやってるっていうか諦めているような感じではあるんですが、それで、家の中には落ち着いて居られないっていうか、むしろ他の家族の皆ももっと意味のある仕事しようってどうして思わないんだろうって不思議なんですね。そんなやってもやらなくても誰からも喜ばれないような、感謝もされないようなことばかりに時間をかけているなんて、私には考えられないんです……」


 Wさんの発言は少しずつ熱を帯びてきていた。


 NANAはWさんの言っていた「意味」という言葉を思い出していた。


「意味が欲しいんです」


 実際にはWさんが口にしたのは、一回きり。しかそれは音として聞こえて来ないだけである。しかし彼女の話を聞いていると、何度も何度もそう言い続けているように聞こえてくるのだ。それは重要なひと言のように思えた。


(そして、ご本人が欲しい、とおっしゃっているのですから。それを)


 







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